ホーム&アウェイは一発勝負と全く違う パリ五輪最終予選 北朝鮮戦直前 なでしこジャパンがブラジル遠征で得た大きな3つの経験
仮想ホーム&アウェイを1勝1敗で乗り切った、なでしこジャパン(日本女子代表)のブラジル遠征
なでしこジャパン(日本女子代表)は年内の活動を終えました。2023年11月30日、12月3日の中2日間でブラジル女子代表と連戦。これを1勝1敗で終え、欧州経由で12月6日に帰国しています。
WE Love 女子サッカーマガジンは帰国直後の空港で池田太監督、遠藤純選手(エンジェル・シティFC)、田中桃子選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、谷川萌々子選手(JFAアカデミー福島)、古賀塔子選手(JFAアカデミー福島)の5人を取材。 女子オリンピック サッカートーナメント パリ2024アジア最終予選(2024年2月24日、28日)に向けた手応えと課題をお聞きしました。
トータルで得失点差が1つ上回った、狙い通りの「勝ち切る」遠征
監督経験者から「ホーム&アウェイは一発勝負と全く違う」というお話をよく聞きます。今回の連戦は、その格好のシミュレーションとなりました。
「短い期間に同じブラジル女子代表と連戦し、システムを含めいろいろな戦い方を試すことができました。結果が全ての最終予選を迎えるので『勝ち切る』ことを意識しました。」
取材陣に囲まれた池田太監督は、長旅の疲れを見せず、この遠征を総括しました。選手はタフに戦うことができました。結果は第一戦が3−4の敗戦。85分、87分に連続得点し同点に追いつくも90分+6分に失点してしまいました。続く第二戦は2−0の完封勝利です。これをホーム&アウェイの連戦に当てはめれば1勝1敗。トータルで得失点差が1つ上回る勝利となります。
まさに、狙い通りの「勝ち切る」遠征となりました。
3つの貴重な経験を得られた有意義な2試合
なでしこジャパン(日本女子代表)は、今回のブラジル遠征で3つの貴重な経験を得ることができました。ホーム&アウェイで戦う女子オリンピック サッカートーナメント パリ2024アジア最終予選の直前に、どうしても必要な経験でした。
①2試合トータルで戦う経験
ホーム&アウェイは一発勝負と何が違うのでしょうか。まず、重要なのは2試合トータルで勝敗を決するというレギュレーションです。第一戦は180分の試合の前半戦。90分のタイムアップが近づき同点となれば「どうしても勝つ必要があるのか」「勝ちに行く必要がないのか」の見極めが大切です。そして第二戦は180分の試合の後半戦。お互いに第一戦での対戦経験とスタッフによるスカウティング・分析の結果を反映した準備を念入りに行いキックオフの笛を待ちます。対戦相手は第一戦で露呈した弱点を突いてくるかもしれません。自分たちでも気が付かない穴を発見されているかもしれません。
そうした意味では、今回のブラジル遠征では、敗戦につながった第一戦のアディショナルタイムの失点が不要でした。しかし、4バックと3バックの複数のシステムの併用をちらつかせながらの第二戦で、ブラジル女子代表の動きを見極めて完封勝利できたことは、とてつもなく大きな自信になるはずです。
②ストレスのかかる移動の経験
そして、もう一つ、ホーム&アウェイで厄介なのはアウェイの試合会場への移動です。幸い、最終予選の対戦相手がオーストラリア女子代表となることは回避できたので、真冬の2月に真夏のオーストラリアへ乗り込むことはありません(欧州組は日本を経由せずに移動すると概ね25時間の移動を強いられる)。しかし、北朝鮮への移動は短距離といっても特殊。北京経由で平壌に入るとなれば北京での乗り換えが通常のトランジットよりも長時間の手続となることが予想されますし、平壌でもスムーズに入国できるとは限りません。今回のブラジル遠征は欧州経由となり、長時間の移動によるストレスも経験しました。これが活きるはずです。
③圧をかけてくるサポーターの経験
過去の例を見ると平壌に日本代表を迎えた北朝鮮代表は、多くの観客を動員しスタンドを埋めています。女子オリンピック サッカートーナメント パリ2024アジア最終予選でも同様の動員が行われる可能性があります。日本国内では見慣れない、一斉に声を揃えて叫ぶといった、統率の取れた応援の雰囲気が、ピッチ上に圧力となって伝わるかもしれません。ブラジルは、そうした応援とは全く逆の自由な雰囲気に包まれていましたが、180分を通してスタジアムが大歓声に包まれていました。声の通りにくいピッチ上でのプレーを確認できたことも重要です。
変化への対応力が向上した頼もしい選手たち
今回の取材で池田監督はブラジル遠征の成果について聞かれ、一番の収穫は「変化への対応」だったと答えました。
「相手のシステム(最終ライン)が4枚だったり3枚だったり、また、予想と違っていたりしましたが、選手が試合の中で変化に対応できました。」
おそらく、北朝鮮女子代表は、念入りになでしこジャパン(日本女子代表)を研究して待ち受けています。十分な対策を練っているでしょう。秘策もあるかもしれません。しかし、心配は無用でしょう。想定していない場面に遭遇しても動揺することなく、ピッチ上で解決策を見つけられる頼もしい選手たちです。それが、今回のブラジル遠征から感じられました。
また、池田監督はアウェイのプレッシャー対応についても言及しました。
「(第二戦は)伝統あるスタジアム(エスタジオ・ド・モルンビー:サンパウロFCのホームスタジアムとして有名)でした。(選手たちは)声が聞こえにくい環境への適応能力も発揮し、どのようなことが起きても動じずにゲームに集中できることもわかりました。この経験は最終予選に生きると思います。」
4人の選手の言葉から感じる確かな手応え
完封勝利に手応えを感じる田中桃子選手
選手は、このブラジル遠征で何を得られたと感じているでしょうか。田中桃子選手(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)は2023シービリーブスカップでもブラジル女子代表戦に出場しました。今回のブラジル遠征では第二戦に出場し「進歩を感じることができた遠征でした」と振り返ります。本当に良いシミュレーションだったようです。
「(前回の2023シービリーブスカップでの対戦から)10ヶ月くらいが経ち0−1だった対戦成績を2−0にできたことは自信になります。自分たちがリードした展開の終盤で、相手の勢いが増してくることは感じました。なんとか無失点で終え、耐えられたことは自分の中で大きかったです。」
ボールを動かす準備を早くできるようになった遠藤純選手
遠藤純選手(エンジェル・シティFC)は2023シービリーブスカップでのブラジル女子代表戦では56分から交代出場しました。 今回のブラジル遠征では2試合ともフル出場。第一戦で得点しています。
「前回はブラジル女子代表の圧力に圧倒されてしまったのですが、今回の2試合はチームとしてボールを動かしながら前に運ぶことができました。周囲のサポートの準備を早くできたことが一つの理由と思います。」
やはり進歩を感じているようです。遠藤選手の受け持つ左のワイドのポジション(3バックのとき)は、FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023で、なでしこジャパン(日本女子代表)の攻撃の最大部の武器となりました。素晴らしい得点シーンが今も脳裏に蘇ります。久しぶりに日本でお会いした遠藤選手は気品高くスターの雰囲気を漂わせていました。今や、平均入場者数が約2万人という全米ナンバーワンの人気を誇るエンジェル・シティFCの中心選手。髪の色や着こなしだけが、その雰囲気を漂わせているわけではないはずです。
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