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猶本光選手の元チームメイトがオーストラリアで感じる日本との違い 女子サッカー人気を高めた多様性とソーシャル、憧れに直結する海外組の「ストロング」

マチルダズ(オーストラリア女子代表)の快進撃が止まりました。FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023の準決勝は7万5千人以上のファン・サポーターを集め歓声がこだまする肉弾戦となりました。主将のサム・カー選手の同点弾で場内は最高潮のムードとなりましたが、イングランド女子代表の圧力に屈したマチルダズは終盤に連続失点。1-3で敗れ3位決定戦に回ります。

スタンドの熱気はすさまじいものがありました。バックスタンド、メインスタンド、ゴール裏スタンドの各所からコールが沸きあがり、フィールドの選手たちを後押ししました。準決勝と決勝の舞台となるシドニーの街を歩けば大会カラーのフラッグが目に入ります。トップ画像のようにチームカラーを身のまとったファンが軽やかに歩きます。日本代表のエンブレムの入ったマフラーを身に付けた筆者に微笑みかけてくれる人もいます。

今、オーストラリアは、まるで女子サッカーを中心に社会が回っているかのような錯覚をしてしまいそうです。

試合後の大混雑

猶本光選手(浦和)は福岡の女子サッカー界にとって思い出深い選手

福岡J・アンクラスが初のなでしこリーグ1部昇格となった2010年の開幕・浦和レッズレディース戦に猶本選手を抜擢した監督の河島美絵さんは、現在も福岡J・アンクラスを率います。FIFA女子ワールドカップに初出場となった猶本選手を追いかけて、選手、コーチングスタッフと共にニュージーランドのスタジアムに駆けつけました。猶本光選手は中学・高校時代の日々をなでしこリーグの福岡J・アンクラスですごしました。トップチームに登録されたのは13歳のとき。なでしこリーグ2部でプレーしています。猶本選手は、当時の福岡J・アンクラスのチームメイトにとって今でも特別な選手です。

かつて、福岡J・アンクラスで主将・10番を背負った花田亜衣子さんは猶本光選手が筑波大学に進学し三菱重工浦和レッズレディース(当時・浦和レッズレディース)に移籍するまで6年間、福岡で一緒にプレーしました。その頃の印象を話します。

「優れた人間性や努力の仕方が印象に残っています。」

花田さんはニュージーランドに駆けつけることはありませんでしたが、お隣のオーストラリアにいました。なぜなら、2019年から、自らが経営するハナスポーツクラブで子どもたちにサッカーを教えているからです。

花田亜衣子さん

昨シーズンのリーグ年間最優秀選手賞を獲得した花田亜衣子さん

筆者はFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023の準決勝、決勝に合わせて約1週間、シドニーに滞在します。現地の女子サッカー情報をお伝えします。今回は、その第一弾としてオーストラリアから花田さんのインタビュー記事をお届けします。花田さんは『がんばるのをやめてみた Kindle版』  (https://amzn.asia/d/12vSAd5)を2023年7月に発売したばかりです。

シドニー・ダーリングハーバー

花田さんはサッカーを教えながら、週末はF Q P L1ウィメンのロビーナ・シティ・サッカークラブでプレーしています。プロリーグであるAリーグ・ウィメンから数えると3部リーグに相当するディビジョンです。昨シーズンのロビーナ・シティ・サッカークラブはF Q P L2を24戦無敗で優勝しました。日本では攻撃的なポジションを任されることが多かった花田さんは、このチームで主にセンターバックとしてプレーし失点はわずかに7。リーグ年間最優秀選手賞を獲得しました。ホームタウンはゴールドコーストのロビーナ地区です。ゴールドコーストは美しい白浜が続くサーファーズパラダイスで有名です。自然と都市が調和した人気のリゾート地です。

サーファーズパラダイス

花田さんは度重なる怪我もあり28歳で第一線のプレーを引退。全くサッカーから離れた人生をオーストラリアで歩もうとしていたところ、知人から2人のお子さんにサッカーを教えてほしいと頼まれたのが、オーストラリアでのサッカーとの関わりの始まりでした。日本人コミュニティ内の口コミもあって、いろいろな人から同様の依頼を受け、気が付けば20人以上のお子さんにサッカーを教えていたのです。特徴は「日本語で指導する」こと。日常生活では日本語を使う機会が減少してしまう子どもたちが、自然にサッカーボールで遊びながら日本語で会話できるのが親御さんたちに好評です。同時に、日本流の礼儀やルールを守ることも学んでいきます。今では4歳から12歳を対象に5カ所で約90人の子どもたちにサッカー教室を行っています。

シドニー・ダーリングハーバー

今回、特に花田さんにお聞きしたかったのは「オーストラリアの女性にとってサッカーはどのようなスポーツなのか」そして「なぜ、オーストラリアで女子サッカーの人気が爆発したのか」です。質問への回答は日本とオーストラリアの両国で女子サッカーに長く携わった花田さんならでは。この素晴らしいインタビューの実現をサポートしてくださった福岡J・アンクラスの監督の河島美絵さんに感謝します。

プレーするスポーツとして人気が上がってきたサッカー

花田日本のサッカーはエレガントなプレーに沸きますね。でも、オーストラリアのサッカーは、ガーンとぶつかるシーンで盛り上がります。サッカーだけれどもラグビーのようなところがあります。オーストラリアでサッカーは人気スポーツというわけではなかったのですが、最近は、子どもにラグビーやA F L(オーストラリアンフットボール)ではなくサッカーをプレーさせたい保護者も増えています。ラグビーやA F Lは頭への衝撃も強いし大きな怪我の心配があるからです。多くのクラブでU-6からトップチームまで、すべての年代に男女のチームがあります。

アメリカではアメリカンフットボール、アイスホッケーのような防具を使うスポーツが盛んなので、脛当て以外の防具が不要なサッカーは安全なスポーツと位置付けられているそうです。オーストラリアにも似たところがありそうですね。

 花田そういうところもあるかもしれません。それから、オーストラリアは人権意識が高いです。サッカーは男女平等でフェアな競技というイメージがあります。以前のチームメイトに「なぜサッカーをプレーしているのか」聞いたことがあります。何人かの選手は「ソーシャルのためにやっている」と言っていました。1部リーグの選手はセミプロなのですが、週に3回のトレーニングをして週末にゲームというスケジュールでした。それほどハードなトレーニングはしない。いかにサッカーを楽しむか、人生を豊かにするかが重要で、その中でいかに勝つかを考えます。

今の所属チームには私のチームには、子どもを2人持つママさんプレーヤーが2人います。仕事、子育てもしながら、ソーシャルとしてサッカーを楽しむ。練習は平日の夜ですから、家族の理解やサポートがあるのだと思います。オーストラリアには「まず、自分が幸せになることが周りを幸せにすることにつながる」という考え方があります。世界で戦う各国の代表選手にもママさんプレーヤーがたくさんいますね。

誰かが我慢するのではなく、お互いが幸せになるためにサポートし合う、その社会の仕組みづくりに与える女子サッカーの影響は大きいと思います。

花田亜衣子さん

オーストラリア社会とサッカーの本質との良い相性

花田「勝たなきゃいけない」プレッシャーを受けてプレーしている(日本の)子たちと楽しいからプレーしている(オーストラリアの)子たちがいる。サッカーを辞めた後も含め、どちらが豊かな人生につながるのだろうと思います。

こちらの子たちは主体的で外向きだからエネルギーの使い方がポジティブです。日本だと勝つために「なぜ、そんなパスを出すの!」とピッチ上で喧嘩のようになってしまうことがあります。でも、こちらだと相手の主張を1回飲み込んで「でも、私はこう思うよ」と建設的な意見交換をすることが多いです。だから社会が良くなるスピードが早いし無駄がない。その場を楽しむ力があり、間違っている可能性があっても躊躇せず発言できる。「いい子にならなければならない」みたいな考えが生まれにくいです。指導していて、日本とオーストラリアの違いを感じますね。

多民族でソーシャルでフラットなオーストラリア社会が、サッカーの本質と良い相性になっているような気がします。

花田そうですね。どこの国の人なのかを意識することはほとんどなく男女も対等ですから社会がフラットです。例えば、男子のトップチームがずっと一番良いグラウンドを使用していたら、それを問題視する声が必ず上がります。でも、おそらく日本でそのような声を上げると「勝ってから言えよ」みたいなことを言われる。だから言いにくくなる。オーストラリアは社会の仕組みが弱者に優しく、弱い立場の人や発展途上なものをサポートしていこうという余裕があるのだと思います。

車いす席の脇に緊急連絡ボタンが設置されているシドニーの鉄道

今のお話を聞くと、日本の女子サッカーも、日本サッカー協会とWEリーグが少しばかりオーストラリアに近い方向に舵を切り始めたように感じます。

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