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「地球3個分」の戦力を加え上昇を目論むアルビレックス新潟レディース 代表取締役社長 山本英明さんが描く未来は、あの一枚の絵

アルビレックス新潟レディースにビッグネームが加入しました。2011年になでしこジャパン(日本女子代表)が世界一になった際の原動力・川澄奈穂美選手です。川澄選手は、2023年8月1日に行われた記者会見の最後に「新潟にタイトルを」と力強く宣言しました。アルビレックス新潟レディースで10番を背負う上尾野辺めぐみ選手は、川澄選手の加入についてツイートしました。

「どれくらい来てほしいと聞かれたので地球3個分と伝えたら来てくれました」

川澄選手と上尾野辺選手の付き合いは20年以上です。2人は神奈川県大和市内の小学生年代のサッカーチームでプレーしていましたが、中学校に進学時、近隣に女子がプレーできる中学生のチームがないことがわかりました。そこで、保護者を中心に新たなチームを立ち上げることになりました。そのチームが、現在の大和シルフィードです。当初は中学生年代中心のチームだった大和シルフィードは、現在、なでしこリーグ1部で戦っています。また、大和シルフィードでプレーしていた中学生が入学した大和市内の高校に、新たに女子サッカー部が生まれる等、地域でサッカーやスポーツを楽しめる環境が広がりました。そのようなきっかけになった川澄選手と上尾野辺選手がアルビレックス新潟レディースで再びチームメイトとなります。

スポーツを「する・見る・支える」文化を創る「地球3個分」くらいの期待

才能ある若い選手が多かったチームに実績豊富な選手が融合し巻き返しを図ります。アルビレックス新潟レディースで代表取締役社長を務める山本英明さんは、川澄選手の加入にどのような期待を抱いているのでしょうか。

「『地球3個分』くらい期待しています(笑)という冗談抜きに世界で活躍されてきた選手ですから、上尾野辺選手は、よく『地球3個分』と表現したと思います。それくらい影響力を持っています。だから、加入の効果は集客だけではありません。僕がすごく大事に思っているのはグラスルーツ。サッカーやスポーツを楽しめる子どもたちや、環境を増やしていくことが女子サッカー界の一つの使命だと思っています。川澄選手の加入でクラブ内が活性し、それが地域に波及し、『サッカー選手を目指したい』『スポーツっていいよね』と言ってくれる人が増えてほしい。スポーツを『する・見る・支える』文化を醸成していく力添えをしてくれたら嬉しいです。アルビレックス新潟レディース、WEリーグ、女子サッカー界が、もっと女子サッカーの魅力や楽しさを広げていく発信をできたらと思っているので、すごく期待しています。やはり、それは『地球3個分』くらいあるのかもしれないですね。」

アルビレックス新潟レディース 代表取締役社長 山本英明さん

アルビレックス新潟は2019年1月にレディース部門を独立事業化し分社しました。そこで株式会社アルビレックス新潟レディースの代表取締役社長に就任したのが山本さんでした。アルビレックス新潟のレディース統括部長時代から常に自信を持ち未来を見据えた前向きな発言を続けてきました。今回の取材で、筆者が「トップチームが」と口にすると、こう言いました。

「僕らは『トップチーム』というのはうちらのことだと、昔からずっと言っています。選手が男子のチームを指して『トップチーム』と言ってしまうことがあるので、選手に『自分たちがレディースのトップチームだよ』と……。」

スタートダッシュの成功を狙い念入りに準備

ファミリーと一緒に新潟でスポーツ文化を創っていく

サンパウロで生まれインドネシアで幼少期を暮らした山本さんは自らを「アルビレックス新潟で育てていただいた」と語ります。クラブの先人たちが紡いできたJリーグ百年構想の実現を目指して日々を送ってきました。その気持ちに今もブレはないと話します。以前に筆者が、シンガポール女子プレミアリーグのアルビレックス新潟シンガポールでプレーする北原佳奈選手に移籍の決め手を聞くと、こんな答えが返ってきました。

「アルビレックス新潟というチームが好きだったからです。やっぱり『アルビっていいな』って思います。ファミリー感が強いです。」

そのことを伝えると、山本さんから新潟で目指すフットボール・クラブ像のお話が返ってきました。

「僕たちが目指したいのはファミリーのような環境です。例えば、鹿島アントラーズには『アントラーズイズム』のようなものが育っています。選手O Bやこれまで関わってくれた方々が最後には鹿島アントラーズのために集まってくれる。アルビレックス新潟も、ここ数年で強化、育成、営業の要職に選手OBが就いているので、そうしたファミリーの雰囲気が浸透してきました。地域の皆さん、サポーター、そして、引退や移籍があっても一度はエンブレムを胸に付けた選手……ファミリーと一緒に新潟でスポーツ文化を創っていけるところに、この仕事の魅力を感じています。だから北原選手のその言葉がすごく嬉しかったですね。」

暑さの中で行われるトレーニング

勝てない苦しみの中で見つけた希望とは何か?

アルビレックス新潟レディースは2シーズン連続で苦しい日々をおくりました。2023―24シーズンの開幕を前に、2022−23シーズンを振り返っていただきました。

「結果が全ての世界なので、良い評価はなかなかできない。本当に苦しいシーズンでした。応援いただいているファン・サポーターの皆様、スポンサー、株主、ステークホルダーの方々には本当に申し訳ない思いです。ただ、そこに至るプロセス、ピッチの上では見られない裏側の努力、選手たちの頑張りや成長したい姿勢も含めて、選手、監督、スタッフは精一杯をやってくれたと思い、本当に感謝しています。勝てない苦しみの中で、一枚岩になって進んでいく必要性と難しさを感じましたが、必ず経験が次に活きていくので前向きに捉え、この日々が明日への糧となっていくと信じています。」

シーズン途中で加入し力を発揮したブラフ シャーン選手

新潟から国境を越えた活動をできるのもアルビレックス新潟レディースの魅力

アルビレックス新潟レディースは2022−23 WEリーグアウォーズにおいて、最も印象的なWE ACTION DAYの取り組みに贈られるMOST IMPRESSIVE WE ACTION DAY「情報発信部門」「連携部門」の2部門を受賞しました。

J I C A 海外協力隊の「世界の笑顔のために」プログラムの活動に参画し、サッカーボール、ユニフォーム等を開発途上国であるウガンダ共和国北部のパギリニャ難民居住区の女子サッカー選手たちのほか、中高等学校のサッカー部などへ寄贈。ウガンダ共和国の少女との交流を行ったのです。この、女子プロサッカーチームらしいアクションは、女子サッカーとあまり接点を持っていない人にまで話題を拡散する効果がありました。「『世界の笑顔のために』ユニフォームでつながるウガンダの少女たちとの国境を越えた交流(オンライン交流会)」に参加した四人の選手(平尾知佳選手、石淵萌実選手、道上彩花選手、ブラフシャーン選手)の楽しそうな表情は、今でも筆者の記憶に残っています。

『世界の笑顔のために』ユニフォームでつながるウガンダの少女たちとの国境を越えた交流(オンライン交流会)に参加した山本英明さん(中央下)

アルビレックス新潟では営業畑を歩んできた山本さんですが、入社当初は海外事業の仕事に関わりたい希望を持っていました。その思いが実を結び高い評価を受けた取り組みでもありました。しかし、山本さんは、この話題について「付け加えてほしいことがある」と言います。

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