WE Love 女子サッカーマガジン

変化するWEリーグ中継・配信、フォトグラファーによる女子サッカー選手の撮影ノウハウ 「女性アスリートのリアルな姿」をどのように伝えるか? 

何を変えれば「女性アスリートのリアルな姿」が伝わるのかを当事者に聞いてみた

「女子はプレーの余韻を大事にして撮ってもカッコいいな」と書かれたnote(https://note.com/cage_nob/n/n698b26687d05)が目に入りました。スポーツMC、ラジオDJ、ライター、ナレーター、フォトグラファーとして主に関西で活躍されているカゴノブアキさん(https://www.kagonobuaki.com/)のnoteです。

今回は、静止画(写真)、動画(映像)で女子サッカーをどのように伝えるのか、その工夫についてお伝えします。記事の後半では202324 WEリーグの配信についてお伝えします。撮影の技法も気になりますが、なぜYouTubeによる無料配信を廃止したのか、どのように新規のファンを獲得するのか、WEリーグとDAZNの中継・配信戦略も気になります。

「女性アスリートのリアルな姿」とは?

ゲッティイメージズのVisualGPSに掲載された調査結果よると、グローバルの消費者の70%以上が「技術や運動能力に焦点を当てた女性アスリートのリアルな姿」をビジュアルに求めていると回答しています。では、どのように撮影すれば、そうしたニーズにマッチしたビジュアルを撮影できるのでしょうか。単純にインパクトの瞬間を撮影すれば技術や運動能力が静止画で表現できるわけではないようです。

冒頭で紹介したnoteのゴノブアキさんに聞いてみました。

「僕がサッカー写真を撮影する際に重要視しているのは『動きが伝わること』。そして、動きが伝わることはイコール『その写真の前後が想像できること』だと思っています。ですので、男性の場合だとコンタクトした瞬間、マッチアップした瞬間、キックした瞬間、ドリブルを始めた瞬間、シュートを打つ瞬間、ボールと選手が一緒に収まる瞬間を狙ってシャッターボタンを押すことになりますが、どうも、同じことを女子でやっても面白くないショットが多かったです。

特にコンタクトプレーはそもそも『動』から『静』に移行する瞬間なわけで、顔に力が入っている上、むしろ動きが停まったようにも見えることが多く……しかも顔が下を向いていることが多いので華やかさが出ませんでした。それは昨年にスペランツァ大阪×セレッソ大阪堺レディース(現・セレッソ大阪ヤンマーレディース)を撮影したときに感じたことでした。

それから1年が経ち、たまたま女子フットサルの撮影で『逆にその瞬間の一瞬前、その瞬間の一瞬後を狙うようにしたらどうか』とタイミングを変えたら、意外にもちゃんと前後が伝わる写真が撮れました。

動きの余韻でふわっと広がる髪の毛が躍動感を高めますし、男子より体に凹凸があるのでユニフォームのシワや揺れが出て、さらに顔も上がって華やかさも高まり、その後の未来を想像できる写真になりました。」

ここまでは、あくまでプレーする選手を撮影者のテクニック面の経験談ですが、カゴノブアキさんは最後にこのように付け加えました。

「選手が『私もこういうふうに映りたい!』と思えるようなコンテンツが増えることこそが女子サッカー人口を広げるのかも……。」

チェルシーのエースストライカーとして活躍するサム・カー選手の書籍の装丁は自分らしさが表現されている

重要なのは一対一の信頼関係やコミュニケーションの取り方

WEリーグやなでしこジャパン(日本女子代表)の選手撮影で活躍するフォトグラファーにも聞いてみました。答えてくださったのは、株式会社セイカダイのプロデュースするプロジェクト等で活躍する福村香奈絵さんです。筆者は、なでしこリーグ公式サイトの写真撮影を福村さんに撮影していただいています。

なぜ、福村さんに聞くことにしたかというと、福村さんの撮影が素晴らしいことに加えアルビレックス新潟レディース等で活躍した元選手だからです。撮影者と選手の双方の立場を知る福村さんは「女性アスリートのリアルな姿」を撮影する秘訣をどのように考えているのでしょうか。

「あくまでも被写体に寄り添うことを大切にしているので、一対一の信頼関係やコミュニケーションの取り方の問題のような気がします。自分から見た『その人のいいなと思った部分』を切り取っているだけかな。その上で納品データの中からサイトや印刷物で使用しないNGカットを(選手等の被写体となる人と)確認する配慮をしています。それは性別でカテゴライズすることではなく『個人』への対応と捉えています。」

実は、それが、最も大切なことかもしれません。

FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023開催期間のシドニーには女子サッカー選手のビジュアルが各地に掲出されていた

なお、朝日新聞に掲載された取材記事(https://digital.asahi.com/articles/ASR735KPHR6WUTQP02G.html)によると、欧州では女子サッカー選手を上から見下ろすアングルで撮影しないことが主流だとのこと。背の高い男性視点に近い高さにカメラを配置したアングルから撮影した「かわいい」表現よりも「女性アスリートのリアルな姿」やかっこよさ、強さ、迫力、洗練を感じさせる表現を目にすることが圧倒的に多いです。

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ライブ中継・配信 の正解はどこにあるのか?

続いて、動画配信に目を向けてみましょう。 WEリーグをライブ中継・配信しているのはDAZNです。DAZNは、世界各国で行われるリーグ戦等の中継・配信を行っています。ユーザはWEリーグに加え、NWSL(アメリカ)、リーガF(スペイン)、WSL(イングランド)、SWPL(サウジアラビア)、UEFA女子チャンピオンズリーグ等、世界中の女子サッカーリーグを日本で視聴することができます。そして、ユーザの多くはJリーグや海外の男子サッカーの中継・配信を視聴しています。

WEリーグカップでカメラ位置等の検証を行っていたWEリーグ

WEリーグは202324 WEリーグカップでYouTubeのWEリーグ公式チャンネルによる無料配信を行いました。この期間の配信で、さまざまなトライを行っています。もしかすると気づいたファン・サポーターもいるかもしれません。

中継・配信の場合は、選手個人を撮影する静止画と異なり、どうしても比較対象(画面サイズ、ピッチサイズ等)が生じます。スタンドから生観戦すれば、あれほどの驚きと感動を感じるプレーが、ひとたびカメラを経由すると迫力ないものに感じてしまう場合があります。男子選手と比較すると小柄な女子サッカー選手のプレーを、男子と同じサイズのスタジアムでどのように撮影すれば視聴者に魅力的に映るのか。被写体に違いがあるのだから、撮影方法に違いがあっても良いのではないかという検証です。

例えば画角の広さ。選手のパーソナリティを感じやすい寄り(アップ)気味のサイズで撮影した方が良いのか、ピッチ上全体の選手の配置を理解しやすい引き(ルーズ)気味のサイズで撮影した方が良いのか検証を行いました。また、カメラ位置の高さについても見直し、例えば、長野Uスタジアムでは、昨シーズンまで2階に設置していたカメラを1階に変更し、選手との距離や姿・表情の見える角度を検証しています。

視聴者がゲーム展開を理解するには、より高い位置にカメラを設置し引き(ルーズ)気味のサイズで撮影した映像が適しています。リーガF(スペイン女子プロサッカーリーグ)のライブ中継・配信では、得点後のリプレーに大きく引いた動画を挿入しています。2023年11月19日に配信されたクラシコ(FCバルセロナ×レアル・マドリード)では、ゴール裏の最上段から撮影しピッチ全体を捉えた動画が使用されました。これにより視聴者は、得点時に、全ての選手がどこで何をしていたのかを理解することができます。ただし、小柄な女子サッカー選手は男子選手よりも個人を視認しにくくなります。つまり、良いところもあれば良くないところもある。海外の事例も踏まえて、日本の視聴者に好まれる最適解を探ります。

カメラの設置位置が下がるとプレーの迫力を感じやすくなる

逆に選手のパーソナリティを感じやすい寄り(アップ)気味のサイズで撮影した動画を効果的に使用している海外チームもあります。リーガMX(メキシコ)のUANLティグレスです。近距離から撮影することに加え、選手を見下ろさず、カメラを低い位置に設置しているので、さらに選手が大きく見え、ゴール前の迫力あるシーンを捉えています。

UANLティグレスは、こうした動画を頻繁にSNSで発信しています。WEリーグでは、サンフレッチェ広島レジーナがYouTube動画「INSIDE」でUANLティグレスの動画に近いアングルで撮影した動画を盛り込むことが多いです。ちょっとした工夫で、女子サッカーの「動き」を増幅して伝えることは可能です。

サッカー感度に応じたターゲット設定とYouTubeでの無料配信廃止の関係

さて、最後に配信方法についてもお伝えしておきましょう。3シーズン目となる202324 WEリーグでは、すべての試合の中継・配信に解説者が加わりました。そして、配信プラットフォームは全てDAZNとなりWEリーグYouTubeチャンネルでの無料配信はなくなりました。なぜなのでしょうか。無料配信の廃止と今シーズンのDAZNでの配信方法についてWEリーグ 業務執行理事の松岡けいさんにお聞きしました。調べてみると、WEリーグは、今シーズン限定でテレビ番組による試合動画の利用条件を緩和しており、誰もが見られるテレビ番組での露出を拡大しているようです。

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