マイナビ仙台レディース連敗ストップ 日本の女子サッカーを躍動させるサイドアタッカー「遠藤」 #女子サカマガ WEリーグ ピックアップ(無料記事)
ノジマステラ神奈川相模原はサイドの攻防に苦しむ
晴天に恵まれた相模原ギオンスタジアムのピッチ上で、マイナビ仙台レディースの選手たちがはつらつとしたプレーを見せました。前半の攻勢で2得点。後半はノジマステラ神奈川相模原がゴール前に迫るシーンが増えましたが、90分間をトータルで見れば「マイナビ仙台レディースが快勝した試合」と言って良いでしょう。
特に、見応えがあったのはマイナビ仙台レディースの左サイド(ノジマステラ神奈川相模原の右サイド)の攻防です。第19回アジア競技大会(2022/杭州)日本女子代表 の榊原琴乃選手(ノジマステラ神奈川相模原)とマイナビ仙台レディースユース所属の遠藤ゆめ選手(マイナビ仙台レディース)の対決。そして、その背後から元なでしこジャパン(日本女子代表)の高平美憂選手(マイナビ仙台レディース)が飛び出してきます。
チーム全員の力で大事な一戦を勝利したマイナビ仙台レディース
夢が広がる大器・遠藤ゆめ選手
今、日本の女子サッカーで3人の「遠藤」が注目を集めています。なでしこジャパン(日本女子代表)のキープレーヤーとなったのは遠藤純選手(エンジェル・シティFC)。シュート、クロス、ドリブルの全てが一級品。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023で大活躍しました。三菱重工浦和レッズレディースの優勝の原動力となったのは遠藤優選手。ボールのないところで長い距離を駆け上がり、ぴたりとパスを受け素早くシュートを放つプレーが対戦相手の脅威となり続けました。そして、今シーズンは3人目の「遠藤」が躍動しています。遠藤ゆめ選手は、ここまで2023−24 WEリーグの全試合に先発出場。この試合で決めた19分の先制点は自身のWEリーグ初得点でした。
得点シーンについて質問すると「めっちゃ嬉しかったです」と明るい声が返ってきました。現在、高校生。2024年2月から正式加入する選手ですが、しっかりと相手の目を見て話す対応は年齢を感じさせません。
得点シーンでは、パスを受けた瞬間に周囲の選手から「ゴール!」と声がかかりました。そこには伏線があります。得点の少し前のプレーでも、ペナルティエリアの中で余裕を持ってボールを受けるシーンがありました。そのときの遠藤選手の選択は左足の外にボールを置いてゴールから遠ざかり、クロスを入れるプレーでした。その消極的なプレーが脳裏残っており、チームメイトの声にも後押しされて右足で鋭いシュートを思い切り打つことができました。ゴールネットに突き刺す鮮やかな得点でした。
フォワードを追い越すプレーで左サイドを制圧した高平美憂選手
遠藤選手の得点を呼び込んだパスは左のコーナー近く、相手陣の最も深い場所からポケットと呼ばれるハーフスペースへ正確に折り返されました。パスを出したのは左サイドバックでプレーした高平選手の左足です。この日、マイナビ仙台レディースは前半に5つのオフサイドがありました。それは悪いことではなく、積極性の表れでした。高平選手がコーナー近くに侵入したのも自陣からの距離の長いスルーパスによるもので、高平選手はトップの選手2人を追い越してディフェンスラインの裏のスペースに走り込みました。得点を確認すると高平選手は強く拳を握りました。
42分の得点も高平選手からのクロスでした。今度は美しく弧を描いたグラウンダーのアーリークロス。これも高平選手がディフェンスラインとの駆け引きから抜け出し、逆サイドから走り込んだ中嶋選手に左足で合わせました。会心の2アシストで高平選手はガッツポーズを繰り返しました。
「ずっとクロスでアシストしたいと思っていたので結果につながって良かったです。」
試合後に取材対応した高平選手は終始笑顔でした。ただ、一つだけ、キリリと引き締まった表情に変わり回答した質問がありました。試合前に須藤茂光監督からチーム全体にかけられた声のことです。
「『絶対に負けられない試合だ』という話が試合前にありました。相手チームも強い気持ちで来ると思うので、私たちも強い気持ちを持って行こうと話していました。皆、気持ちがこもっていたと思います。」
須藤監督は試合後の監督会見で、この試合の重要性が全選手に共有されていたことを話しました。
「下位争いをしている2チームの対戦なのでミーティングで『絶対に負けられないよ』と伝えました。選手は随所に、そういうところを出していたと思います。」
オフサイドの多い積極性が表現されたプレーになったのは、ノジマステラ神奈川相模原が前に人数をかけてくるチームなので背後を狙う共通認識ができていたからです。ディフェンスラインに生まれたギャップを利用しました。そして「私の特長は上下動を繰り返すこと」と話す高平選手をはじめ、全ての選手が労を惜しまず走りました。
勝ち星から遠ざかるノジマステラ神奈川相模原
前がかりの布陣を維持できなかった前半
ノジマステラ神奈川相模原は、この試合を終え2023−24 WEリーグの最下位。勝ち点1。ホームゲームは3連敗となりました。まだ、相模原ギオンスタジアムで無得点です。監督会見で菅野将晃監督は「今日のゲームは前半が全て。45分間を我々がパワーを持って迎えられなかった」と話しました。
ノジマステラ神奈川相模原は前からの守備でボールを奪うと持ち味を発揮できるチームです。しかし、この試合では前半に右サイドバックの井上陽菜選手がマイナビ仙台レディースの選手に近くに立たれた上に、右ミッドフィルダーの榊原琴乃選手の受け持つエリアに遠藤選手と高平選手が同時に侵入して立ち位置をとるため、どうしても重心が後ろにかかってしまう時間が目立ちました。最終ラインに5枚、または6枚が並び、その前のスペースでマイナビ仙台レディースの中盤や最終ラインの選手が比較的プレッシャーを受けずにプレーをする場面もありました。
菅野監督はハーフタイムに戦い方を変更し、後半はチャンスを増やしました。
「仙台の最終ラインと中盤のラインのバイタルエリアが空くのがわかりました。オケケ選手は、(前に)来るときは来るけれども来ないときは、すぐに(エリアの受け持ちを)離すのでバイタルエリアを使いたいと思いました。榊原と、交代で入った平田を中央に置き南野は引いて受ける。そこ攻略をして相手が中に絞ったときに両サイドバックで突こうという狙いでした。」
個性を出せるようになってきた榊原琴乃選手
試合後の榊原選手は、自分自身のプレーに手応えを感じながらも悔しさを滲ませていました。
「ハーフタイムにバイタルが空いているという指示があったので、そこに入ることを意識してプレーしました。(南野)ありさんが結構キープできると感じたので、後半の初めくらいから自分はポケットのスペースに走りました。中から縦に抜ける動きが後半は特に多かったと思っています。」
前半はマイナビ仙台レディースの攻撃に難しい対応を迫られました。
「スカウティングでも高平選手が上がって左上がりの布陣になってくるとわかっていて、自分が低い位置でプレーすることになると思っていました。(井上)ひなさんとも事前に話し合ってどうするかを決めていたのですが……。空いたスペースに仙台のボランチが上手く入って、そこから裏を突かれました。」
得点を奪う役割を担いながらも、素早く戻り守備の対応をしなければならない。攻撃の切り札となる若い選手ながら多くの役割を求められます。しかし「それは苦ではない」と話します。そして力強く誓いました。
「下がった低い位置からでも、いかに自分が攻撃参加できるかは、このチームのやりたいことだと思っているので走りきります!」
勝つための課題は多いですが、ノジマステラ神奈川相模原に上昇の可能性を感じたところもあります。移籍加入からリーグ戦6試合目にして、榊原選手が得意とするトリブルを頻繁に仕掛けるようになってきたところです。クロスバーに嫌われるシュートもありました。
「今日の自分の良かったところをもっと出し、ミスはしっかりと改善してチームと合わせていきたいと思っています。次はしっかりと決め切ります。」
次の試合は年明け開催
ノジマステラ神奈川相模原には厳しい試合結果となりました。マイナビ仙台レディースには嬉しい勝利となりました。2得点目をゴールに押し込んだ中島依美選手は気を引き締め、最初にバスに乗り込んで行きました。
「リーグ戦では連敗し、まだ1勝しかしていなかったので、今日、勝てたことはすごく良かったです。でも、相手の決定機に点が入らなかっただけで、本当に危ないシーンはたくさんあったので、チームとしてもっと修正していかないと上のチームには勝てないです。この試合の勝ちは喜んで良いのですが、リーグ戦はまだ続きます。自分たちは一つでも上に行くために、もっと戦えるチームにならなきゃいけないと思います。」
WEリーグはウィンターブレイクで大きく流れが変わります。戦術を修正するチームもあれば、大型補強をするチームもあります。ウィンターブレイク前の試合は、残すところ一つです。マイナビ仙台レディースは11位から9位に浮上しました。さらに連勝で中位進出を目指します。ノジマステラ神奈川相模原は建て直しのきっかけが欲しいところです。ノジマステラ神奈川相模原は次節、10位となったサンフレッチェ広島レジーナと対戦します。
(2023年12月23日 石井和裕)
こちらは先週の試合の記事です。
明日への力を探して 愛媛FCレディースの新星が一矢報いる一発勝負 マイナビ仙台レディースが辛くも逃げ切る 皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会