WE Love 女子サッカーマガジン

閉幕・WEリーグ入場者数低迷の本当の理由は? 数字で検証する秋春制の影響 さらに重大な「WEリーグ3月問題」と「憧れの形成」を振り返る

2023年6月10日、2022−23 YogiboWEリーグは第22節を終えシーズンが閉幕しました。試合内容、運営、WE ACTION 等で大きな進歩があったものの平均入場者数は1千401人にとどまりました。今シーズンはWEリーグのみならずJリーグでも雨天時の大幅な入場者数の落ち込みが印象に残っています。例えば横浜F Cのホームゲームは7千人以上の平均入場者数で推移しましたが、雨天となった第5節(3月18日)は3千401人にまで落ち込みました。新型コロナウィルス感染症の脅威は幾分弱まったとはいえ、雨に打たれて体調を崩し発熱したくないご時世、ファミリー層の比率の増加、そして、もしかすると、企業による購入を含めご自分でチケットを購入していない入場者の割合が、以前より増えているのかもしれません。この傾向は続く可能性がありますから、雨天でもスタジアムに足を運んでいただけるような環境づくりは重たい課題となるかもしれません。

今回のWE Love 女子サッカーマガジンは、2022−23 YogiboWEリーグを振り返り、入場者数低迷の理由を検証します。入場者数を増加に転じるために考えるべきポイントを考えます。WEリーグの未来はWEリーグ事務局やチームの努力だけで拓けるわけではありません。読者の皆さんのご支援や活発な意見交換も役立つはずです。ぜひ、この機会にWEリーグのあるべき姿を一緒に考えてみてください。

ファン・サポーターにとって魅力あるWEリーグとは

数字で明らかになった「WEリーグ3月問題」

WEリーグの入場者数が話題となる際に秋春制を最大の問題に挙げる人が多数存在します。果たして、その指摘は、どの程度まで実態を表しているでしょうか。2つの数字から確かめてみましょう。実は、WEリーグには秋春制の影に隠れた「WEリーグ3月問題」が存在します。秋春制も間接的に影響しますが、さらに大きな課題が潜んでいることが2シーズンを通して見えてきました。

では、まず、WEリーグ(女子サッカー)の注目度の推移から検証してみましょう。

グラフはWE Love 女子サッカーマガジンの閲覧数の傾向です。5月を除くと、2年連続で似たような傾向を描き推移したことがわかります(2021−22シーズンの5月に注目が集まったのは最終節が5月に設定されていたため)。冬の到来を待たず、11月に閲覧数が落ち込みます。これは、リーグ戦の開幕で集まった注目が、すぐに冷めてしまったことの表れです。特に1年目のシーズンは、WEリーグ開幕への期待が大きかったせいか、これを顕著に見ることができました。

三菱重工浦和レッズレディースに染まる浦和駒場スタジアム周辺

雪で中止(延期)となった試合が1試合ありました(2022年12月24日 第7節サンフレッチェ広島レジーナ×アルビレックス新潟レディース)。大きく問題視する人もいますが、春秋制のJリーグでも、過去30年間に4試合(12月1試合、3月2試合、4月1試合)が雪で中止(延期)になっているため、秋春制特有の問題として特別に大きく評価する必要性はないと考えられます。むしろ、注意深く数字を見れば陰に隠れているのは「WEリーグ3月問題」です。

秋春制の論点については、こちらの記事をご覧ください。

秋春制の現実がWEリーグから見える これでも賛成?反対? 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】

12月、1月よりも3月中旬からの入場者数が落ち込むWEリーグ

次の表はWEリーグの節ごとの入場者数の推移(5月まで)です。「秋春制は12月、1月の寒さが問題」と言われることが多いですが、実は、WEリーグでは3月中旬から入場者数が落ち込むことが見てとれます。

赤い文字は平均入場者数が1千100人未満の節です。真冬の12月、1月、そしてウィンターブレイク明けの3月上旬までは目立たない赤い文字が3月中旬以降に急増するのがよくわかります。こうした「WEリーグ3月問題」の傾向は2シーズン連続で現れています。何を意味するのでしょうか。

ウィンターブレイクでシーズンが分断されてしまい、そのリスタートを上手くできないという指摘があります。その影響はあるでしょう。ただし、ウィンターブレイク明け直後の3月上旬は入場者数が落ち込まず、むしろリーグ再開で注目を集めているように見えます。つまり、気候も穏やかになった3月中旬から入場者数が落ち込むことには、ウィンターブレイクによる分断とは別の要因もあると考えるべきではないでしょうか。

防寒対策をした冬の観戦

「選ばれるWEリーグ」となるために誰をスタンドに増やすか?

WEリーグにはJリーグのような昇格・降格がありません。2位以下のチームによるA C Lの出場権争いもありません。優勝争いから脱落したチームが、ファン・サポーターをうまくスタジアムに呼びこめていないのかもしれません。WEリーグは、かねてから試合数を増やす必要性も感じています。そのため、順位や優勝を決定するプレーオフのようなポストシーズンの導入も含め、柔軟な解決策のアイデアを出し合っていくかもしれません。

そして、別の仮説として考えられるのは休日の過ごし方の一つとして競合する各種レジャーの活発化です。3月中旬は花見を始め、春の行楽やスポーツ観戦の選択肢が急増します。それらと、比較されたときに。WEリーグが選ばれていないのかもしれないという点です。

逆に、Jリーグをはじめ屋外でのスポーツ観戦の機会(WEリーグにとっての競合)は、12月と1月に減少するため、代わってWEリーグ観戦が選択される可能性が高まるといえます。そうした理由のためか、12月末と1月のWEリーグは比較的多くの入場者を集めました。

3月中旬になるとJリーグはJ1からJ3までが出揃い全国各地で熱戦の話題が広がっています。プロ野球はオープン戦を終え開幕直前。今年に関しては、日本中がW B C(ワールド・ベースボール・クラシック)の熱気に包まれていました。こうした競合関係の中で、どのようにすれば「選ばれるWEリーグ」となるのか、ターゲティング戦略が重要になります。

雨天時に入場者数が落ち込むことからみられるように「WEリーグ大好き」というコアなファンを育成しきれていない面もあります。「天気が良い日に近くでやっているサッカーがあれば見にいく」「機会があれば見に行く」「他に用事がなければ見に行く」といった感覚での来場者層が多いのかもしれません。WEリーグの価値やポジションを引き上げ「週末にWEリーグを見に行くのが日課」というファン・サポーターを増やしていくことが急務です。

Jリーグを観戦しているようなファン・サポーターやマニアに頼る集客には限界がある

Jリーグを観戦しているようなファン・サポーターやサッカーマニアの来場拡大だけではなく、Jリーグと重複しないファン層の開拓も必要です。Jリーグのファン・サポーターは豊富なサッカー観戦経験がありWEリーグも観戦していただける可能性を秘めています。しかし、その反面、今のところは、JリーグとWEリーグでプレースピードや強度を比較してしまう等の理由からWEリーグ観戦に足を運ぶ気持ちが起きない人、そして、ゴール裏を中心とした応援の高揚感・一体感を求めるがゆえにWEリーグ観戦に魅力を感じない人等が多く含まれます。また、試合開催日時の男女重複という問題もあります。「同日に開催されるJWEのどちらを見るか?」と判断を迫られれば、Jを見たい人が圧倒的に多いのは現実です。同日ではなく、土日の連続開催となっても、どちらかの現地観戦しか選択しない人が多いでしょう。となれば、主たるターゲットとして、新たに「Jリーグをほとんど観戦しない人」を設定しなければ伸び代に限界が生じます。

イングランドの女子サッカーは人気が急上昇し、女子F Aカップ決勝戦は7万7390人の観客を集めました。女子トップリーグにあたるW S L(ウィメンズ・スーパーリーグ)の中継動画を見ると、例えば同じアーセナルでも男子のプレミアリーグと女子のW S L(アーセナル・ウィメンF C)で、客層が大きく異なることがよく分かります。イングランドでは新たなファン・サポーターを発掘したのです。

女性ファンにサイン対応をする選手たち

あの伝統芸能も新たなファン層の獲得に本腰を入れた

一例を挙げると、伝統芸能の代表格といえる歌舞伎界は2023年から大きな路線変更を行いました。主たる客層だったシニア層に頼りすぎないファン開拓に力を入れ始めたのです。豊洲の劇場・I H Iステージアラウンド東京で上演された『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』や、幕張メッセで開催された『ニコニコ超会議』で生まれた、中村獅童さんとボーカロイドキャラクター・初音ミクさん競演の『超歌舞伎』を観劇した新たなファン層を歌舞伎の殿堂・歌舞伎座の固定客に育成するための挑戦を本格的に始めました。

歌舞伎座での定番演目の上演前に初心者でも分かるような解説をつける試みに加え、アイドルのライブやフェスのように観客席が総立ちでペンライトを振って参加する『超歌舞伎』も歌舞伎座での上演に踏み切りました。今まで、物音を立てずに静かに観劇することが当たり前だった「お堅い」イメージの歌舞伎座が、ボーカロイドキャラクターのファンによる絶叫で包まれる日は近いです(12月上演予定)。

中村獅童さんとボーカロイドキャラクター・初音ミクさん競演の『超歌舞伎』

動きはじめた各チームの新しい取り組み

アメリカ女子プロサッカーリーグNWSLの動画を見ると、昼の試合でも夜の試合でも、ピッチが映っていなくても、スタンドの雰囲気で明らかに女子リーグだと分かります。男子がプレーするMLS(メジャーリーグ・サッカー)やイングランドのプレミアリーグとはスタンドの景色も歓声の声質も違います。

特にNWSLは、新チーム立ち上げのために投資したナタリー・ポートマンさんら著名なセレブがピッチに登場するエンジェル・シティーF Cに代表されるように、女子の未来に広がる無限の可能性と連帯をブランディングし、ファン・サポーターに訴えることで同性に共感の輪を広げてきました。FIFA女子ワールドカップ フランス2019の決勝戦でも、10代、20代女性のグループ観戦が大変多く目立ちました。

また、子どもたちや小さな子どものいるご家族たちにとって魅力あるリーグにすることも大切とされています。欧州で長年活躍をしている熊谷紗希選手はオリンピック・リヨン(フランス)での経験をこのように話しました。

「試合を見てくれる子どもたち、ボールガール(パーソン)をやってくれる子どもたち、エスコートキッズの子どもたちが本当に目を輝かせながらトップレベルの選手たちと触れ合います。オリンピック・リヨンに8年間いましたが、大きくなったその子がオリンピック・リヨンのアカデミーに入ったと聞くと、それは本当に嬉しいですね。」

伝統あるチームでは、憧れの選手に触れた子どもたちが次世代の選手となって次のピッチに立つ循環が続いています。もちろん、こうした動きは海外だけで行われているわけではありません。多くのWEリーグのチームが、これまでとは異なる動きをスタートしているのです。

詳細な来場者データは公表されていませんが、例えば、日テレ・東京ヴェルディベレーザは、以前よりファミリー層の来場比率を大幅に伸ばしたように感じます。バックスタンドには子どもの姿が増えました。バックスタンドのかなりの席数を「ファミリーゾーン」とし、小さな子ども連れファミリーの優先席としました。中学生以下の子どもを対象とした選手とのハイタッチイベントも開催しています。また、明らかにJリーグとはスタジアム内外のコミュニケーションで違う路線を採用し一試合あたりの平均入場者数を53%も伸ばしたマイナビ仙台レディースはキッズや中高生を主な対象としたイベントを開催しています。ちふれASエルフェン埼玉も健闘しています。一試合あたりの平均入場者数を16%伸ばしました。ちふれASエルフェン埼玉は最上級席から観戦できる託児室付き観戦シートが評判です。

完売もあるWEリーグの託児室付き観戦シート 「エルフェンコンシェルジュ」はスタジアムを「マイホーム」と呼ぶ

ジェフユナイテッド市原・千葉レディースはホーム最終節で「こどもと一緒に観戦ルーム」を開設しました。ノジマステラ神奈川相模原は、申し込みした小中学生が「通年無料」で観戦できるドリームパスを発行している上に、芝生席ではテントの設置を可能とし、子どもたちが走り回っています。芝生席脇のトラックに面したスペースに、高さ5メートルのビックスライダーも投入しました。来シーズンはノジマステラキッズパークに、さらに遊具の投入等をすることを検討しています。こうした取り組みにより、ノジマステラ神奈川相模原は小学校訪問等で子どもたちをスタジアムに誘いやすくなりました。

ノジマステラ神奈川相模原のビックスライダー

女子サッカー先進国アメリカから学ぶプロ選手のあり方

WEリーグの各チームは選手の価値を高めようと努力しています。重要な視点です。若いファン層にアピールするために「選手たちを女子の憧れの対象に!」……そのようにテキストで訴えかける発信を目にします。しかし、それをテキストで発信するだけでは実現に近づきません。では、何をすれば良いのか?欧米の例を見てみましょう。ここから先のお話には、リーグ、チーム、選手の努力だけではなく、ファン・サポーターの協力も必要です。まずは、この動画をご覧ください。

そして、もう一つ、憧れのサッカー選手たちの才能がマッドサイエンティストに奪われてしまったため、サッカーファンの少年少女4人が選手たちのスキルを取り戻そうと立ち上がる……そんなストーリーのアニメ作品があります。こちらも予告編の動画をご覧ください。

(残り 2954文字/全文: 9115文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ