WE Love 女子サッカーマガジン

完売もあるWEリーグの託児室付き観戦シート 「エルフェンコンシェルジュ」はスタジアムを「マイホーム」と呼ぶ

WEリーグが始まった当初は「看板が変わっただけで、どこが変わったのか分かりにくい」「理念だけが先行している」という声も聞こえていたWEリーグですが、2年目のシーズンを通して、変化が顕著になりました。チームごとの個性がはっきりと見え、明確な成果を表現できるチームも増えました。理念にアクションが追いつき、ファン・サポーターへの具体的なサービスに昇華する取り組みが増えています。特に、Jクラブのチームではない独立系クラブは、独自の色を出しています。

2022−23 YogiboWEリーグで最も大きく変化したのはちふれASエルフェン埼玉ではないでしょうか。ピッチ上のサッカーの変化はもちろんですが、特筆すべきは運営の進化です。その象徴は、WEリーグ全チームの中で一番の託児室と噂される託児付き観戦シート。なんと、極上の観戦席と託児室が一体となった専用スカイビューボックス席です。この取り組みの出足は早く、2022年9月25日にトライアル利用を開始。同日の三菱重工浦和レッズレディース戦から、来場者全員に告知チラシを配布。入り口付近に大きな案内サインを掲出し、周知に務めました。その後、利用者が増加し、完売する試合もありました。

「テラス」「サロン」「ラウンジ」と命名された席割り、「ダイニングルーム」と呼ばれスタジアム外に並ぶ10台以上のキッチンカー、ティラノサウルスが踊るステージ……ちふれASエルフェン埼玉の「マイホーム」スタジアムが、なぜ、独自の進化を遂げたのか、運営責任者の竹内佐智佳さんにお聞きしました。

託児付き観戦シート

「一から近所づきあいをしよう」から始まったホームタウンでの活動

竹内私たちは、せっかく来ていただいた方に、もう一度来ていただきたいと考えてきました。Jリーグに参加するチームを持っていないクラブなので、以前からプロチームを応援してくださっているコア層がいません。WEリーグが始まり、新たにホームタウンとさせていただいた熊谷市でホームゲームを開催することになったので「一から近所づきあいをしよう」という覚悟でスタートしました。

子どもを集客のターゲットにしました。クラブスタッフが集まって「自分たちでどんなスタジアムをしたいか」というイメージを書き出したとき「ホームパーティーのように家に皆が集まり楽しむ場所」にしたいというイメージがまとまりました。そこで、スタジアムを「自慢のマイホーム」にしようと考えました。サッカーがホームパーティのメインディッシュ。試合を運営するというより、来ていただいたお客様を、いろいろなところでおもてなしをさせていただくと決めて運営計画がスタートしました。だから、私たちのスタジアムは「マイホーム」なのです。

今のお話でメインディッシュと表現されたピッチ上で披露する試合を、スタジアム内では、たてはる (舘谷春香)さんが「本日のメインイベント」とアナウンスされています。試合そのものを見せる意義を強調されるクラブもありますが、ちふれASエルフェン埼玉は、若干、試合を伝えるニュアンスが違うような感じもしますが、いかがですか?

竹内逆の発想で、他のクラブのやり方に埋もれないようにしようと考えました。昨シーズンは親しみを持ってもらうためのポスターを作り続けました。最初は、それほど反響がなかったのですが、回を重ねるごとに、ファン・サポーターの口コミで「何か面白いことやっているみたい」と話題が広がっていきました。

あくまでも主役は選手ということは忘れずやっています。とはいえ、コースで食事をする際に前菜から始まるように、いろいろと楽しんだ後に、いよいよ楽しみな試合を披露するという考えです。当初から「方向性は間違っていないはず」と思ってはいましたが、何かサッカー以外のことに力を入れているというか、サッカーをないがしろにしているみたいな抵抗感が、正直ちょっとありました。

抵抗感を乗り越えるきっかけはありましたか?

竹内最初のうちは数字が伸びなかったのですが、途中から子どもたちが増えてきたことですね。方向性も間違ってないし、大丈夫だと思いました。クラブアンバサダーの薊理絵がスタンドを回っていますが「すごく良かった」「すごく楽しかった」という声をいただくようになりました。やはり、お客様の声が一番背中を押してくれます。

スタジアムの外でも思う存分に楽しめる「ダイニングルーム」

ピッチで繰り広げられる試合だけではなくハーフタイムにスタジアムの外に出てキッチンカーで買い物をできたり、イベントステージがスタジアムの外側にあったり、熊谷スポーツ文化公園全体も含めお客様が回遊しやすい工夫をされているように見えますがいかがですか?

竹内最初のうちは、NACK5スタジアム大宮のようなピッチとスタンドの距離が近い専用スタジアムに憧れていました。陸上競技場も素晴らしいのですが、私たちの規模ではスタンドが広すぎます。お客様が分散して賑わいを作れないのではないかという不安がありましたが、そうした環境を逆手に取ることにしました。遊びにきた人が、試合の開催日に「ここで何か楽しいことをやっている」と感じてもらえるようにしていきました。チームの名前を知っていただけるきっかけにもなるし、愛着を持っていただけるきっかけにもなる。長いスパンで考えていくことにしました。

スタンドの外に「ダイニングルーム」という名称でキッチンカーを集結させました。ここはお祭りです。熊谷スポーツ文化公園陸上競技場の中に入ったら、サッカースタジアムです。そのすみ分けをはっきりし雰囲気を変えてやっています。

「ダイニングルーム」に並ぶ個性豊かなキッチンカーたち

最上級席を託児室付き観戦シートに

ちふれASエルフェン埼玉の託児室は広さもクオリティもずば抜けているという評判を聞きました。まず、お聞きしたいのは、非常に広い託児室のスペースを確保した上で、ピッチを見下ろせる特等席をセットしたのはなぜなのか?その理由です。

竹内託児室に子どもを預けて自分だけ試合を見たいという人はいるのだろうか……というのが発想の起点です。託児を委託している株式会社明日香さんにお聞きしたところ、スタジアムでの託児室はスタッフや選手が主な利用者だというお話でした。ですから、何のために託児室を設けるかを考えることにしました。

本当は家族全員で試合を見たいけど、子どもが泣いてしまう、飽きてしまうから見に行けず、お家でお留守番というお母さんが多いと知りました。でも、もし、座席の後ろに託児室があって保育士さんがいれば、ちょっとだけ目を離すことができます。安心してスタジアムに来られますし、すぐに子どもとコミュニケーションも取れる。そういう場所が必要だと思いました。

当初は、ゴール裏スタンドにファミリーエリアを用意して、子どもが自由に走れる空間づくりを考えました。しかし、暑い日の対策や雨、日焼けのこと、安全性も考えると実行できず、どうすれば良いのだろうと困っていました。そのとき、最も広い部屋を利用することを思いつきました。試合も見られるし、託児スペースを設けても大丈夫。その結果、最上級席が託児室付き観戦シートになりました。お母さんやお父さんが、一番良い席でWEリーグを見て「また頑張ろう」と思ってもらえる「心のよりどころになるスタジアム」を実現できればと思っています。

最初のうちは陸上競技場の広さをデメリットと考えていたのですが、逆に、他のクラブではできないかもしれない広い託児室付き観戦シートを設けることができました。今では、このスタジアムが強みになっています。それから、託児室付き観戦シートを完売させるために営業活動も行っています。スタジアム周辺でベビーカーを押しているご家族がいたら一目散に走って声をかけています。

工夫を繰り返したキッチンカーのレイアウト 

私が拝見した試合だけでも「ダイニングルーム」はサインの立て方、キッチンカーの設置場所、当日券売り場の場所、テントを並べる角度を何度も変えておられ、かなりの試行錯誤をされているように見受けます。試合を重ねるごとに改善されているのではないでしょうか?

竹内お客様の導線、囲みすぎるとお客様が入りづらい、といったことを売店やキッチンカーの担当者と情報交換しています。外から見てわくわく感が出るようなレイアウトや、装飾を描いていきたいです。

ラグビー場でイベントが開催された際に「ダイニングルーム」のキッチンカーに立ち寄られるラグビーファンも多くいらしたようですね。

「エルフェンコンシェルジュ」のフレンドリーな運営も魅力の一つ

マニュアルを超えた接客でファンを増やす「エルフェンコンシェルジュ」

スタッフがフレンドリーな接客をされることも印象に残っています。スタッフのことを「エルフェンコンシェルジュ」と命名されていますね。

(残り 2057文字/全文: 6041文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ