WE Love 女子サッカーマガジン

副審だから見えるWEリーグ上位3チームのすごさ 2022−23 WEリーグアウォーズ最優秀副審賞 髙橋早織さん

写真提供:WEリーグ

2022−23 WEリーグアウォーズでは最優秀主審賞と最優秀副審賞が新設されました。最優秀副審賞を受賞されたのが髙橋早織さんです。髙橋さんは2022−23 YogiboWEリーグで副審を15試合、主審を5試合の合計20試合を担当されました。日本では屈指の経験豊富な審判員で、過去には国際女子副審として、A F C女子アジアカップ中国2010決勝戦、FIFA女子ワールドカップドイツ2011、ロンドンオリンピック等に参加されています。

最近、Jリーグのコンテンツを通して主審を務める審判員のお話を聞く機会が増えました。審判の判定に対する理解が進みました。しかし、副審を務める審判員が、どのような視点でサッカーを見つめているのかを知る機会はほとんどありません。そこで、WE Love 女子サッカーマガジンでは髙橋さんにインタビュー取材をすることにしました。審判員になったきっかけ、WEリーグの素晴らしさ、上位3チームのすごさ、主審とは異なる副審の面白さ等をお話ししていただきました。読者の皆さんの知らなかった副審の世界が垣間見えるかもしれません。

アドバンテージを理解せずに審判をやっていた

髙橋私はソフトボールをやっていたのですが進学した高校にソフトボール部ありませんでした。先輩から「すぐに東北大会に出られるよ」と言われてサッカー部に入りました。それが私とサッカーとの付き合いの始まりです。当時は岩手県の高校に女子サッカーチームが2チームしかありませんでした。

大学に進学すると、今のフットサルの原型となったサロンフットボールの授業がありました。私は、一応、サッカーをやっていたので目立ったみたいですね。先生から「今度、審判講習会あるから行ってきて」と言われました。4級審判員資格をとったのは1995年です。

それから2年間くらいは何もしていなかったのですが、ある日、東京都サッカー協会の審判委員会から、皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会(当時・全日本女子サッカー選手権大会)の決勝戦で観戦研修を開催するお知らせをいただいたので見に行きました。

その時の感想はいかがでしたか?

髙橋「かっこいい人たちがいる!すごーい!」と思いました。私がそれまで接したことのない人たちでした。試合の後に審判員の方が私たちの席に来てくれました。そのとき(協会から)「これから試合の審判をやってみませんか?」というアンケートがあったので「はい」と記入して提出しました。すると、毎週、審判のアポイント(依頼)が来るようになりました。

でも、しばらくの間は笛を4回吹いて帰ってくるだけのレフリーでしたよ。キックオフ、前半終了。後半キックオフ、試合終了……それほど真剣にやろうと思ってなかったですから、競技規則も真面目に読まず、とりあえず何となくざっくりとした感じで審判をやっていました。

どこから審判としての取り組み方が変化したのですか?

髙橋今、『Jリーグジャッジリプレイ』に出演している深野悦子さん(日本サッカー協会審判インストラクター)と出会ったのが大きかったですね。よく顔を合わせるようになってサッカーの話をするようになりました。

そして、もう一つきっかけがあります。実は、3級審判員資格をとっても、それほど積極的にやっていなかったので、私はアドバンテージをよく理解できませんでした。文章に書いてあることはなんとなくわかっているけれど腑に落ちていない感じのままでした。ところが、ある試合で主審をやっているときにファウルで笛を吹いたら、攻撃側の全選手が崩れ落ちたのです。「流してよー」と言われました。その瞬間に「これがアドバンテージなんだ」と理解しました。そして、レフリーが試合をコントロールしていくということも知りました。そのときのことは今でも鮮明に覚えています。レフリーをちゃんとやろうと、本当の意味で考えるようになったきっかけはそのシーンです。

安藤梢選手のひとことで知ったWEリーグの素晴らしさ

最優秀副審賞を受賞された2022−23 WEリーグアウォーズはいかがでしたか?

髙橋とても良い雰囲気でしたね。「選手やチームだけではなく皆でWEリーグを作っている」と、ものすごく感じました。控え室で受賞者全員が集合写真を撮影していました。せっかくなので私と最優秀主審賞の小泉(朝香)さんは撮る側にいました。すると安藤さんが「皆さん入ってください」と言ってくださって、一緒に撮影に参加しました。私たちは選手と顔見知りだったりはするのですが友達ではない。どこかで一線を引かなければならないと思い自制していたので、安藤さんに声をかけていただいたのは嬉しかったです。一緒に撮影できるのが今のWEリーグと2022−23 WEリーグアウォーズの空気感だと思います。終わった後に選手とお話ししたり記念撮影したり普段はできない経験をできました。私たちが思っただけではできないことで、選手の皆さん、チームの皆さんも同じように思っているからこそ出来たのだと思います。

髙橋さんは、国際試合やWEリーグ以外のリーグ戦も担当されてこられましたが、WEリーグの良さをどのように感じますか?

やっぱりフェアなところですね。基本的に乱闘がまず起きないですね。日本では揉め合いくらいまでは稀にありますが、それ以上のことは起きません。それは誇って良いと思います。

国際審判員をやらせていただいていた時代に、海外の試合を担当させていただいたのですが、当時の海外だと女子サッカーでも殴る蹴るがありました。信じられない位置に足があるとか、かかと落としみたいなこととか「えっ、そんなことできちゃうんだ」ということが起きるときもありました。「Jリーグジャッジリプレイなら全員が一発レッドと言うでしょ」と言えるくらいすごい力のタックルが止まらずに飛んでくることもありました。WEリーグでは、そのような反則はまずないですね。

MVPを受賞した安藤梢選手(浦和) 写真提供:WEリーグ

最優秀副審賞の受賞理由について、どのようにお考えですか?

髙橋一つ言えるのは、主審はフィールドの中にいるので嫌でも目に入ってくる。プレーが止まったときはレフリーに目が行く。でも、副審は厳密にいえばフィールドの外にいるので目に入りにくいということです。オフサイドギリギリの飛び出しを見極めても、ゴールラインの判定をしても、平面から見たら(判定の良し悪しは)わからないと思います。ですから、試合に向き合っている姿勢やサッカーに対する考えを見てもらえたことも受賞理由の一つなのだと思っています。

私はポジション的には副審1でベンチを背負う側に入ることも多いです。そうすると必然的にベンチコントロールのサポートに入ることがあるので、試合を成功に導くためにどうしたかを、うまく汲み取っていただいたのだと思います。

最優秀審判賞は、基本的に1人で主審であることが多いのですが、最優秀副審賞というカテゴリーを作っていただいたことが嬉しいです。私は冗談で「最優秀副審賞を目指して頑張る」と言ってきましたが、本当に自分が受賞できるとは全く想定してなかったです。そして、私の仲間たちが、私以上に喜んでくれたことが嬉しかったです。

副審から見て明らかに違うWEリーグ上位3チームのサッカー

髙橋チームのフィジカルは間違いなく上がったと思っています。

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