WE Love 女子サッカーマガジン

2023プレナスなでしこリーグ表彰式から見えたWEリーグとは一味違う女子サッカー・アマチュアリーグの魅力

リーガロイヤルホテル東京の大きなシャンデリアの下で、選手の笑顔がキラキラと輝いていました。2023年10月25日に行われた2023プレナスなでしこリーグ表彰式には、表彰を受ける選手、監督、関係者への祝福、感謝、そして、女子サッカーの魅力が詰まっていました。

2023プレナスなでしこリーグ1部を優勝したオルカ鴨川FC

鈴木陽選手(オルカ鴨川FC)が最優秀選手賞を受賞

表彰式の最後に発表された最優秀選手賞を受賞したのは鈴木陽選手でした。キャリアハイとなる12得点(ランキング2位)の大活躍。表彰式では、優勝メダルの赤い組紐と相性の良い鮮やかなネイルも印象的で大きな存在感を漂わせました。

プレナスなでしこリーグは、2021年シーズン以来、スフィーダ世田谷FCと伊賀FCくノ一三重が優勝争いをしてきました。しかし、今シーズンはこの2チームが簡単に試合を支配できなくなりました。ニッパツ横浜FCシーガルズ、朝日インテック・ラブリッジ名古屋、オルカ鴨川FCが強度の高さで2チームに追いつき、さらには攻撃のバリエーションに幅を持って優勝争いに参戦。近年稀にみる混戦となりました。

鈴木陽選手

昨シーズンまで怪我に苦しみ続けた鈴木陽選手は、今シーズンも序盤は思った通りの活躍をすることができませんでした。当時を振り返ると「気持ちが先走るところがあった」と言います。鈴木陽選手の今シーズン初得点は第3節。昨シーズン優勝のスフィーダ世田谷FC戦でした。前半で2点をリードされますが後半はシュート10本の猛反撃。鈴木陽選手が値千金の同点ゴールを挙げます。この大切な試合を2−3で逆転勝ちし、チームは手応えを感じました。

鈴木陽選手の次の得点は第10節のニッパツ横浜FCシーガルズ戦。2得点の大活躍で無敗相手の決戦をオルカ鴨川FCが制しました。ツートップがスイッチを入れるプレッシングの迫力と鈴木陽選手の勝負強さが印象付けられた試合となりました。この試合を観戦していた女子サッカー関係者の間では「オルカ鴨川FCはかなり強い」と話題になりましたが、プレナスなでしこリーグ1部で優勝争いをした経験がないオルカ鴨川FCは、常にチャレンジャーの姿勢を崩しませんでした。鈴木選手は、終盤戦に入るまで優勝を確信することはなかったと言います、

「本当に優勝しか見ないで戦ってきました。愛媛FCレディースに勝ったとき(第20節)くらいに『いけるかも』と思いましたが、その辺りまでは『優勝できるか?このままじゃ駄目だぞ?』と自分たちを奮い立たせてきました。」

鈴木陽選手は怪我なくシーズンを終えたのは初めてだと言います。その表情が、充実したシーズンを物語っていました。

鈴木陽選手

レジェンド・野田朱美監督が史上初の偉業達成 

オルカ鴨川FCを率いた野田朱美監督は守備戦術の指導に自らのウイークポイントがあると考えてきました。ノジマステラ神奈川相模原の監督を不本意な成績で終え、選手と一緒に戦うためには自分自身の成長が必要だという考えに至りました。そして、自らがベレーザでプレーし、また、指導してきたスタイルが必ずしも正義ではないとし、それから4年間は「とにかく結果を出すこと」を目指してきました。

バニーズ群馬FCホワイトスターの監督を務めた際は、同じ群馬県で活動するザスパクサツ群馬の練習に参加し、戦術と指導を学び直しました。そして、チーム史上初のなでしこリーグ1部昇格を実現しました。

オルカ鴨川FCでは攻撃と守備を2年がかりで構築し、ついに優勝の栄冠を獲得しました。失点数はリーグ最小の18です。鈴木陽選手については得点力だけではなく、前線からの守備の圧力をかけ続ける働きも高く評価しています。

現役時代に日本の女子サッカー史のメインロードを歩んできた野田監督を祝福の拍手が包みました。最優秀監督賞のプレゼンターは北澤豪さん。かつて、同じ緑のユニフォームを着てよみうりランドのグラウンドで汗を流した仲間です。登壇する北澤さんにステージ上の野田監督からにっこりと笑いかけアイコンタクト。二人にしかわからないレジェンド同士の「無言の会話」がありました。

北澤豪さんと野田朱美監督 

表彰式を終えた野田監督は、優勝を決めた試合直後のセレモニーとは違う、表彰式での喜びを教えてくれました。

「いろいろな方に会えて歴史の積み重ねを感じます。監督としてこの場に立てて皆さんから『おめでとう』と言ってもらえるのは最高に嬉しかったです。ありがとうございます。」

野田朱美監督

野田監督は1989年(第2回)に最優秀選手賞を受賞しています。最優秀選手賞の受賞経験者が最優秀監督賞を受賞したのは史上初の偉業です。 

2023プレナスなでしこリーグ表彰式 受賞者

〈なでしこリーグ1部〉

優勝:オルカ鴨川FC(初)
第2位:朝日インテック・ラブリッジ名古屋
第3位:伊賀FCくノ一三重
フェアプレー賞:日体大SMG横浜(初)

〈なでしこリーグ2部〉

優勝:ヴィアマテラス宮崎(初)
第2位:JFAアカデミー福島
第3位:岡山湯郷Belle
フェアプレー賞:ディアヴォロッソ広島(初)

〈なでしこリーグ1部〉

個人表彰

・最優秀選手賞
鈴木 陽 FW オルカ鴨川FC(初)

・ベストイレブン
田谷 春海 GK オルカ鴨川FC(初)
秦 美結 DF 伊賀FCくノ一三重(2回目)
渡辺 瑞稀 DF スフィーダ世田谷FC(2回目)
長谷川 朋佳 DF 朝日インテック・ラブリッジ名古屋(初)
浦島 里紗 MF オルカ鴨川FC(2回目)
渡部 麗 MF 日体大SMG横浜(初)
小須田 璃菜 MF ニッパツ横浜FCシーガルズ(初)
内田 美鈴 MF ASハリマアルビオン(初)
神谷 千菜 FW 朝日インテック・ラブリッジ名古屋(初)
鈴木 陽 FW オルカ鴨川FC(初)
森田 美紗希 FW 日体大SMG横浜(初)

・得点王
神谷 千菜 FW 朝日インテック・ラブリッジ名古屋(初)

・敢闘賞
神谷 千菜 FW 朝日インテック・ラブリッジ名古屋(初)

・新人賞
田子 夏海 FW 愛媛FCレディース

・優勝監督賞
野田 朱美 オルカ鴨川FC(初)

〈なでしこリーグ2部〉

個人表彰

・最優秀選手賞
齊藤 夕眞 FW ヴィアマテラス宮崎(初)

・得点王
齊藤 夕眞 FW ヴィアマテラス宮崎(初)

・新人賞
坂田 美優 FW ヴィアマテラス宮崎

〈特別表彰〉

200試合出場選手

奈良 美沙季 DF ニッパツ横浜FCシーガルズ 2023//1達成
小川 志保 FW 伊賀FCくノ一三重 2023//6達成
澤田 法味 GK ノルディーア北海道 2023//14達成
渡辺 彩香 DF 静岡SSUボニータ 2023//27達成
南山 千明 MF スペランツァ大阪 2023//3達成

・最優秀審判員賞

小野田 伊佐子(初)

得点王は神谷千菜選手(朝日インテック・ラブリッジ名古屋)

2021シーズンと2022シーズンに特別指定選手として朝日インテック・ラブリッジ名古屋でプレーした神谷千菜選手が正式加入一年目のシーズンに得点王に輝きました。

「去年までは大学との兼ね合いもあったのであまり練習に参加する時間がありませんでした。今年は正式に加入したことで、毎日、練習を一緒にでき、コミュニケーションもしっかりとれていたので、自分の特徴を味方に知ってもらったり、味方の特徴を自分が掴んだり、お互いを生かすことができたのが大きかったと思います。」

神谷千菜選手

朝日インテック・ラブリッジ名古屋の監督はJリーグでストライカーとして活躍した森山泰行さんです。どのような指導を受けたのでしょうか。

「技術を教わるより『フォワードは感覚が一番大事』とずっと言われ続けました。練習でも、自分のシュートに対する感覚をどれだけ研ぎ澄ますかに意識を向けてやってきました。」

朝日インテック・ラブリッジ名古屋は8位、6位、2位と年々順位を上げてきました。最後まで優勝を争い、優勝したオルカ鴨川FCとは勝ち点差3。神谷選手は「自分自身がもっと点をとれる選手だったらチームは優勝できた」と悔しさも口にしました。その向上心が必ず来シーズンにつながります。

神谷千菜選手

年齢、地域、一体感……大学生が語る「なでしこリーグの魅力」

コロナ禍の行動制限の多くは解除され、スタジアムにはサポーターの声援や歌声が響きます。日体大SMG横浜の試合では、ベンチ入りしない多くの選手がスタンドに集まり、一緒に歌う日体大伝統の応援風景が帰ってきました。先発出場する選手、ベンチ入りする選手、ベンチ入りしない選手、O G、家族、職場の仲間や上司が一体となって試合に臨むのもなでしこリーグならでは。日体大SMG横浜からは森田美紗希選手と渡部麗選手がベストイレブンに選ばれました。森田選手が応援について話してくれました。

「このシーズンは応援も解禁になってチームに一体感が生まれました。応援が後押ししてくれた部分も大きいです。リーグが環境を整えてくれたことに感謝したいと思います。」

渡部選手は、6−2で大勝したニッパツ横浜FCシーガルズ戦(第20節)を振り返りました。

「チームの皆が駆けつけて応援してくれたことで力強く戦うことができました。後押しをもらったと思っています。」

森田美紗希選手(左)渡部麗選手(右)

WEリーグが生まれ、なでしこリーグは自らの存在意義を模索し、いくつもの取り組みを投下してきました。それが現場で形になり始めたシーズンだったのかもしれません。2023プレナスなでしこリーグ1部は12チーム中9チームが入場者数を増やしました。また、2023プレナスなでしこリーグ2部の4チームが、1部の平均入場者数を上回る平均入場者数を記録、女子サッカーの価値はディビジョンだけに左右されないことを証明しています。

「なでしこリーグの魅力」とは何なのか?……日体大SMG横浜の2人の選手は大学の大会と並行して行われているなでしこリーグを戦っています。複数の大会と接している彼女たちに聞けば、その答えの一端が見えるかもしれません。聞いてみました。

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