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WEリーグ年内最終戦 吉田莉胡選手がスターの証明 ちふれASエルフェン埼玉の激しいサッカーへの対応苦しんだAC長野パルセイロ・レディース #女子サカマガ WEリーグ ピックアップ(無料記事) 

一対一の攻防に迫力。ちふれASエルフェン埼玉は運動量を最後まで落とさず持ち味を出し続けた 

AC長野パルセイロ・レディースの廣瀬龍監督は、試合後の会見で、がっくりと肩を落とし試合を振り返りました。この試合は順位を争う相手との「勝ちたかったゲーム」。しかし、あまり良さを出すことができませんでした。 

「リズムが出ない。ボール保持者と受け手の関係が全く噛み合っていない今年の締めくくりでした。残念な結果に終わってしまいました。」 

年末も押し迫った2023年12月30日に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われたWEリーグ第7節、ちふれASエルフェン埼玉とAC長野パルセイロ・レディースの対戦は1−0でちふれASエルフェン埼玉が勝利しました。ちふれASエルフェン埼玉はエース、主将、背番号10の吉田莉胡選手が41分に得点。そのまま逃げ切りました。 

中位を争う両チームですが、この試合に限っては、ちふれASエルフェン埼玉が一枚上手だったようです。監督・選手の試合後のコメントから見ていきます。 

ゴールに迫る吉田莉胡選手(EL埼玉)。90分間を通して強度の高い競り合いが続いた好ゲームだった。 写真提供:WEリーグ  TOP画像も

審判歴28年のレジェンド副審・高橋早織さんが引退 

試合内容に踏み込む前に、この試合の審判団について触れておきましょう。キックオフ直前、スタジアムDJの舘谷春香から、副審の高橋早織さんが、この試合で引退されるというアナウンスがありました。副審の引退がアナウンスされるのは珍しいこと。ちふれASエルフェン埼玉のホームゲームらしい心遣いでした。 

高橋早織さんのために集まった審判仲間 写真提供:WEリーグ

主審・一木千広さんによる試合終了のホイッスルがスタジアムに響くと髙橋さんの目に光るものがあったようです。メインスタンドから髙橋さんに大きな拍手が起きました。その際、一際目を引いたのは、メインスタンド中央に陣取り、応援グッズを手に総立ちでフィールドから去る髙橋さんに声援を送った集団です。プロフェッショナルレフリー・山下良美さん、日本サッカー協会の審判インストラクター・深野悦子さんをはじめ、審判仲間が髙橋さんの応援に駆けつけたのです。女子サッカーのファミリー感が印象的なシーンでした。 

髙橋さんは2022−23 WEリーグアウォーズで新設された最優秀副審賞を受賞。日本屈指の経験豊富な審判員で、過去には国際女子副審として、A F C女子アジアカップ中国2010決勝戦、FIFA女子ワールドカップドイツ2011、ロンドンオリンピック等に参加されています。この日も迷いなく、はっきりとオフサイド判定をされていました。これまでお疲れ様でした。 

 

2022−23 WEリーグアウォーズで髙橋さんが最優秀副審賞を受賞された際の記事です 

副審だから見えるWEリーグ上位3チームのすごさ 2022−23 WEリーグアウォーズ最優秀副審賞 髙橋早織さん

 

持ち味のビルドアップと、ハイプレスを出せなかったAC長野パルセイロ・レディース 

交代出場の三谷沙也加選手。試合の流れを変えるまでには至らなかった選手交代 

三谷沙也加選手は64分にピッチ上に入りました。前半に思うようなサッカーを展開できなかったAC長野パルセイロ・レディースはハーフタイムに3人の選手を交代。さらに、選手交代で局面の打開を図ったのです。三谷は、出場するまでのベンチでの時間を含め、どのように試合展開を見ていたのでしょうか。 

「相手は簡単に前に運んでセカンドボールから攻撃する形でした。自分たちもそこに対応して落ち着いてビルドアップから攻撃していこうと臨んだのですが、なかなか自分たちの流れにできず、シュートまで持っていくことができませんでした。」 

2023−24 WEリーグカップで2023−24 WEリーグカップでINAC神戸レオネッサに勝利し、今シーズンは上昇気流に乗るかに見えたAC長野パルセイロ・レディースですが、12月は1分2敗で終わりました。ちふれASエルフェン埼玉の出方に、やや戸惑いを感じながら時計の針は進み続けました。 

「自分たちがカップ戦から積み上げてきたものを、リーグ戦の最初の頃はできた部分もあったのですが、対戦相手もシステム的に土台ができてくると、自分たちがやりたいサッカーがなかなかできなくなってきました。試合を重ねるごとに、どんどん難しくなってきたことを正直感じています。自分たちもステップアップして、自分たちらしいビルドアップと、ハイプレスではめるところを出していきたいです。」 

奮闘する三谷沙也加選手(AC長野) 写真提供:WEリーグ

強い強度への対応力に課題 

AC長野パルセイロ・レディースは縦に速い攻撃を有していますが、この日の縦パスは、ちふれASエルフェン埼玉のディフェンスラインの裏に浮き玉で送り込むものが目立ちました。これは狙いだったのでしょうか。廣瀬監督に聞いてみました。 

「前半は、前にパスを出せず後ろに下げるパターンで、だんだんとリズムを失っていきました。後半は、そのあたりを修正するために選手を入れ替えてみたのですが、結局、プレッシャーをかけられ、その場しのぎで前方にフィードしてしまったのが現状です。」 

複数得点を奪えなかったものの、ほぼ狙い通りのやり方で勝利したちふれASエルフェン埼玉 

両チームの選手と監督の話を聞いてみると、どうやら、ちふれASエルフェン埼玉の選手の配置がAC長野パルセイロ・レディースの予想と違っていたようだということがわかってきました。それが、AC長野パルセイロ・レディースの戸惑いにつながっています。 今シーズンは主に4バックで戦ってきたちふれASエルフェン埼玉の選手の配置は3バックだった……のでしょうか。

エース・吉田莉胡選手は今シーズンのリーグ戦初得点

ちふれASエルフェン埼玉の池谷孝監督は、吉田選手について「本当にサッカーが好きで、サッカーの世界に入り込んでいるタイプの人間」だと評し、キャプテンにふさわしいと考えています。一対一の場面で逃げずにチャレンジし、相手を交わしてシュートすることを第一に目指す。その姿勢がファン・サポーターをワクワクさせ声援を集めています。決勝点を決めた吉田選手に聞きました。 

「今日は5−2−3のシステムでやりました。前の3枚で、相手の最終ラインの4枚に、プレッシャーを前から積極的にかけていく共通認識でやりました。」 

AC長野パルセイロ・レディースの4枚のディフェンダーとゴールキーパーの合計5人に対して、ちふれASエルフェン埼玉の3人でパスコースを限定して追い込んでいく守備の連携がデザインされており、AC長野パルセイロ・レディースは自陣でのパスミスを頻繁に引き起こしました。 

そして、得点は美しいパスワークから生まれました。外に流れながら縦パスを受けた園田悠奈選手がヒールパス。走り込んだ吉田選手がディフェンダーと競り合いながらゴールゲット。園田選手の「落としが完璧」で吉田選手は「トラップを良いところに置けた」と話します。 

エース、主将、背番号10……さらに、吉田選手にはスター選手の香りが漂ってくるようになりました。スタンドには背番号10のグッズ、ゲートフラッグが目立ちます。 

「そんな、スターとかじゃないんで……『ちふれのエースは吉田だ』と言われる結果をもっと出さなきゃいけないです。そうしたら、もっと自分とチームを応援してくれる人が増えると思います。もっと結果にこだわってやっていきたいです。」

吉田選手の目指すプレーは、今よりもっと高いところにあります。 

得点し天を指差す吉田莉胡選手 写真提供:WEリーグ

プレーぶりから自信が滲み出る大沼歩加選手 

ちふれASエルフェン埼玉の一対一の守備は強気です。前線の守備でコースを限定できているため、構えて待って止めるよりもボールを奪うためのチャレンジを優先する姿勢が目立ちます。特に、その素晴らしさを表現しているのが大沼歩加選手です。AC長野パルセイロ・レディースの川船暁海選手との攻防は見応えがありました。大沼選手は2023年2月に途中加入。昨シーズン後半の出場試合は0。今シーズンは5試合に出場し最終ラインの要となった選手です。 

強さとしなやかさを感じる大沼歩加選手(EL埼玉) 写真提供:WEリーグ

「2023年、最後の試合を勝って終わりたい気持ちが強かったです。無失点で勝ち切れて本当に嬉しい。良い年を越せそうだと思います。一対一のところは自信を持ってやっているのですが、今日は、やられる場合も多かったですし、全然、満足できていないです。もっと厳しく、一対一を全部勝つくらいの気持ちでやらなきゃいけないと思いました。」 

大沼選手の魅力は一対一の守備の強さだけではありません。鋭い縦パスや相手のディフェンスラインの裏を狙ったフィードもチームの武器となっています。 

「池谷さんからは『背後を狙う意識を常に持て』と言われています。縦バスを付けるべきところと背後を狙うべきところとを自分で判断しチャンスメイクしていきたいと思っています。」 

パスの預けどころとして重責を担い続けた園田悠奈選手(EL埼玉) 写真提供:WEリーグ

思いを胸に2024年へ 

ちふれASエルフェン埼玉は華麗な攻撃を展開するチームではありません。しかし、激しい守備を持ち味に、奪ったボールを素早く前線に送り、エースが美しく決めるサッカーをできるようになってきました。 

関係者によると、800人程度と見込まれていた入場者数は蓋を開けてみれば1千122人でした。満足な数字ではありませんが、少年チーム・少女チーム単位の団体入場もなく、年末の試合当日に、ここまで入場者数が増える地力を身につけてきたといえます。ウィンターブレイク明けに飛躍の可能性を秘めています。そして、2024年1月14日(日)には皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会の準々決勝で日テレ・東京ヴェルディベレーザと対戦します。 

一方、AC長野パルセイロ・レディースはウィンターブレイク期間を活用して立て直しを図ります。準備は着々と進みます。2023−24 WEリーグは混戦模様です。 

(2023年12月30日 石井和裕) 

 

ピッチ上とはちょっと違う大沼選手のインタビュー記事 

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