藤野あおば選手はボールを運びながら考えた「打たないならFWで試合に出ない方が良い」 日テレ・東京ヴェルディベレーザが逆転勝利 皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会
日テレ・東京ヴェルディベレーザ2−1スフィーダ世田谷FC
皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会、本大会に出場したのは各リーグ及び、9地域協会から選出された48チーム。その中で優勝を経験したチームは4つしかありません。そして45回の大会の約35%となる16 回の優勝を誇るのが日テレ・東京ヴェルディベレーザです。
皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会で日テレ・東京ヴェルディベレーザは変貌する
前回の第44回大会は「リーグ戦からスタイルを大きく変えながら挑んだ」(公式プログラムに掲載された木下桃香選手の表現)ことで、伝統的な中央突破のパスワークに頼らない新しいベレーザのサッカーを披露し快進撃を続けました。日テレ・東京ヴェルディベレーザの変異を感じる優勝でした。
今シーズンが開幕し、2023−24 WEリーグでは、ここまで負けなしの首位を走る日テレ・東京ヴェルディベレーザですが、まだスムーズな連携が生まれているとはいえない発展途上の印象です。
そんな日テレ・東京ヴェルディベレーザが皇后杯 JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会5回戦に登場。76分にスフィーダ世田谷FCの先制を許し追い詰められました。
しかし、終わってみれば印象に残ったのは女王の底力でした。日テレ・東京ヴェルディベレーザの放ったシュートは90分間で25本。80分の藤野あおば選手、87分の北村菜々美選手の得点で逆転。苦戦したものの、順当に準々決勝に駒を進めました。
なでしこリーグ1部4位、見事なチャレンジだったスフィーダ世田谷FC
「持てるものは全て出した試合でした。あれがベレーザの本気なのでしょう。夏に練習試合をやったときとは全く違いました。こうした力を味わうことがスフィーダ世田谷FCのクラブとしての歴史になっていくのだと思います。価値のある試合だったと思います。」
スフィーダ世田谷FCの神川明彦監督は、満足そうな表情でした。選手たちも、力を出し切ったことがわかる佇まいでピッチを去っていきました。スフィーダ世田谷FCは、この試合で今シーズンの全試合を終了。翌日からは、来シーズンのプレーに向けて準備する者、移籍する者、引退する者に分かれ歩みはじめます。
若い選手の突き上げを見てとれる日テレ・東京ヴェルディベレーザ
日テレ・東京ヴェルディベレーザの松田岳夫監督は、試合の結果と内容に、ある程度は満足できているような雰囲気で取材に応えました。
「(藤野)あおばの突破力やゴールへの意識は、このチームの中でずば抜けています。そこに助けられた感はあるけれど、チーム全体として『とにかく取り返すんだ』というところ、最後の最後まで集中して戦えたことは本当に評価すべきだと思います。」
なでしこジャパン(日本女子代表)、U-19日本女子代表に多くの選手が選ばれる日テレ・東京ヴェルディベレーザは、常に過密日程のハンディを背負っています。この試合では、あまり出場経験がない選手も出場しましたが、松田監督によれば「コンディションや選手同士のコンビネーションを含め現時点のベストメンバー」で戦ったとのこと。
「若い選手の突き上げで、すごく競争力がついてきたと思います。」
確かに、このチームで出場し続けること自体がすごいことです。
U-19日本女子代表選手も後半に投入する総力戦
特に、後半は立ち上がりから投入された土方麻椰選手(ハーフタイム)、樋渡百花選手(56分)が絡むスムーズなパス回しがスフィーダ世田谷FCのディフェンスラインの裏を脅かし続けました。
「ハーフタイムの意思統一でチームが意識したことをそのままグラウンド上で表現してくれました。『こういうサッカーをしよう』というイメージが、だんだんとこのチームで共有できてきたと思っています。考えながらするプレーは、どうしても一歩が遅れるけれど、それを『天然』で少しずつできるようになってきたというところに、ちょっと成長を感じます。」
確かに攻撃のスピードは速くなりました。遠回りのパスは少なくなりゴール前に迫る回数が増えました。味方を追い越す走りが目立ちます。そして「そこまでしなくても」と感じるポジションの入れ替わりは目立たなくなってきたようです。
WEリーグとはちょっと違う「なでしこリーグらしさ」に苦戦した日テレ・東京ヴェルディベレーザ
スフィーダ世田谷FCは、なでしこリーグの中では強度の高いサッカーをすると定評があります。この試合でもできるだけディフェンスラインを高く保ち、一対一の激しい守備でボール奪いました。手数をかけず、それでいて、プレッシャーのかかりにくポジションに立つ選手にパスを預けなら前進する攻撃を繰り返しました。ローングボールも多用しました。
逆転ゴールを決めた北村選手は2020年シーズンまでセレッソ大阪堺レディース(現・セレッソ大阪ヤンマーレディース)に所属。なでしこリーグでプレーしていました。スフィーダ世田谷FCにWEリーグのチームとは一味違う強さを感じていました。
「スフィーダの選手は全体的に体つきが良く、WEリーグのチームとはまた違う強さを持っていました。すごく足の速い選手も多くやりづらさはありました。セレッソのときに対戦していたので、懐かしい『こんな感じやったな』という、なでしこリーグっぽい感じがありました。」
決勝点は、クロスバーに当たったシュート、ゴールキーパーの石野妃芽佳選手の止めたシュートのこぼれ球を押し込んだものです。
「こぼれてこいと思っていたので、こぼれてきた瞬間に打つしかなかったです。」
これぞディフェンディングチャンピオンの力を印象付ける、力強い波状攻撃でした。
パスを受けわずか5秒半の間に藤野選手が考えたこと
なでしこリーグのチームとの対戦経験が少ない藤野選手は「WEリーグには少ない(スタイルの)相手だったので、柔軟に対応するまでに時間がかかった」と話しました。そして、この試合が今大会の初戦だったため、WEリーグで使用しているものとは違う公式球の特性を掴むまでにも時間を要しました。ボールの弾道は種類によって微妙に異なります。藤野選手くらいのシュート力があると、公式球・モルテンF5E5000ーW はインパクトの力の入れ方によっては、弾道をふかしてしまうことがあるそうです。
思い出したのは田中美南選手からのアドバイス
この試合で藤野選手が放ったシュートは9本。多くは枠を捉えられませんでした。しかし、あの80分の同点シュートの直前に筆者は「これは枠に強烈なシュートが飛ぶ」と予感しました。パスを受けてボールタッチしてからシュートのインパクトまでは5秒半。藤野選手の得意な角度です。そして、対面するディフェンダーとの距離、ゴールまでの視界を、藤野選手がドリブルをしながら空けていきました。予感通り、右足を振り抜いて描いた素晴らしい軌道は逆サイドのゴールネットに突き刺さりました。その瞬間のことを聞いてみると、少し意外な答えが返ってきました。藤野選手の時計の針は、私たち凡人の時計の針と進み方が違うようです。
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