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岩清水梓選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の出産・子育て 知ってほしかった「復帰の個人差」 出産後に変わったモチベーション

岩清水梓選手、刊行に関わったスペシャリストたちを取材し、改めて知った偉大な選手の人となり

「素直な感想をたくさんいただけて嬉しかったです。」

岩清水梓選手は著書の反響について笑顔で話しました。出産・子育てエッセイ『ぼくのママはプロサッカー選手  岩清水梓の出産と子育てのはなし』が刊行されました。岩清水選手の出産と子育て、そして「職場復帰」が軽快な文章とビジュアルで記録されています。

岩清水梓選手はFIFA女子ワールドカップ ドイツ2011の全6試合に出場した優勝の立役者 写真提供:WEリーグ

チームメイトにも明かしていなかった秘話が詰まった本

岩清水選手が所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザはスタメン平均年齢が約21歳のときもある若いチームです。

「チームメイトには出産や子育ての詳しい話をしていなかったので『マジ、イワシさん凄すぎ』みたいな言葉をもらいます。嬉しい反面、恥ずかしい感じもありますね。」

トレーニング中にチームメイトと意見を交わす岩清水梓選手(東京NB)

妊娠がわかり所属チームでの活動から離れた岩清水選手を待っていたのは32時間の難産でした。「産休」を発表した際に現役続行を宣言していたものの、再び公式戦に出場するまでに840日を要しました。例えば、アメリカ女子代表のジュリー・アーツ選手が出産を経てアメリカ女子代表に復帰(国際試合に出場)したのは「611日ぶり」ですから、岩清水選手にはかなりのご苦労があったはずです。筆者は、そのことがずっと気になっていました。

この記事では「ネタバレ」を極力避けています。記事を読んでから本を読むか、本を読んでから記事を読むか、順序は「人それぞれ」。いずれにしても、『ぼくのママはプロサッカー選手  岩清水梓の出産と子育てのはなし』という素晴らしい本と、岩清水梓というサッカー界の新時代を切り拓いた女子サッカー選手に興味を持っていただければと思います。

テキストとビジュアルが融合し優れた「作品」を生み出した原動力は岩清水選手への「リスペクト」と「共感」

岩清水選手のお話を紹介する前に、刊行に関わったスペシャリストたちの声をご紹介します。岩清水選手の挑戦に共感する仲間が、いわば「チーム岩清水」として結集しています。

装丁を担当したデザイナーの鈴木彩子さん、撮影したフォトグラファーの佐野美樹さん

書店に平積みされた『ぼくのママはプロサッカー選手  岩清水梓の出産と子育てのはなし』はとても目立ちます。サッカーコーナーに置かれた他の本とは装丁(デザイン)のテイストが明らかに異なるからです。

アクセントになっているのは、赤い手書き風文字の「じゃない!」と「カメラ目線の岩清水選手の写真」です。

装丁を担当したのは鈴木彩子さん。グラフィックやエディトリアルの領域で幅広く活躍するデザイナーで、サッカー本の装丁の第一人者です。「じゃない!」は鈴木さんにとって、重要な共感ワードだったようです。

「職種は違いますけが、私も出産後、仕事に復帰するまでかなり苦労しました。だから、この出産=引退『じゃない!』に、すごく親近感を持っていて強い気持ちでデザインさせていただきました。」

表紙の写真は、いくつかの案の中から、岩清水選手によって採用されました。よみうりランドにあるヴェルディグラウンドで撮影されたものです。

「表紙には岩清水選手とフォトグラファーの佐野美樹さんの信頼関係が色濃く出ていると思います。」

鈴木さんは、そう話します。

佐野美樹さんの撮影した写真 提供:小学館クリエイティブ

佐野さんは、妊娠中の岩清水選手も撮影していました。そして、その時々の出来事をテキストや音声データで残してきました。これらの貴重な記録がなければ、この本は生まれませんでした。表紙に収まる岩清水選手は母の表情ですが、その視線の向こうには、常に寄り添ってきた佐野さんの存在を感じます。

日テレ・東京ヴェルディベレーザの協力により村松智子選手、植木理子選手も登場。尽力した日テレ・東京ヴェルディベレーザ強化部女子担当の竹中百合さん

撮影や打ち合わせをする場所の提供、主将・村松智子選手の取材協力に尽力されたのは日テレ・東京ヴェルディベレーザ強化部女子担当の竹中百合さん。Jリーグの立ち上げ期から30年以上も「緑一筋」に勤務する「ベレーザの母」です。岩清水選手を陰で支え続けた重要人物の一人でもあります。

「(植木)理子が帰国してクラブハウスに立ち寄ることがわかったときは、すぐに出版社に連絡して取材の時間を作ってもらいました。」

竹中さんの熱意あふれるサポートが、この本の内容に、より奥行きを加えました。

厳しいトレーニングを繰り返し復帰を実現した岩清水梓選手(東京NB)

サッカー愛が深い株式会社 小学館クリエイティブの寺澤薫さん

最後にご紹介するスペシャリストは株式会社 小学館クリエイティブの寺澤薫さんです。サッカーメディア出身。現在は書籍企画部で書籍の企画、編集を担当しています。自身のお子さんの年齢が岩清水選手のお子さんと近く、岩清水選手の経験には共感する部分が多かったと話します。

「アスリートの話だけれど、ひとりの働くお母さんの話でもあるところが面白いと思いました。スポーツをされていない女性でも、キャリアと出産に関する迷いやモヤモヤを抱えている人は多くいらっしゃると思います。そういった方々が岩清水選手の生き方から勇気をもらってくれたり、なにかヒントを感じてくれたら嬉しいです。日本の女子サッカー選手の代表ともいえる岩清水選手が、この書籍をきっかけに、それまで女子サッカーと関わりがなかった人の目にも触れることで、WEリーグやなでしこジャパンに興味を持ってくれたらさらに嬉しいですね。」

読む人によって受け止め方に違いが出るのが面白い

筆者は、出産後に復帰するまでのご苦労「Chapter.4 “職場復帰への道」が、この本の山場だと思って読みました。しかし、読む人の興味関心やパーソナリティによって感じ方が異なるのが、この本の面白さだと寺澤さんは教えてくれました。

「サッカーをお好きな方は『Chapter.4 “職場復帰への道』に食いついてくださるようです。子育てをされている方は『Chapter.5 仕事と子育て』に反応してくださることが多いです。『Chapter.2報告、そして産休』は、これからのキャリアについて悩みを抱えている方に興味を持っていただいています。 Chapterにより違った楽しみ方をできる本になっていますね。」

株式会社 小学館クリエイティブ 寺澤薫さん

岩清水選手らしさを感じる「手軽に読めるし、どこから読んでも良い本」

よみうりランドにある日テレ・東京ヴェルディベレーザのクラブハウスを訪ねると、予定よりも早く岩清水選手が現れました。岩清水選手は、どんなときでもにこやかに取材者と接してくれます。まずは、この本の特徴を教えてくれました。

日テレ・東京ヴェルディベレーザのクラブハウス

「私自身、あまり長い時間の読書が得意じゃない。さらに、育児をしているとサッカーの中継すらも長時間、続けて見ることができません。だから、短編集みたいな構成にしたいと思っていました。手軽に読めるし、どこから読んでも良い本になっていると思います。」

(残り 2210文字/全文: 5574文字)

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