WE Love 女子サッカーマガジン

FIFA女子ワールドカップ放映権問題 勘違いしがちな女子サッカー11の視点

なでしこジャパン(日本女子代表)がニュージーランドに旅立つまで、あと約2週間となりました。ニュージーランド政府観光局は、FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023の開催まで1カ月となったことを記念し、地元の少女サッカー2チームを招待し、ニュージーランドの美しい大自然の中で親善試合「ビューティフル・ゲーム」を開催しました。自然保護局および土地の先住民であるマオリの人々と連携して実施したこのプロジェクトは、環境保護と持続可能性の原則を守り、環境に永続的な影響を与えることなく、試合後には自然の状態に復元することができました。

ビューティフル・ゲーム ©Brett Phibbs/Tourist New Zealand

一方、こちらは日本の女子サッカーの将来に大きな影響を与えるかもしれません。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023の国内テレビ中継(または配信)がいまだに決まっていない問題が大きなニュースになっています。WEリーグが、国内テレビ中継を目指してクラウドファンディングを行いたいと発表したのです。この予期せぬ発表により、これまで、開催自体があまり知られていなかったFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023が、一気に多くの人から注目を集めています。

ヨコハマ・フットボール映画祭2023でアメリカ女子代表のイコールペイをテーマにした映画『LFG』についてのトークステージに登壇したWEリーグ チェア 髙田春奈さん

しかし、話題が広がるにつれて、事実とは異なる情報、デマも目立つようになってきました。そこで、WE Love 女子サッカーマガジンでは「FIFA女子ワールドカップ放映権問題 勘違いしがちな11の視点」と題して、交錯する情報を整理します。今、何が問われ、何が不足しているのか、改めて考える一助になればと思います。そして、過去に掲載した記事も参考になりますので、併せてご覧ください。

FIFA女子ワールドカップ国内テレビ中継のためクラウドファンディング実施へ WEリーグ髙田チェアが突然の発表をした流れ 

<続報>FIFA女子ワールドカップ国内テレビ中継実現のためだけにクラウドファンディングを行いたい 髙田チェア「女子サッカーの盛り上げは自分たち(WEリーグ)の仕事」(無料記事)

1 FIFAは男女の放映権料を横並びにしたわけではない

FIFAは2026年大会、2027年の女子大会で男女の賞金を同額にしたいと考えています。テニスの全米オープンの賞金が男女同額になったのは1973年。サッカーにも、その時代が到来すると考えています。ただし、FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023では、まだ同額ではありません。そして、放映権料には大きな開きがあります。

F I F Aのインファンティーノ会長は放映権料を出し渋る放送局に対し「これはFIFA女子ワールドカップの偉大な選手たちや、世界中の全ての女性への平手打ちだ」と批判発言をしました。これは放映権料を男女で横並びにするという意味ではなく、FIFA女子ワールドカップの視聴数はFIFAワールドカップの50〜60%というデータがあるのにも関わらず、欧州5大国の放送局が提示した放映権料の当初案がFIFAワールドカップの5%から1%と、極端に低かったことが理由です。FIFA女子ワールドカップの放映権料が、本来の価値(FIFAワールドカップの50〜60%)と比べて不当に低く放送局に買い叩かれようとしているという解釈に基づいた批判でした。

2 放映権料は各国均一ではない

F I F Aの設定する放映権料は各国により異なります。理由は、各国により視聴者数(日本では視聴率)が異なるからです。そして、放映権の契約は国ごとになっています。アメリカの場合はテレビの英語放送の放映権を獲得した放送局と、スペイン語の放映権を獲得した放送局が異なります。移民が多いため多言語の社会となっており、複数のテレビ放送から別々の言語で放送される国となっています。F I F Aは日本には優勝の実績があることを金額設定の主張根拠の一つとしており、もしかすると、他の国よりも割高に感じやすい放映権料となっている可能性もあります。主要国で放映権問題が解決していないのは日本だけです。

3 FIFAは男女平等だけを主張しているわけではない

ジェンダー平等が主たる理由ではありません。適切な価値の評価を受けているかどうかが重要な争点です。平等というよりも「適切な市場価値」をFIFAは問いただしています。視聴者一人当たりのコストと考えたときに適切な価格かどうかに疑問が生じているのです。もし、「適切な市場価値」とならない理由が性別であれば、それは男女平等の問題ではありますが、もし、他の理由であってもFIFAは「適切な市場価値」を求めたでしょう。

4 放映権料だけのためにクラウドファンディングを準備している

2023年6月21日の「理事会後メディアブリーフィング」でWEリーグの髙田チェアは「お金をいただくのは、あくまでも国内での放送を実現するためです」と発言しました。クラウドファンディングの用途は純粋にFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023カップの放送実現だけに限定されます。女子サッカーを盛り上げるプロモーションやWEリーグへの協賛とは、はっきりと区別する考えです。

5 過去に高い視聴率を記録している

女子サッカーの中継は世界的に人気が上昇しています。例えば、FIFA女子ワールドカップ カナダ2015の決勝戦の中継が、アメリカのサッカーテレビ中継史上最高の視聴者数となりました。以前の記録はFIFA女子ワールドカップ アメリカ1999の決勝戦でした。そして、FIFA女子ワールドカップ フランス2019の決勝戦のテレビ放送とネット配信の視聴者数で再び記録を更新しました。アメリカのサッカー中継は、20世紀の時代から女子が男子を上回っています。

日本では、FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011の決勝戦で平均視聴率(フジテレビ系)が、午前5時から90分間の放送で21.8%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)となりました。これは、FIFA女子ワールドカップ カタール2022のドイツ代表戦(23.2%)に近い数字です。FIFA女子ワールドカップ カナダ2015の決勝戦の平均視聴率は17・2%でした。こちらも平日の早朝の放送であるのにも関わらず、2022年に例えれば『M-1グランプリ2022』(17.9%)とほぼ同じ視聴率です。

6 クラウドファンディングで放映権料の全額を賄おうとしているのではない

WEリーグは放映権料の全額をクラウドファンディングで賄おうとしているのではなく、F I F Aの求める放映権料と放送局の用意できる予算との差額をクラウドファンディングで埋めようとしています。

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