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割り切りのINAC神戸レオネッサが真冬の女子サッカー決戦を勝利 振り切れなかった日テレ・東京ヴェルディベレーザ #女子サカマガ WEリーグ ピックアップ(無料記事) 

守屋都弥選手が一枚上手のポジショニングで決勝点。INAC神戸レオネッサが首位でウィンターブレイクを迎える 

2024年1月8日に味の素フィールド西が丘で行われた2023−24 WEリーグ 第7節、日テレ・東京ヴェルディベレーザとINAC神戸レオネッサの名門対決は、試合終了直前の90分に守屋都弥選手が得点。0−1でINAC神戸レオネッサが勝利しました。穏やかな天候に恵まれ、バックスタンドは、ほとんど空席が見えなくなる大入り。眩しい日差しの中で、ファン・サポーターは緊迫感の張り詰めた試合を見守りました。 

無敗決戦の勝負を分けたのは何か? 

INAC神戸レオネッサは無敗を守りました。日テレ・東京ヴェルディベレーザは、この試合が2023−24 WEリーグで初めての黒星。ただ、松田岳夫監督は、この試合を迎える前に、選手に「負けていないけど(勝ち点は)4勝2敗と同じだ」と話していました。是が非でも勝ち点3が欲しかったはずです。 

名門同士の力の入る一戦となった 写真提供:WEリーグ  TOP画像も

勝利したINAC神戸レオネッサのシュート数は7、日テレ・東京ヴェルディベレーザのシュート数は5。お互いにシュートを放てない試合展開となりました。今シーズンの日テレ・東京ヴェルディベレーザは前線からの積極的な守備でボールを奪い、手数をかけずにシュートを放つことで得点を重ねてきました。しかし、この試合では90分間を通して攻めあぐねました。 

4バックに見えて5バックのINAC神戸レオネッサは失点しない手堅いサッカーを続ける 

INAC神戸レオネッサの選手登録は4バックですが、実際は土光真代選手、三宅史織選手、竹重杏歌理選手の3バックで機能しており、両ワイドの選手が最終ラインに加わる5バックにもなります。5人が並ぶ最終ラインを崩すのは至難の業ですが、もしかすると、日テレ・東京ヴェルディベレーザが攻めあぐねた理由は、むしろ、INAC神戸レオネッサがポゼッションした際の対応にあったかもしれません。 

なぜ、INAC神戸レオネッサの最終ラインは余裕を持てたのか? 

INAC神戸レオネッサが自陣の中央でボールを失うことは少なかったです。無理なドリブル突破は避けますし、細かなパス交換も極力行わなかったように見えます。そして、日テレ・東京ヴェルディベレーザの選手が、INAC神戸レオネッサの最終ラインに対してボールを奪い取るような強いプレッシャーをかけることも、ほとんどありませんでした。 

その理由について、藤野あおば選手が話しました。 

「試合に入る前には2トップで追うか、自分とサイドハーフの3枚で追ってアンカーに(菅野)奏音さんががっちり守備をするという選択肢もありました。前線から行く積極性にはメリットがありますが、逆にこちらのサイドハーフの裏のスペースをやられる原因になります。本来なら『ベレーザならではの積極的な守備』をやりたかったのですが、今日の相手は3枚ともしっかりと相手を見てプレーできる。なので、前線は前の2枚で頑張って追おうと奏音さんと話し合って徹底したのですが、2枚で追うと(センターバックの2人に加えて)アンカーもいて守備のかけ方が定まらなかったです。おそらく(相手のパスコースを限定できないので)後ろの選手はパスがどこに出てくるかわからない中でプレスをかけなくてはならなかったと思います。」 

そのため、日テレ・東京ヴェルディベレーザは高い位置でボールを奪うことがなかなかできず、得意のショートカウンターを繰り出せるシーンが、あまりありませんでした。 

試合を決めた松原優菜選手の高いスキルと過信しない試合運び 

今シーズンのINAC神戸レオネッサはアンカーポジションに松原優菜選手が加わり、パス回しの柔軟性が増しました。ディフェンス能力の高さが注目を集める選手ですが、INAC神戸レオネッサの中では、プレッシャーがかかる状況でパスを受けても落ち着いてターンできる選手としても厚い信頼を得ています。松原選手がボールを持って前を向くことでチームに攻撃のスイッチが入ります。 

もし、双方からショートカウンターの応酬となれば、得点力ある選手を持つ日テレ・東京ヴェルディベレーザに勝機があったかもしれません。しかし、そのような展開になった時間帯はわずかでした。 

高い技術が光る松原優菜選手 写真提供:WEリーグ

INAC神戸レオネッサの右のワイドポジションでプレーする守屋選手は、日テレ・東京ヴェルディベレーザとの対戦の準備について教えてくれました。 

「プレッシャーに対する練習を今週の練習ではやってきました。(三宅)史織さんも(土光)真代もすごく落ち着いてボールを持てます。(松原)優菜がパスを受けても、無理せず後ろに下げて良いとチームで話してきいました。」 

そして、押し込まれた局面では、両ワイドの選手が下がって5バックの布陣になっているので、中央でパスの行き場を失っても、どちらかのサイドに逃げるパスコースを確保することができます。そのため、日テレ・東京ヴェルディベレーザは、中央の高い位置でボールを奪って得意のショートカウンターを仕掛けるチャンスを得ることができませんでした。 

なぜ、INAC神戸レオネッサは中盤の人数を減らして5バックにしても、個の能力が高い日テレ・東京ヴェルディベレーザと渡り合うことができるのか……それは、前線にロングボールへの対応に優れた髙瀬愛実選手と田中美南選手がいるからです。 

ベレーザ育ちを今も感じさせる土光真代選手の運ぶドリブル 写真提供:WEリーグ

本当はポジションのあるサッカーをやりたい。でも堅守を優先するジョルディ フェロン監督 

これには、もう少し補足が必要です。この日の会見の質疑応答で、INAC神戸レオネッサのジョルディ フェロン監督は、INAC神戸レオネッサが目指しているサッカーについて話しました。 

「フィジカル的に日本の選手はよく走ってくれます。攻守の入れ替えがすごく多いサッカーをしていると感じています。私は急いで攻撃をするのではなく、もう少しためがあり、ゆっくりと自分たちの攻撃を作っていけるようなサッカーをしたいと思っています。」 

ご記憶の読者も多いと思いますが、INAC神戸レオネッサはジョルディ フェロン監督就任直後の2023−24 WEリーグカップで攻守が噛み合わず苦戦しました。攻撃的なサッカーを目指し5試合で8失点。そのため、今は割り切って堅守のサッカーを貫いているのが現状のようです。2023−24 WEリーグでは第7節までの失点が3しかありません。 

「(今シーズンは)相手によって少し引いて守る試合もやりました。非常に素晴らしいゴールキーパーが後ろに控えているわけですし、そういったやり方も守備の安定につながっていると思います。先ほども言いましたように、オフェンシブなプレーをしたい『ポゼッションのあるサッカー』をチームとして求めていますし、今日の試合でも『ボールを握れ』と、選手には積極的に指示を出していました。」 

「ポゼッションのあるサッカー」の片鱗が、日テレ・東京ヴェルディベレーザにボールの奪いどころを定めさせませんでした。そして、ジョルディ フェロン監督の希望通り、左サイドからつないだパス……ポゼッションによって得点は生まれました。ボールが動く間に右サイドからゴール前に移動しパスを呼び込んだ守屋選手は振り返ります。 

「どフリーだったので(松原)優菜と目が合って良いボールを出してくれました。トラップが決まったのでちょっと緊張したのですが、流し込んで入って良かったです。」 

守屋都弥選手が90分に値千金の得点 写真提供:WEリーグ

若いチームゆえの脆さか?慎重に試合を進めた日テレ・東京ヴェルディベレーザ 

ショートカウンターの機会が少なかったとはいえ、日テレ・東京ヴェルディベレーザはリーグ屈指の攻撃力を持つチームです。なぜ、選手は本来の力を発揮できなかったのでしょうか。 

誘いに乗らないINAC神戸レオネッサ 

菅野奏音選手は日テレ・東京ヴェルディベレーザの攻撃の鍵を握る選手です。本来は、ボランチとしてスペースを見つけてパスを受け、前後の選手の連携をリンクさせるプレーが多いですが、この日は2トップのポジションで起用されました。  

「(藤野)あおばとツートップですけれど、自分がちょっと落ちて、起点になっていくことを意識して入りました。本当は落ち切らないところでパスを受けたかったのですが、落ちてしまい流動的にいかなかったので、攻撃の起点になれませんでした。相手の嫌な部分のディフェンスラインと中盤の間で、自分のところから(藤野)あおばにアシストすることが、今日は全然なかったと思います。」 

特に立ち上がりは、日テレ・東京ヴェルディベレーザがボール保持を長くしました。INAC神戸レオネッサがディフェンスラインを下げ、日テレ・東京ヴェルディベレーザは、ディフェンスラインの裏を狙うことができませんでした。菅野選手が落ちてパスを受けても、INAC神戸レオネッサの守備陣を前に誘き出すことができませんでした。そのため、日テレ・東京ヴェルディベレーザは守備ブロックの外でパスを回すことが多くなりました。松田岳夫監督は「相手の思う通りに守られてしまった」と悔やみます。 

試合後に話を聞くと、INAC神戸レオネッサが実質的に5バックの布陣となることは予想通りだったようです。松田監督は振り返ります。 

「1点を争うゲームになるということは想定していました。ただ、そのイメージが強すぎたためか、アグレッシブなプレーが少なくなり、どうしても確率の高いプレーを積み重ねるだけになってしまいました。怖さがないと思われても仕方ない展開になりました。」 

試合の流れを少しだけ変えた土方麻椰選手の思い切り良い攻撃 

土方麻椰選手は、早く出場したいという気持ちでベンチから試合を見ていました。 

「前線の選手と後ろ選手のコミュニケーションがあまり上手くいかず、守備に行けなかったり、ルーズボールが多い中で収められず中盤の戦いで負けてしまったり、また、奪い切ってカウンター入ってもフィニッシュまでは行けないシーンが多かったと感じていました。」 

土方選手は。こう着状態だった67分に交代出場。「自分がもっとドリブルで仕掛けてクロスやフィニッシュまで持っていく」と意識してピッチ上に入りました。ポジションは右のウイング。タッチライン際をドリブル突破してクロスを入れるだけではなく、ペナンルティエリアに侵入してゴールに迫ることも試みました。 

出場直後に背後から二度にわたり手で捕まれかけたのを振り切り突破する、土方選手の強引なプレーから日テレ・東京ヴェルディベレーザの攻勢が始まりました。あの時間帯は、確かに日テレ・東京ヴェルディベレーザの攻撃のアクセルが踏み込まれました。 

「ほぼファーストプレーで力強く行くということでチームに勢いをもたらす気持ちを持ってピッチに入ったので、そこは良かったと思います。」 

土方選手のプレーが、少しばかり試合の流れを変えたことから、やはり、この試合の日テレ・東京ヴェルディベレーザには強引さが足りなかったのではないかと感じます。たくさんの取材陣に囲まれ「自分が点を決めたかったです。申し訳ないと思っています。」と話す藤野選手の負担が重すぎるように見えます。  

日テレ・東京ヴェルディベレーザはウィンターブレイク明けの巻き返しを誓う 

戦い方を割り切り堅守を維持することで首位を守ったINAC神戸レオネッサ。大崩れすることがない安定した戦いを披露しました。 

逆に、日テレ・東京ヴェルディベレーザは慎重に試合を進めすぎました。ゴールに迫る思い切った手段に振り切れなかった印象です。日テレ・東京ヴェルディベレーザ側から見れば、あの5バックのパスルートをインターセプトする手立てを準備することはできなかったのか?2トップの布陣は正解だったのか?ボールを保持したINAC神戸レオネッサをもっと前に誘き出すことはできなかったのか?……さまざまな勝敗の分かれ目を空想することができます。 

日テレ・東京ヴェルディベレーザは、ウィンターブレイク明けに巻き返すことができるのでしょうか。日テレ・東京ヴェルディベレーザは、この冬に「ゴールに迫る迫力」と「自分で得点を奪い取るマインド」を持った2人のストライカーを補強しました。WEリーグではプレーしたことがない未知数の選手です。シーズン途中からの加入ですぐに機能するかは分かりません。しかし、トレーニングを重ねる中でチーム全体の成長速度の加速を促すことは間違えありません。ここからは時の流れとチームの成長速度の競争となります。首位との勝ち点は5。ただ、WEリーグは短期決戦です。残された試合は15試合しかありません。 

(2024年1月9日 石井和裕)

日テレ・東京ヴェルディベレーザの次の試合は皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会です。

藤野あおば選手はボールを運びながら考えた「打たないならFWで試合に出ない方が良い」 日テレ・東京ヴェルディベレーザが逆転勝利 皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会 

 

 

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