WE Love 女子サッカーマガジン

14戦無敗で首位、得失点差+43 快進撃が止まらないヴィアマテラス宮崎は人口1万6千人の町で女子サッカーに革新を起こせるか

「5年後のプロリーグ参入」を目標にスタートし、3年目のシーズンでなでしこリーグ2部に初昇格したヴィアマテラス宮崎の快進撃はサマーブレイク(中断期間)を迎えるまで止まることがありませんでした。14試合を終え11勝0敗3分け。得点数は50。1試合あたり3.5点となります。

今回は、ヴィアマテラス宮崎 代表の秋本範子さんにお話をお聞きした、歩みを止めない女子サッカーと宮崎県児湯郡新富町の未来像をご紹介します。

激戦となったFCふじざくら山梨戦 提供:ヴィアマテラス宮崎

プレナスなでしこリーグ2部は残すところ4節。ヴィアマテラス宮崎は1位のチームだけが得られる自動昇格の権利獲得を目指しています(2位のチームは1部・2部入替戦に出場)。その戦力は2部のレベルを超えています。齊藤夕眞選手(30)は日本女子代表(なでしこジャパン)に選ばれた実績、福丸智子選手(31)は豪州のクラブでプロ選手としてプレー。WEリーグでプレーしていた選手もいます。負け無しの毎日は、さぞかし楽しいことだろうと想像していた筆者は、秋本さんから意外なひと言を聞きました。「余裕はない」と言うのです。

「全国リーグだなと思いました。去年(九州リーグ)より試合数は少ないのですが、全国各地への移動があるので選手も疲労を感じていました。最終スコアほどの余裕はないです。1点をとるまで本当に油断できない展開ですし、追いつかれたりハラハラしたりすることも多かったです。」

木々の向こうには長く美しい砂浜が広がる  提供:ヴィアマテラス宮崎

公園の広場に押しかける約1千人の観客

開幕戦の試合会場は富田浜公園多目的広場。これまで、ずっとホームゲームを開催してきたグラウンドです。ただ、実際に足を踏み込むと、そこは海岸の脇にある広大な芝生のスペースでした。もちろん試合の開催基準はクリアしているのですがスタジアムではありません。グラウンドというよりも、その名の通りの広場です。ヴィアマテラス宮崎では、なでしこリーグ昇格後のホームゲームを開催するたびに海側に2段の仮設観客席を設置しています。ピッチの周囲を、ボランティアがトラックで持ち込んだ白いテントが囲みます。2023年4月9日に開催されたホーム開幕戦(第2節・ディアヴォロッソ広島戦)の入場者数は963人。人口が約1万6千人の小さな町の広場に1千人近くが詰めかけ、大変な賑わいとなりました。

白いテントがピッチを囲む 提供:ヴィアマテラス宮崎

4月29日(第5節・つくばFCレディース戦)に新富町フットボールセンターが待望の柿落とし。小規模ながら屋根付きスタンドが併設されたサッカー場がホームゲームの開催施設に加わりました。初めて新富町を訪れた人は驚きます。新富町フットボールセンターの隣に、5千人以上を収容できる、J3で戦うテゲバジャーロ宮崎のホームスタジアム・ユニリーバスタジアム新富があるからです。です。あまり知られていませんが、この小さな町は、J3クラブとなでしこリーグクラブのホームタウンとなっている、全国でも珍しい地域なのです。1993年にJリーグが誕生した際、鹿島アントラーズを誘致した当時の鹿島町(現・鹿嶋市)の人口が約4万5千人だったことが話題になりました。新富町には、その1/3しか人が住んでいないのにもかかわらず2つのチームがホームゲームを開催しているのです。

ユニリーバスタジアム新富に隣接する新富町フットボールセンター 提供:ヴィアマテラス宮崎

サッカーを軸にしたまちづくりが進む新富町

その構想を知ると誰もが驚きます。テゲバジャーロ宮崎はプロチーム、ヴィアマテラス宮崎もWEリーグ参入を目指しています。2つのチームを運営するクラブを新富町は支援しています。なぜでしょう。新富町にお聞きすると「プロチームであることに意義がある」と言います。プロチームを応援する人は全国にいる、プロチームの試合を見るために新富町の外から人がやってくるというのが理由の一つです。新富町はサッカーを中心とした地域活性化を目指しているのです。スタジアムを地域の交流拠点にする考えは岡田武史さんの今治里山スタジアムが有名ですが、新富町もそれに劣らないくらいのスケールです。

完成イメージ 提供:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構

新富町フットボールセンターは新富町が18億円を投じて整備しました。隣接するユニリーバスタジアム新富の敷地を含め5億円以上を投じた用地取得からスタートし、大規模な地域活性化拠点施設を整備しようとしています。日帰り入浴施設、農業振興施設……一年を通して人が集まり賑わう場所となるのです。この町に長く住む人、移住してきた若い人、サッカーを観戦するために町の外から訪れる人、プレーするために町の外から訪れるチームがここで交わります。

こうした、サッカーを軸にしたまちづくりのためにハードの整備をするだけではなく、働く人も確保しているのが新富町の取り組みのユニークなところです。2023年は選手・スタッフのうち17名が地域おこし協力隊制度(都市地域から人口減少や高齢化等の進行が著しい地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る総務省の取り組み)を活用して働き新富町で暮らしています。

新富町フットボールセンター 提供:ヴィアマテラス宮崎

常にサッカー選手であることを実感して生活できる新富町

さて、ここまでは主に町の側から見たサッカーの話でした。今度は、逆にヴィアマテラス宮崎から見た新富町とチームの未来像についてお伝えします。まずは、全国から集まってプレーする選手たちのモチベーションはどうでしょう。秋本さんは、ヴィアマテラス宮崎での生活は選手たちの望む環境をある程度は用意できていると感じています。新富町で暮らす人たちの多くは、地域おこし協力隊として働く選手・スタッフの力を高く評価しています選手が来てくれて町の雰囲気が明るくなった」という声もよく聞きます。

「他のチームの場合はサッカーと仕事と社会貢献活動は別の事柄になります。プレーしながら企業で働き、さらに、ホームタウン活動や社会貢献活動活動をします。新富町の場合は、プレーと地域おこし協力隊の仕事とホームタウン活動や社会貢献活動活動が一体となっています。」

(残り 2513文字/全文: 5538文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ