JFA会長候補「宮本恒靖マニュフェスト」 期待?課題? 7つの切り口を女子サッカー視点で検証する
「秋春制」「2031FIFA女子ワールドカップ 招致」を明記したJFA会長候補・宮本恒靖さんの目指す日本サッカーの未来
日本サッカー協会の次の会長に宮本恒靖さんが就任することが確実視されています。立候補者は一人でした。2023年12月24日(日)に開催されるJFA臨時評議員会で評議員による投票が行われ「会長予定者」として承認された後、2024年3月に正式に会長就任となる見込みです。
宮本さんは立候補に際し2つの書類を公表しています。「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」と「マニュフェスト・ともに新しい扉をあけよう」には「2031FIFA女子ワールドカップ 招致」をはじめ、女子サッカーに関わる記述が多数あります。また、全体を通して、男子や日本代表に偏重しないスタンスが感じられます。宮本さんは、今、何を考え、日本サッカーをどのように前進させようとしているのでしょうか。
「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」と「マニュフェスト・ともに新しい扉をあけよう」に書かれていること
女子サッカーに関わる人は「宮本恒靖マニュフェスト」を読んで何を感じたのか
女子サッカーに関わる皆さんに、「宮本恒靖マニュフェスト」(「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」および「マニュフェスト・ともに新しい扉をあけよう」)を読んでいただきました。どのような感想や意見をお持ちでしょうか。記事の後半で「宮本恒靖マニュフェスト」
の中身を解説する前に、3人のご意見をご紹介します。
女子サッカーが自然に盛り込まれたマニュフェスト
最初にご紹介するのは國領浩子さんのご意見です。FM NACK5『VAMOS! Orange & Navy』のパーソナリティを務める國領さんは大宮アルディージャVENTUSのスタジアムDJも担当しています。WEリーグと共に、この2年間を歩んできた國領さんが読むと「宮本恒靖マニュフェスト」はどのように感じられたのでしょうか。
「どの分野においても『女性』をどう扱っていくかは頭を悩ますところだと思いますが、今回のマニュフェストでは、サッカーを拡大させるために、ごく自然に盛り込まれているのがとても好印象でした。 U-15の登録クラブ数を増やしたい旨なども一例として明文化されていて、女子サッカーの競技人口を増やしたい思いが伝わり、かつ、これまで悔しい思いをした世代の人も応援したくなる内容に感じます。」
私たちが声を上げていくことが大切
選手の意見はどうでしょう。十川ゆき選手はジェフユナイテッド市原・千葉レディースでプレーした後、イスラエル女子1部リーグのハポエル・ペタク・チクバへ移籍。しかし、武力衝突が始まり男女のサッカー関連活動がストップするとクラブの判断により緊急帰国し、現在は日本国内で平和の回復を願っています。スペインでのプレーも長く、さまざまなフットボールカルチャーを体験してきた十川選手は「宮本恒靖マニュフェスト」をどのように読んだのでしょうか。
「現代、さまざまな業界で男女問わず活躍できる社会になるようにと取り組まれていることと思います。 もちろんスポーツ界でもそうなる事が理想だと思います。しかし、その理想を実現するためにはまだまだ沢山の課題があり、改善しなければなりません。 選手としてプレーしている私たちが声を上げていくことが大切だと思いますし、日本サッカー協会や様々なスポンサー様、行政と関わり、良い関係を築いていく、又は新しい形を創造していくことが大切だと感じています。 まずは声をあげ、変化をさせようとする人たちを増やしていくことが大切だと思います。」
女性たちが根本的に困っていることに寄り添うべき
最後に紹介するのは愛媛県サッカー協会 名誉会長の豊島吉博さんのご意見です。豊島さんは日本サッカー協会常務理事兼事務局長、 Jリーグエンタープライズ代表取締役社長、Jリーグフォト代表取締役社長等を歴任。愛媛FCの社長としても女子サッカーの現場にも関わってこられた豊島さんらしいご意見をいただいています。子サッカー普及のボトルネック解決に直結する具体策の必要性を提言しています。
「現職専務理事の次期会長立候補で、現JFA路線の延長となり、新鮮味は少ない。とはいえ、女性関係では①強い代表②重点領域③役員登用拡大、活躍促進④リーグ支援⑤2031W杯招致―など女性への目配りがあり、若さと合わせて期待したい。ただ従来は、潤沢な内部留保があり、多様な政策ができた。当面はJFAハウス売却金でカバーできるが、財務厳しい折、絵に描いたもちになる懸念がある。
本当に女性に傾注できるか。女性がサッカーに傾注できない状況打破へ具体的な策が欲しい。例えば①家事育児から解放されるイベント時の託児所やベビーシッター準備義務付け②男性の理解協力支援義務付け③国体少年女子新設後の積極活用―ぐらい大胆なことを打ち出さないと実現は難しいと思う。
サッカーに限らず、女性たちが根本的に困っていることに寄り添い、共に歩む姿勢がもっと必要ではないだろうか。」
同じような思いの女子サッカー関係者は全国各地にたくさんいるかもしれません。例えば、関西女子サッカーリーグ2部のKYOTO TANGO QUEENS(京都府京丹後市)代表の吉野有香さんは女性がサッカーを楽しむための最低限の環境を整備する必要があると訴え続けてきました。地域リーグの現場に来れば、女子サッカーの競技人口拡大のために不足しているものが見えると言います。
吉野さんによると、関西女子サッカーリーグ2部やU-15の試合では試合会場に更衣室が設置されていないことが多くあります。その状況を見かねたスポンサー企業がプライバシーテントを購入し提供してくれました。
女子サッカーの現場は、こうした善意で支えられているという現実があります。本来であれば、大会の主催者が、選手が快適にプレーできる環境を整えるべきではないでしょうか。少なくとも、日本サッカー協会が主催者に対して、適切な環境整備のガイドラインを定めることはできるはずです。また、多くの施設を保有している自治体等への働きかけも必要です。
N P O法人松本山雅スポーツクラブの理事長を務める柄澤深さんは、以前にWE Love 女子サッカーマガジンで取材した際に地域リーグの現実を話してくださいました。
「人口の半分は女性ですから、女子スポーツを楽しめる環境の整備は大切です。ですから、クラブとして、例えば『地域の運動広場にも、きちんと更衣室を作りませんか?』と(行政に)話をしていかなければならないと思っています。」
こうした、現場の切実な願いを、次期JFA会長は叶えることができるのでしょうか。
丁寧に、そして、ジェンダー平等の時代を感じる「宮本恒靖マニュフェスト」
ここから「宮本恒靖マニュフェスト」について詳しく見ていきましょう。
「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」は3つの項目で構成されています。所定の書式に記入して選出管理委員会に提出しています。
(1)提案する政策
(2)提案するプログラム
(3)その他
このうち「(3)その他」は経歴等を掲載する欄ですが、目についたのは宮本さんが「最終学歴」の欄に同志社大学ではなく「FIFAマスター修了」と記入していたことです。
「マニュフェスト・ともに新しい扉をあけよう」は「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」では表現しきれなかったことを記載したカラーの冊子です。36ページで構成されています。冒頭には「岡田武史×宮本恒靖 特別対談」が掲載されており、心強いバックアップを感じます。
7つの切り口から見える宮本恒靖さんの女子サッカーとの関わり方
2つの書類には、さまざまな提言、宣言、現状分析が盛り込まれていますが、筆者は7つの切り口から、宮本さんの女子サッカーに対するスタンスを感じ取りました。順に紹介していきます。
①隅々まで男女横並び、ジェンダーバランスへの配慮を心がける
「JFA の会長予定者選出に関する活動書類」の「(1)提案する政策」の最初に書かれた「1.強い日本代表を作り続ける」で男女の代表を併記しています。日本サッカーの象徴はサムライブルー(森保ジャパン)ですが、ここに、なでしこジャパン(日本女子代表)を併記するところに、世界の潮流を掴む宮本さんの敏感なアンテナを感じます。
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