WE Love 女子サッカーマガジン

なでしこジャパンの「前十字代表」千葉玲海菜選手(千葉L)と高橋はな選手(浦和) 「千葉から世界へ」林香奈絵選手(千葉L)が振り返るリハビリの難しさとニュージーランドへ贈るエール

第1戦のザンビア女子代表戦を5−0で快勝したなでしこジャパン(日本女子代表)は2023年7月26日(水)にコスタリカ女子代表と第2戦を戦います。グループステージを突破するためには大切な試合です。南半球のニュージーランドは冬。ザンビア女子代表戦の試合会場となったワイカトスタジアムの気温は8度。プレーするには良いコンディションです。

今大会のメンバーの中には2022−23 YogiboWEリーグの終盤戦で所属チームの戦列に復帰した二人の選手がいます。千葉玲海菜選手(千葉L)と高橋はな選手(浦和)です。いずれも右膝前十字靭帯損傷の試練を乗り越えてなでしこジャパン(日本女子代表)に滑り込みで復帰しました。千葉選手はザンビア女子代表戦で90+3分に交代出場。2022年7月26日に開催されたEAFF E1サッカー選手権2022決勝大会・中国女子代表戦以来、約年ぶりの出場でした。

M S&A Dカップ2023での千葉玲海菜選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

林香奈絵選手はチームの柱となる存在

ニュージーランドとは逆に日本は夏。秋春制のWEリーグの開幕に向けて準備する季節です。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースのディフェンダー・林香奈絵選手は、猛暑の中での厳しいトレーニングを終えて笑顔で部屋に入ってきました。

「この暑さの中でも明るくやれるのが、このチームの良さと思っています。」

昼下がりにインタビュー取材は始まりました。この日はヘッドコーチに就任したスペイン出身のイスマエル・オルトゥーニョ・カスティージョさんが、初めて本格的にトレーニングの指揮を執りました。これまでとは全く異なる雰囲気でトレーニングは進み緊張感が漂うのと同時に戸惑いも。そのせいか、トレーニングの合間に水を入れると、各所で選手同士の会話が活発に始まります。

ヘッドコーチのイスマエル・オルトゥーニョ・カスティージョさんと言葉をかわす林香奈絵選手

「若いチームだからこそ風通しの良い雰囲気を作れているのかな。年齢に関係なく皆で会話できる。これからシーズンが進んでいく上で、良いときだけではなく悪いときも今の状態が続いていけば、良い結果につながると思っています。」

林選手は、新加入の3人の選手に積極的に声をかけています。「本当にこのチーム来てよかったと思ってもらえるチームにしたいから」だそうです。林選手は、常にこのチームでリーダーシップをふるいます。新加入選手の一人・サンフレッチェ広島レジーナから移籍した山口千尋選手は、2023−24シーズン新体制発表会見でこのように話しています。

「ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは怖いイメージだったのですが入ってみたら明るくて仲が良くて、思っていたのと真逆のチームでした。毎日、サッカーが楽しいです。」

新加入の上野紗稀選手、山口千尋選手と積極的にコミュニケーションをとる林香奈絵選手

千葉玲海菜選手と高橋はな選手は「前十字代表」としてプレーしてほしい

約40日前の6月13日にFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023のメンバーが発表されました。「千葉から世界へ」……その「千葉」はホームタウンの「千葉」を表すと同時に千葉玲海菜選手の苗字を表します。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースからは千葉選手が選出され、現在、世界一を目指す戦いに身を置いています。

千葉選手は2022年9月のトレーニングマッチで右膝前十字靱帯損傷による全治8カ月の大けがを負いました。2022−23 YogiboWEリーグの大半をリハビリに費やし、フィールドに立ったのは2023年5月3日の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦から。メンバー選出はサプライズでした。そして、千葉市内のクラブハウスで行われた記者会見場に6人の選手が祝福の乱入するサプライズもありました。そのうちの一人が林選手です。林選手も左膝前十字靱帯損傷で全治10ヶ月の大怪我を負い、4月29日のちふれASエルフェン埼玉戦でフィールドに復帰しています。林選手は千葉選手の怪我よりも少し前の7月23日に行われたEAFF E1サッカー選手権2022決勝大会で負傷しました。その試合は林選手にとってはなでしこジャパン(日本女子代表)でのデビュー戦でした。2人は共にリハビリに励み努力してきました。

M S&A Dカップ2023では千葉玲海菜選手への寄せ書きの日の丸も Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

リフレッシュが必要だった苦しいシーズン

私はオフになった瞬間に千葉からいなくなりました。3ヶ所くらい旅行に行って、全くサッカーには関わらない時間を過ごしました。リハビリは本当に地道なことが続きますから、これまでで一番自分と向き合った苦しいシーズンでした。このタイミングで、一度、自分をサッカーから切り離してしっかりリフレッシュしないと「また頑張ろう」と思えない気持ちだったのです。それこそ、インスタのアカウントを開くこともなく離れてみて徐々に「やっぱりサッカーをしたい」という気持ちになっていきました。

林香奈絵選手

池田太監督はEAFF E1サッカー選手権2022決勝大会で新しい戦術を取り入れメンバーのトライも行っていました。ひょっとすると林選手がFIFA女子ワールドカップに出場できるのではないかと思って見ていたので、あの怪我はとても残念なアクシデントでした。

FIFA女子ワールドカップは、WEリーグで戦う選手の誰もが目指した場所だと思います。ただ、自分は、所属チームの成績が振るわなかったので、リハビリ中から「ワールドカップへ!ワールドカップへ!」と思うよりは「まず、この脚をしっかり治して、次の年のパリオリンピックへ」と思っていました。自分自身に矢印に向けてリハビリを続けてききました。

林香奈絵選手

玲海菜と一緒にリハビリできて良かった

リハビリ中に(千葉)玲海菜、高橋はな選手(浦和・2022年11月に右膝前十字靭帯損傷で全治8ヶ月)、栗島朱里選手(浦和・2021年10月に右膝前十字靭帯断裂しリハビリを経て2022−23 YogiboWEリーグ開幕戦で試合に復帰)と一緒にご飯を食べたり、リハビリの話をしたりしたことがあります。

合宿で激しくボールを奪い合う千葉玲海菜選手

(自分が選ばれない)悔しい気持ちがないわけはありませんが、しっかりと現実を見てFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023のメンバー発表を受け止めましたし、メンバーに選ばれた人たちに特別な思いがあります。玲海菜と高橋はな選手には怪我なく頑張ってほしいし「前十字代表」として大会に行ってほしい気持ちの方が大きかったですね。

なでしこジャパン(日本女子代表)復帰が決まった千葉玲海菜選手に花束を贈る林香奈絵選手

記者会見ではサプライズで千葉選手を祝福されました。同じ怪我をされた林選手が中心になっておられたので、見ていた私は胸がいっぱいになりました。

両親、私を応援している人たちが見たら、私の気持ちを読み取ってくれたり「きっと悔しい思いもあるだろう」と考えてくれたりしたと思うのですが、なにせ、私はあのサプライズを企画した人間ですし、玲海菜と二人で励まし合って、本当にずっと前向きにリハビリしてきたことが結果につながったので、心から嬉しかったです。

玲海菜と一緒にリハビリできて良かったと思います。お互いの存在があるから「あいつ以上にやってやる」みたいな気持ちが大きかったですね。私のリハビリの方が当初は進んでいたので、あの頃の玲海菜は私に追いつこうとしていました。

林香奈絵選手

二人で撮影したリハビリ動画

そのリハビリを動画で公開し続けていましたね。

いろいろな意見はあると思いますが「するしかなかった」です。怪我をしている自分の状況では、サッカー選手としての価値はゼロだったと思っていました。ピッチに立ってプレーして結果を出す以外に選手としての価値はないと思ったのです。その状況では「リハビリをしている私」の情報発信をすることが「リハビリ中の選手としての価値」だと思いました。怪我することに絶対にメリットはない。それに加えて発信することにデメリットもあります。でも、黙々とリハビリするよりも発信し、いろいろな人が「私も頑張ろう」と思ってくれることに価値が生まれると思いました。だから玲海菜と二人で自然に動画の撮影を始めました。

もちろんクラブの許可は必要で、映してはいけないものもあります。でも、あまり制限されることもなく二人で発信することができました。トップチームのトレーナーに撮影してもらうこともあり、私たちだけの発信ではなく、クラブとしての発信だと思っています。それから、最初の3ヶ月間はトップチームのトレーナーの方にしっかり診ていただきました。ある程度のリハビリができるようになってからチームに戻って、チームトレーナーに診てもらいました。クラブとして支えてもらったのがすごく大きいです。本当にクラブに感謝しなければいけないないと思っていますし「ジェフで良かった」と思っています。

ウィンターブレイク中に黙々とトレーニングしていた林香奈絵選手

立ち止まる勇気を自分に示してくれた栗島朱里選手(浦和)

—WEリーグは試合数が少ないので、リハビリをしながら残り試合が減っていくのを感じたときに早く復帰したいという気持ちが強まったのではありませんか? 

そこが一番リハビリで難しかったところです。

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