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20年前のアウェイの洗礼 「伝説の北朝鮮戦」が日本の女子サッカー界にもたらしたもの パリ行きを賭けなでしこジャパン(日本女子代表)メンバー発表

日本の女子サッカーの運命を変えるなでしこジャパン(日本女子代表)と朝鮮民主主義人民共和国(DPR KOREA)女子代表の戦い

2024年……「伝説の北朝鮮戦」から、今年でちょうど20年となりました。「10年ひと昔」として20年は「ふた昔」も前のこと。「伝説の北朝鮮戦」を戦ったメンバーで、今も選手として第一線でプレーしているのは安藤梢選手(三菱重工浦和レッズレディース)、荒川恵理子選手(ちふれASエルフェン埼玉)、永里優季選手(ヒューストン・ダッシュ)のみとなりました。

DPR KOREA女子代表と戦うなでしこジャパン(日本女子代表)メンバーが発表に

「伝説の北朝鮮戦」から20年の時を経て、なでしこジャパン(日本女子代表)は再び国立競技場でオリンピック出場を賭け、DPR KOREA女子代表と戦います。女子オリンピック サッカートーナメント パリ 2024最終予選は2024年2月24日(土)に第1戦、2月28日(水)に国立競技場で第2戦が行われます。2試合トータルで勝利したチームがパリへの切符を獲得します。アウェイゴールルールはなく、2試合トータルで同スコアの場合は延長戦、PK戦で決着をつけるルールと発表されました。

注目のメンバー発表に多くの取材陣が集まった

注目のインサイドハーフに上野真実選手(サンフレッチェ広島レジーナ)

この重要な試合を戦うメンバーが発表されました。注目されたのはインサイドハーフのポジションです。これまで選出されてきた猶本光選手(三菱重工浦和レッズレディース)と宮澤ひなた選手(マンチェスター・ユナイテッド)が怪我で戦列を離れているからです。二人は同じポジションです。

ここに選ばれたのは上野真実選手(サンフレッチェ広島レジーナ)です。池田太監督は、今シーズンの上野選手がWEリーグと皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権で活躍し「スコアをとっている」こと、そして、第19回アジア競技大会(2022/杭州)でDPR KOREA女子代表と対戦経験があることを選出の理由として挙げました。そして、同じく対戦経験のある千葉玲海菜選手(アイントラハト・フランクフルト)が起用される可能性もあります。

上野真実選手(サンフレッチェ広島レジーナ) 写真提供:WEリーグ

GK

山下 杏也加 (INAC神戸レオネッサ)
平尾 知佳 (アルビレックス新潟レディース)
田中 桃子 (日テレ・東京ヴェルディベレーザ)

 FP

熊谷 紗希 (ASローマ/イタリア)
田中 美南 (INAC神戸レオネッサ)
清水 梨紗 (ウェストハム・ユナイテッド/イングランド)
清家 貴子 (三菱重工浦和レッズレディース)
上野 真実 (サンフレッチェ広島レジーナ)
長谷川 唯 (マンチェスター・シティ/イングランド)
杉田 妃和 (ポートランド・ソーンズFC/アメリカ)
林 穂之香 (ウェストハム・ユナイテッド/イングランド)
南 萌華 (ASローマ/イタリア)
長野 風花 (リバプールFC/イングランド)
千葉 玲海菜 (アイントラハト・フランクフルト/ドイツ)
中嶋 淑乃 (サンフレッチェ広島レジーナ)
植木 理子 (ウェストハム・ユナイテッド/イングランド)
高橋 はな (三菱重工浦和レッズレディース)
遠藤 純 (エンジェル・シティFC/アメリカ)
石川 璃音 (三菱重工浦和レッズレディース)
藤野 あおば (日テレ・東京ヴェルディベレーザ)
谷川 萌々子 (FCローゼンゴート/スウェーデン)
古賀 塔子 (フェイエノールト/オランダ)

 トレーニングキャンプは2024年2月13日(火)から始まります。現在、WEリーグはウィンターブレイク。長時間のスケジュールを確保することができました。試合勘やコンディションが気になりますが、池田太監督は問題ないと考えています。

WEリーグの選手たちについては、コンディションを把握しながら一緒に整えていく時間があります。」

欧州でプレーする選手は週末の試合を終えてからトレーニングキャンプに合流、アメリカでプレーする選手は少し早く合流できる見込みです。

決戦に青いユニフォーム

どうなるアウェイゲームの開催地!?AFCからの連絡待ちに

2024年2月24日(土)にキム・イルソン・スタジアムで開催される予定だったアウェイゲーム(第1戦)の開催場所は白紙となりました。このメンバー発表会見の冒頭で日本サッカー協会 女子委員長の佐々木則夫さんが発表すると、会場内の報道陣から小さなざわめきが起こりました。

AFCは中立地開催を提案

第1戦の会場について、AFCは中立地開催を提案する通達をDPR KOREAサッカー協会に行いました。2月上旬に、そのことがAFCから日本サッカー協会に通知され、現在、開催地は決まっていません(AFCから開催日を変更する可能性の通知はない)。開催地検討のタイムリミットは明かされていません。また、現在、AFCとDPR KOREAサッカー協会でどのような折衝がおこなわれているについてAFCからの情報共有がないため、日本サッカー協会はAFCの決定を待ち、キム・イルソン・スタジアムでの開催も含め、あらゆる可能性に備えた準備を行っています。AFCはFIFAと連携をとっているとのこと。

AFCが中立地開催を提案した理由は、現在、DPR KOREAに入国するための定期航空便が運航していないこと、そして、競技運営の観点からも、不透明な点が多いためです。

かねてから、日本サッカー協会は試合会場や宿泊施設の情報を得られない状況であることをAFCに伝えていました。キム・イルソン・スタジアムは人工芝。真冬の開催ということもあり凍結する可能性があります。選手の安全確保のため、本来であれば視察を含めた入念な準備が必要ですが、これまで、ほとんど得られた情報はありません。ただし、日本サッカー協会はAFCに中立地開催を要請していません。

オリンピック出場を賭けたDPR KOREA女子代表戦では何が起こるかわかりません。現在、国立競技場で開催されるホームゲームのチケットが発売されていますが、日本サッカー協会によると「アウェイ側ゴール裏席のチケット売れ行きが好調」で「かなり埋まっている」とのことです。

語り継がれる「伝説の北朝鮮戦」とは

今年に入って、多くの女子サッカー関係者やベテラン・サポーターがアテネ大会の出場を決めたオリンピック予選「伝説の北朝鮮戦」のことを語るようになりました。日本サッカー協会が作成した試合の告知動画でも、冒頭に「伝説の北朝鮮戦」の先制点のシーンが盛り込まれています。20年も前の女子サッカーの試合が、ここまで大きく取り上げられることは他にありません。それくらい、この試合は「伝説」となっているのです。メンバー発表会見でも、佐々木さんが「伝説の北朝鮮戦」の大観衆について触れました。

「伝説の北朝鮮戦」で先制点を押し込み、一躍ヒロインとなった荒川恵理子選手は、後に、アテネ大会のことをこのように話しました。

オリンピックは、自分にとってはボーナス・ステージのような夢の大会でした。(予選最大のライバル)北朝鮮戦をみんなで勝って、ようやく(本大会に)辿り着きました。当時のことを思い出すと「チーム」を強く感じます。一体感がありました。

サッカーを続けていたから、今は14歳のときと同じように、胸を張って「サッカーが好き」と言えます 荒川恵理子選手(EL埼玉)

選手たちだけではなく、日本中が一体感を感じた試合でした。「伝説の北朝鮮戦」とは、どのような試合だったのでしょうか。

何が起きるかわからない状況になった今、過去に出版された書籍の一部を引用し、当事者の声から振り返ってみましょう。ざっと探しただけでも、私の手元にある書籍7冊が「伝説の北朝鮮戦」に触れていました。

冬の時代だった日本の女子サッカー

まず、この試合の重要性を理解するためには、当時の日本の女子サッカーの立ち位置を確認する必要があります。日本女子代表はアテネ大会の4年前、シドニー大会の出場権を失い、日本の女子サッカー界全体がどん底にいました。景気の後退と晴れ舞台の減少から女子サッカーを支える多くの企業が続々と離れ、たくさんのチームが縮小または活動停止に陥ったのです。Lリーグ(現・なでしこリーグ)は経費節減のために東西分割開催へ。スタジアムとは呼べない会場での試合開催も増えました。女子サッカーは冬の時代といわれていました。

女子サッカーが再浮上し生き残るため、絶対に負けられない一戦……何が何でもアテネ大会の出場権を獲得しなければなりません。しかし、日本女子代表は1991年に勝利して以来、10年以上もDPR KOREA女子代表に勝っていませんでした。そのため、日本サッカー協会は「伝説の北朝鮮戦」に向け必勝体制を敷き、年間約100日にも及ぶ代表合宿を組みます。そして迎えた2004年4月24日に30で圧勝したのでした。

あの日、筆者は旧国立競技場の電光掲示板の斜め下で選手たちに声援を贈った

澤穂希さんが振り返る「伝説の北朝鮮戦」

『ほまれ』(澤穂希 河出書房新社 2008年7月)には、「伝説の北朝鮮戦」がいかに困難な戦いと考えられていたかが描かれています。

過去の実績から考えると、日本の準決勝の相手は、北朝鮮が予想された。北朝鮮は中国とともにアジアの王者を争う強豪。私が代表に選ばれて以降、7試合戦ったが、1度も勝ったことがなかった。

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