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何が日本の女子サッカーを変えたのか? なでしこジャパンの復権をJリーグ指導経験者が語る Jリーグ、なでしこリーグ、WEリーグ、外国籍選手……日本サッカーの総力戦だった女子ワールドカップの進撃 前篇

なでしこジャパン(日本女子代表)の戦いは、世界の女子サッカー関係者に強いインパクトを与えました。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023のグループステージは参加全チームの中で最多得点、無失点。優勝したスペイン女子代表を4−0で下しました。アメリカのテレビ中継局F O Xで番組パーソナリティを務めた元アメリカ代表のアレクシー・ララスさんはラウンド16の開幕時になでしこジャパン(日本女子代表)をパワーランキング(優勝候補)のトップで紹介しました。

準々決勝は惜しくも僅差でスウェーデン女子代表(東京2020大会準優勝、今大会3位)に敗れましたが、リオ五輪予選以降は低迷が感じられていた日本の女子サッカーは復権。次の目標となる女子オリンピック サッカートーナメント パリ2024に向けて期待が高まります。

才能が開花した選手たち、強い結束力を示したチーム、「奪う」をコンセプトに指導してきた池田太監督、日本サッカー協会のバックアップ体制の評価は高まる一方ですが、それらだけが躍進の理由ではないはずです。そこには背景や土台となるものがあったはずです。今回は、東京2020大会直前の2019年以降のなでしこリーグとWEリーグ、そして日テレ・東京ヴェルディメニーナから、なでしこジャパンの復権を検証します。

突破する清家貴子選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410 ※M S&A Dカップ2023 トップ写真も

2021年秋にスタートした池田太監督のなでしこジャパン

池田監督が就任したのは東京2020大会後の2021年10月。就任会見では「これから新しい女子サッカーの世界をつくり上げながら、皆さんと一緒に戦っていければ」と話しました。

東京2020大会を戦ったなでしこジャパン(日本女子代表)にはプレーの強度に課題があり、ボールを奪う回数が少ないことがデータに表れていました。守備は前線も最終ラインもゾーンを分担する意識が強い役割分担となったため、縦パスが入ってきたときに、マンツーマン気味に相手を潰しにかかったり、一人一人がボールを奪い切ったりする意思が見た目に感じにくいサッカーとなっていました。ただ、それは無理のないことでした。その頃までの日本の女子サッカーの守備戦術は、代表チームもクラブチームも人数をかけてボール保持者を囲み相手のミスを誘発する、もしくはブロックを形成し相手の攻撃スピードを落とすことが主流となっていたからです。

しかし、日本の外では各国の戦術が高度化。また、選手一人一人の身体能力や技術が高まったため、国際試合ではボール保持者に対して人数をかけて囲んでも一気に逆サイドの空いたスペースに展開されたり、球際の強さを使ってドリブルで強引に突破されたりしてしまうことが目立ち、どうしても守備のラインの位置が下がってしまう傾向が出ていました。 

「日本の女子サッカーではない女子サッカー」とは何だったのか?

時計の針は東京2020大会よりも少し前に戻ります。2020年に一人の監督が、当時はなでしこリーグ1部で戦っていたノジマステラ神奈川相模原に就任しました。北野誠さんです。それまでカマタマーレ讃岐やF C岐阜で監督として采配をふるってきた監督です。就任に際し「女子だからこう戦うべき」というものが強すぎると感じた北野さんは「日本の女子サッカーではない女子サッカー」をテーマに、縦に速いアグレッシブなサッカーの実現を目指しました。

「当時のなでしこリーグは、だいたいが4―4―2のシステムで似たサッカーをしていました。それを変えたかったです。中盤に厚みのある3−4−3で撃ち合いを挑みたいと思っていました。お客さんを90分間、飽きさせないサッカーを目指しました。」

北野さんが、まず選手に要求したのは一対一でボール保持者に迫る守備です。その距離の基準は1.5メートル。球際の強度を高めることを求めました。今のWEリーグでは当たり前になっている守備のやり方です。

球際で激しく競り合う植木理子選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410 ※M S&A Dカップ2023

「これまでの守備は『奪いにいっていないよ』と話をしました。1.5メートルというのは僕の中で『相手の視野が狭くなる距離』です。J2で指揮していたときも同じことを言っていました。」

北野さんは視野の話に男女の差はないと言います。ただ、北野さんの耳には「できるわけがない」「女子にあんなサッカーをやらすな」という声が入ってきました。結論だけ言えば、WEリーグが開幕してからのノジマステラ神奈川相模原は、北野さんの目指した「撃ち合いを挑む」サッカーを実現したとはいえませんでした。チーム内に軋轢が生じ、どちらかというと「ゴール前に大型バスを置く」サッカーの印象が強くなりました。しかし、就任1年目の2020年10月3日、2020プレナスなでしこリーグ1部 第13節の日テレ・ベレーザ戦は、当時の女子サッカー界に強い衝撃を走らせ、大きな影響を与えることになりました。

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