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秋春制の現実がWEリーグから見える これでも賛成?反対? 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】

再び、秋春制の課題と現実についてWE Love 女子サッカーマガジンが解説します。なぜなら、今年もまた秋春制の是非についてネット上を意見が飛び交っているからです。前回の記事掲載は2022年5月27日。1年目のWEリーグを振り返るシリーズの中で取り上げました。

WEリーグ 秋春制は何をもたらしたのか データで見ると人気低迷のスタートはウィンターブレイクよりも少し早い

今回は6つのポイントを踏まえて、多角的な視点で秋春制を考えます。

●秋春制の歴史
●秋春制導入の理由
・カレンダーのグローバル化
・地球温暖化 
・厳冬期のドカ雪
WEリーグの秋春制
●Jリーグ、なでしこリーグの春秋制との比較
●2023年1月に開催されたWEリーグの集客状況
●3つの視点
・観客の観戦環境(降雪や気温)
・プロ選手のコンディション
・全選手のコンディション

クリスマスの大雪でWEリーグは中止に

Jリーグは2022年12月20日(火)に理事会を開催し2023年シーズンのJリーグ開催カレンダーを発表しました。J1は2023年2月18日(土)に開幕し12月3日(日)に閉幕します。日曜閉幕は異例なことで、Jリーグは、これを「来季のA F Cチャンピオンズリーグ(ACL)が秋春制に移行した影響。11月27~29日にも日程が組み込まれているため出場クラブが少しでも休息を取れるように」と説明しました。

そして、その直後に思わぬホワイトクリスマスがありました。2022年12月23日(金)の広島市の最低気温は氷点下。9時に積雪が5センチメートルとなり、交通の乱れが続きました。コンビニエンスストア等で商品が一時品薄になり、クリスマスケーキの受け取りにも遅れが出ました。WEリーグは12月24日(土)に開催を予定していた2022−23 YogiboWEリーグ第7節サンフレッチェ広島レジーナ 対 アルビレックス新潟レディース(広島広域公園第一球技場)の中止(延期)を発表しました。雪国・新潟よりもトレーニング環境の良い大阪に長期宿泊しコンディション調整をしていたアルビレックス新潟レディースの関係者は、温暖な気候の広島での降雪・中止に驚きを隠せませんでした。秋春制のWEリーグが雪で中止(延期)となったのは、これが初めてです。

この1週間の2つのニュースのインパクトは大きく、再び秋春制の是非について、ファン・サポーターの間で話題が持ち上がりました。

雪のチラつく環境で開催された皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会(2022年12月18日:カンセキスタジアムとちぎ)

雪のチラつく環境で開催された皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会(2022年12月18日:カンセキスタジアムとちぎ)

北国のチームがないため成立していた1980年代の日本の秋春制

本題に入る前に日本のサッカー界における秋春制の歴史について振り返っておきましょう。1965年に始まった日本サッカーリーグは春秋制で行われてきました。しかし1985年に転機が訪れます。FIFAワールドカップ メキシコ1986アジア地区1次予選が2月から5月に、2次予選が8月から9月に開催されることとなり、日本サッカーリーグ1部は9月6日に開幕する秋春制で実施することになるのです。FIFAワールドカップ初出場を目指す日本代表は、1月12日開催のボルドー戦を皮切りに64日開催のマレーシア代表戦まで、10試合の強化試合を戦いました。

日本サッカーリーグは1986年ー87年シーズンから正式に秋春制に移行。『日本サッカー協会75年史』では「ヨーロッパと同じ秋ー春のシーズンとなり」と振り返っています。ブンデスリーガから古河電工に復帰した奥寺康彦さんと、日産自動車の木村和司さんが初めてプロ選手(スペシャルライセンスプレーヤー)として登録される等、日本サッカー界に大きな変革が行われた時期でした。秋春制は1991年まで続きます。

では、当時の秋春制は、どのようなカレンダーで開催されたのでしょうか。1990年の日本サッカーリーグ1部の日程を見てみましょう。日産自動車は第1節を10月28日に迎えます。それに先立ち、すでに10月3日に開幕したコニカカップで4試合を消化。12月2日に第6節。ここでリーグ戦は中断し、12月15日に天皇杯1回戦を迎えます。1月1日に決勝戦を戦い1月19日には日本サッカーリーグ1部は第7節から再開。実質的にウィンターブレイク期間はありませんでした。

これは当時の日本サッカーリーグに北海道、東北地方、北信越で活動するチームがなかったことに起因します。最も北で活動するチームは日本サッカーリーグ2部で戦う茨城県鹿島町の住友金属(現・鹿島アントラーズ)。この年、唯一、日本海側で活動していたチームが日本サッカーリーグ2部で戦う新日本製鐵(北九州市)でした(1960年台に全国を制した古豪ですが、このシーズンを最後に九州リーグに降格)。つまり、当時の秋春制のサッカーカレンダーは、現在の秋春制の論議に参考になりにくいといえます。

実質的にはU E F Aチャンピオンズリーグを起点に形成される世界のサッカーカレンダー

日本で秋春制導入を検討してきた理由はどこにあるのでしょうか。主に2つの理由があります。

・カレンダーのグローバル化
・地球温暖化

Jリーグの発表にも出てきたようにカレンダーのグローバル化により、世界中のサッカーリーグは開催日程が連動しています。これは、国際試合(代表チーム、クラブチーム)の日程の影響を受けるからです。特に、近年では地域のチャンピンを決めるU E F Aチャンピオンズリーグ、A F Cチャンピオンズリーグ(ACL)の価値が高まり、この国際タイトルを軸にあらゆるカレンダーが決まっていきます。

A F C(アジアサッカー連盟)は2023―24シーズンからA F Cチャンピオンズリーグ(ACL)を秋春制に移行しました。8月8日からグループステージが始まり2024年5月18日に閉幕します。

女子においてもA F CA F C女子チャンピオンズリーグの設立を目指しています。2019年より、小規模なプレ大会が開催されています。正式に大会設立となれば、秋春制での開催は確実です。欧州では、U E F A女子チャンピオンズリーグがすでにビッグタイトルとなっており、2022年4月20日にカンプノウで開催されたF Cバルセロナ女子とウォルフスブルクの対戦(準決勝)には9万1648人が来場しています。

そもそも、WEリーグに秋春制はなぜ採用されたのでしょうか。シーズン当初の取材メモを見ると、WEリーグの岡島喜久子チェア(当時)は「将来、欧州からもう少し選手を連れてきたい」というWEリーグ事務局の希望を説明していました。欧州からの選手の移籍獲得を念頭に欧州のシーズンに合わせ秋春制のシーズンを設定したことを明かしています。

厳しくなる真夏の酷暑

外的要因としては地球温暖化の進行が重要な要因として挙げられています。最高気温35度以上の猛暑日の日数を見ると、全国13地点の最近30年間(1991~2020年)の平均年間日数は約2.5日で、統計期間の最初の30年間(1910年~1939年)に記録した約0.8日と比べて3倍以上に増えています。最高気温の歴代全国ランキングは、8位までを2000年以降の記録が占めています。

現在は冬の兵庫県で開催されている全日本高等学校女子サッカー選手権大会ですが、2004年シーズンから2011年シーズンまでは真夏の磐田市で開催されていました。筆者は2007年シーズンに開催された第16回大会のフェアプレー賞プレゼンターとして閉会式に参加しました。比較的気温の低い10時にキックオフしましたが、試合が進むにつれて気温が上昇。試合終了後に行われた表彰式では、次々に選手がピッチに倒れていくという惨状を目の当たりにしました。あれから25年を経て、日本の夏はさらに暑くなっています。Jリーグでも真夏のナイトゲーム中に熱中症で倒れ、病院に緊急搬送された選手がいます。

選手のコンディションを考慮すると、真夏の酷暑の中でプレーすることは危険です。日本スポーツ協会の発行する「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」によると「暑さ指数(W B G T)」が31度以上の場合は「運動は原則中止」としています。

また、集中豪雨や台風の接近により試合が中止(延期)となるケースも多くあります。2020年以降(※2022年まで 当初2000年と表記が誤っていました。申し訳ありません)のJリーグで試合を中止(延期)したのは22試合。そのうち21試合が8月または9月の開催で、原因は豪雨、台風、雷雨です。

雪国を悩ます厳冬期のドカ雪

国土交通省によると、日本の豪雪地帯は、国土の約51%に及ぶ広大な面積を占めています。日本の降雪は12月から2月がほとんど。特に2月は豪雪地帯において最も積雪量が多い月です。

地球温暖化が進むと雪の降り始めが遅くなり、降り終わりが早まります。しかし、厳冬期のドカ雪(一晩などの短い時間で一気に降る大雪)の頻度が増える可能性もあります。気温や海水温が上がると、海からたくさんの水が蒸発し、大気中の水蒸気の量が増えるためです。

2023年1月10日に北海道小樽市では、観測史上1位となる降雪を記録しました。2022年12月18日から19日にかけて東日本と北日本の日本海側を中心に雪が降り続き、新潟県や東北南部などでは積雪が平年の3倍に達する記録的な大雪となりました。地球温暖化が進む一方で、これまで以上に深刻な雪害も話題になっています。

雪の中でのプレーは困難ですし、ファン・サポーターの観戦も難しくなります。12月、1月、2月に試合を開催するのかどうかは、ファン・サポーターにとって重大な関心事です。

ウィンターブレイクを挟むWEリーグの秋春制

WEリーグでは、どのように秋春制を行なっているのでしょうか。2022−23 WEリーグカップは2022年8月20日(土)に開幕。2022年10月1日(土)に決勝戦を開催しました。2022年10月22日()に2022−23 YogiboWEリーグが開幕し、2023年6月11日()までの間に全22節、合計110試合を開催します。1年目のシーズンと同じく、今シーズンも降雪期のウィンターブレイクを挟んだ秋春制が採用されています。

1年目のシーズンと異なるのはウィンターブレイクの長さです。1年目のシーズンで設けた約3ヶ月間のウィンターブレイクは「中だるみになる」「女子サッカーへの関心を低下させてしまう」といった論議を巻き起こしました。そこで、2022−23 YogiboWEリーグでは、1月7日(土)、8日(日)9日(祝)にも試合を開催。ウィンターブレイクを最小限の約2ヶ月間に短縮しました(1年目は12月18日の第11節を終えウィンターブレイクに)。そして、日本サッカー協会との協議を重ね、ウィンターブレイク中に皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会を開催。女子サッカーと社会との接点が途絶えないよう工夫をした日程となりました。同時に、秋春制そのものに反対する意見もありました。

WEリーグは2022年12月21日に理事会を開催。2023−24シーズンのカレンダーについて発表しました。WEリーグは、これまで同様に秋春制とし開幕節を11月11日(土)、12日(日)に決定。閉幕を6月第1週としました。来シーズンはセレッソ大阪堺レディースの参入により12チームで行われます。WEリーグカップも同様に8月下旬~10月で開催されます。WEリーグはカレンダーの重視点について「選手のコンディション」を挙げています。

WEリーグ、Jリーグ、なでしこリーグのカレンダー比較

Jリーグ、なでしこリーグの春秋制と秋春制を比較すると1月、2月のトレーニングに共通の悩みが

WEリーグとJリーグのカレンダーを比較してみましょう。猛暑の7月から8月中旬にかけて試合を開催するのはJリーグです。WEリーグは梅雨の前に閉幕。入場者数が雨天に左右されにくくなっています。降雪期の12月に多くの試合を開催するのはWEリーグです。Jリーグは最終節のみが12月開催。最も気温が低く積雪量が多い2月に試合を開催するのはJリーグです。

Jリーグは2016年シーズンに初めて2月(27日)開幕としました。2020年シーズンの開幕は「史上最も早い2月21日」と報じられましたが2023年シーズンは2月17日に開幕。近年は2月中旬に開幕することが当たり前になっています。このカレンダーを見ると、Jリーグは春秋制であるものの、実際には冬に開幕し、秋の終わりとともに閉幕することがわかります。

ここで、多くの人が見落としがちなのがトレーニングの期間です(アマチュアリーグのなでしこリーグはトレーニング期間をカレンダーから省略)。2月に開幕するJリーグも3月にウィンターブレイクが開けるWEリーグも、1月から2月にかけてトレーニングが必要となります。Jリーグのコンサドーレ札幌は一次キャンプを2023年1月10日(火)から沖縄県国頭郡で開始します。WEリーグのアルビレックス新潟レディースは2023年1月2日(月)に新潟市内でチームを始動しており、始動日の違いは8日間しかありません。春秋制であっても秋春制であっても降雪期である1月、2月にトレーニングを行うことは共通。どちらにとっても悩みの種なのです。

落ち込まなかった2023年1月に開催されたWEリーグの集客

WEリーグは1月7日(土)、8日(日)9日(祝)に2022−23 YogiboWEリーグ 第8節を開催しました。寒さの厳しい降雪期で心配されましたが、集客状況はどうだったのでしょうか。筆者は各1試合、合計3試合をスタンドで観戦しました。

2023年1月7日(土)はギオンススタジアム相模原でノジマステラ神奈川相模原×大宮アルディージャVENTUSが開催されました。最高気温は12.2度。冷え込みは厳しくありませんが、メインスタンドは屋根の日陰に覆われ、厚着や膝掛けが必要な観戦環境となりました。

相模大野駅(相模原市)

この日の入場者数は1千451人。Jリーグを基準に考えると少ない数字に感じられますが、実はノジマステラ神奈川相模原のホームゲームでは歴代2番目に多い入場者数となり、メインスタンドは賑やかな雰囲気でした。

相模原ギオンスタジアムに向かうファン・サポーター

2023年1月8日(日)はゼットエーオリプリスタジアムでジェフユナイテッド市原・千葉レディース×三菱重工浦和レッズレディースが開催されました。最高気温は13.4度。

五井駅前にあるスタジアム行きシャトルバス乗り場

入場者数は1千200人。昨シーズンの同カード(フクダ電子アリーナ)の入場者数が2千397人なので、大幅に減少しています。しかし、過去のゼットエーオリプリスタジアムでのホームゲームの入場者数が596人、365人、517人ということを考えると、平均の倍以上の入りは「善戦」と考えても良いのではないでしょうか。

試合後のファン・サポーター

青空が澄み渡る一日でした。試合後の五井駅では美しい夕焼けを拝むことができました。フクダ電子アリーナと比較すると交通の便が良くないスタジアムですが、風も穏やかで晴天に恵まれ、いつものゼットエーオリプリスタジアムよりも多いファン・サポーターを集めました。

五井駅

2023年1月9日(祝)は味の素フィールド西が丘で日テレ・東京ヴェルディベレーザ×マイナビ仙台レディースが開催されました。最高気温は3日間で最も高い13.9度。日当たりの良いバックスタンドでは膝掛けが不要でした。これまでの2試合と比較すると、来場したファン・サポーターの着込み具合も、やや軽くなったように感じます。入場者数は1千311人。これは、日テレ・東京ヴェルディベレーザのホームゲーム第1節とほぼ同じ入場者数ですから、1月開催が集客に影響を与えたとは考えにくい結果となりました。

味の素フィールド西が丘に向かうファン・サポーター。この3試合で最も女性とファミリー層が多いと感じた。

天候に恵まれたため1月上旬開催が集客状況に悪影響を与えたとは考えられませんでした。天候次第では、1月上旬の試合開催も十分に可能です。なお、東京都の過去30年間の晴天出現率は1月7日が76.7%、8日が66.7%、9日が73.3%です。兵庫県は1月7日が70.0%、8日が70.0%、9日が80.0%となっています。

逆に長野県は雪の出現率が高く1月7日が46.7%、8日が53.3%、9日が40%となっています。新潟県も雨または雪の出現率が高く、この時期に、豪雪地帯で試合を開催するのは困難といえるでしょう。WEリーグは1月開催上旬の第8節を、降雪量が少ない地域の広島市、神戸市、相模原市、市原市、東京都北区で開催しました。

本当の論点は「秋春制か?春秋制か?」ではないのではないか

ここまで、秋春制の歴史に始まり現実を確認してきました。ここからは、秋春制をどのように考えるかに移ります。秋春制の是非を考えるにあたり、さまざまな意見をS N S、記事、スタジアムでの会話等で把握してきましたが、筆者は3つの視点があることに気がつきました。
1 観客の観戦環境(降雪や気温)
2 プロ選手のコンディション
3 プロアマを問わない全選手のコンディション

「観客の観戦環境」を重視すると低い気温や降雪のリスクが生じる12月、1月、2月の試合開催を嫌う人が多いことは明らかです。

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