WE Love 女子サッカーマガジン

なでしこリーグ入りを目指すのか? 書類審査、入替戦の向こう側には夢がある 3チーム座談会 VONDS市原FCレディース リリーウルフ.F石川 ディオッサ出雲FC

日本全国で多くのチームがなでしこリーグ入りを目指しています。全国リーグで戦うと、地域リーグで戦うのと比べると膨大な費用がかかります。それでも、多くのチームが全国を目指します。トップ・ディビジョンのリーグで戦うことを目標とします。アマチュア女子サッカーチームにとって、なでしこリーグ昇格は、どのような意味があるのでしょうか。今回は、なでしこリーグ昇格を目指す3つのチームにリモートで集まっていただき座談会を行いました。各チームの状況、強み、各々これまでの挑戦に違いがあるため、興味深いお話となりました。

昨シーズンは、判明しているだけで12チームがなでしこリーグ昇格を目指し加盟申請しました。加盟基準を満たしたチームの中から、より書類審査の評価が高い8チームが2022プレナスなでしこリーグ2部入替戦予選大会への参加資格を得ることができました。そして、予選大会を勝ち抜き、さらには入替戦を勝ち抜いたヴィアマテラス宮崎とFCふじざくら山梨がなでしこリーグ2部に昇格を果たしました。厳しい戦いです。

今シーズンもなでしこリーグ入りを目指し戦いをスタートしている3チームをご紹介しましょう。

VONDS市原FCレディース

VONDS市原は地域に根ざしたスポーツクラブです。千葉県市原市をホームタウンとしています。そのルーツは、かつて日本サッカーリーグ2部を戦った古河電気工業千葉事業所サッカー部。3大コンセプト「する・観る・支える」に「つながる」を加え、自分が住む街をより楽しく、より魅力溢れる街へと発展させることを目指しています。女子チームは、昨シーズンに得失点差で関東女子サッカーリーグ2部の優勝を逃しましたが(優勝したFCふじざくら山梨はなでしこリーグ2部に昇格)今シーズンから関東女子サッカーリーグ1部を戦います。2022年になでしこリーグへの加盟申請を行いましたが、書類審査を通過することができませんでした。監督の川本峻輔さんがお話してくださいました。

VONDS市原FCレディース

リリーウルフ.F石川

2021年に発足した新しい女子サッカーチームです。リリーウルフとは集団で力を発揮する狼(ウルフ)と石川県花のクロユリからユリの英語名リリーを合わせた造語。チーム創設者は河﨑護さん(星稜高校を日本一へ導いた指導者)です。マスコットの石川百合子でも話題となりました。2022北信越女子サッカーリーグ1部は2位。2022年になでしこリーグへの加盟申請を行いましたが、書類審査を通過することができませんでした。お話をしてくださったのはゼネラルマネージャーの橋本侑樹さんです。

リリーウルフ.F石川 提供:リリーウルフ.F石川

ディオッサ出雲F C

昨シーズンは中国女子サッカー上位リーグの最終節でレノファ山口レディースを7−1で下し4年連続6度目の優勝を達成しました。神話の舞台とされる出雲市をホームタウンとしており、チーム名のディオッサはスペイン語で「女性の神」の意味。昨シーズンは2022プレナスなでしこリーグ2部入替戦に初出場。岡山湯郷Belleとの直接対決を2−0とリードしたものの50分から3連続失点。2−3で落とし、惜しくも昇格を逃しました。この試合は、出雲大社から車で10分ほどの距離にある出雲健康公園多目的運動場で開催され1千41人のファン・サポーターを集めました。お話をしてくださったのはクラブマネジャーの田中淳さんです。

ディオッサ出雲F C 提供:ディオッサ出雲F C

なでしこリーグを目指す3チーム、それぞれ異なる昇格までの距離感

橋本(石川)リリーウルフ.F石川のG Mをやっている橋本です。今日はよろしくお願いします。私たちのチームは北陸初のWEリーグ入りを目指し設立し3年目の若いチームです。なんとか今年は入れ替え戦に進出することを目標にしています。

リリーウルフ.F石川 ゼネラルマネージャー 橋本侑樹さん

川本(市原)VONDS市原FCレディース監督の川本です。創部7年目です。今シーズンから関東女子サッカーリーグ1部で戦います。男子チーム、女子ソフトボールチームもある総合型スポーツクラブです。

VONDS市原FCレディース監督 川本峻輔さん

田中(出雲)ディオッサ出雲F Cの田中です。クラブマネジャーという立場で、スポンサーさん、出雲市さんとの接点、選手獲得、スタッフ人事を行なっています。1991年にスタートし30年以上が経ちました。少しずつ強くなっていますが、なでしこリーグ昇格が手に届きそうで届かなかった昨シーズンでした。ただ、昇格できなかったからといっても、年々、ファンの層が広がっています。皆さんと、なでしこリーグで、いつか戦えることを楽しみにしています。

自慢はグラウンドの中でサッカーを追求できる環境が整っているところです。監督・コーチの指導、選手の成長……年々、上達しています。それから、手前味噌ではありますが、我々のグラウンドで表現できるサッカーも自慢したいです。

ディオッサ出雲F C クラブマネジャー 田中淳さん

川本(市原)VONDS市原FCレディースの環境面は、ものすごく恵まれています。人工芝1面、天然芝1面とクラブハウスを持っている良い環境でやらせていただいています。平均年齢が23.5歳。フレッシュな顔ぶれです。千葉県にはジェフユナイテッド市原・千葉レディース、オルカ鴨川FC、帝京平成大学といった有力なチームがあります。千葉県の女子サッカーを盛り上げるために、県内のチームのお力を借りることができています。選手の補強をしたり、合同セレクションを開いたりしています。

VONDSグリーンパーク

橋本(石川)リリーウルフ.F石川の魅力は選手と地域のつながりだと思います。選手たちが自主的に地域を回っています。まだ2年目のチームですが、ホームゲームに観客が760人も入った試合があります。3年目の今年は1千人以上の観客数を目指しています。

提供:リリーウルフ.F石川

昇格への現時点での距離感を教えてください。

橋本(石川)私たちは2年前に初めてなでしこリーグに加盟申請をしました。チームができて約2ヶ月のことです。昨シーズンも書類審査を通過できなかったので、まだ距離感を掴めていないです。昨シーズンは皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会に出場し愛媛FCレディースと対戦することができました。力の差がありましたが「なんとか頑張れば昇格できるのではないか」とも感じたので、今はチーム力の底上げをしています。あとは財政面と運営面です。今シーズンは社員を増やしています。

川本(市原)VONDS市原FCレディースは財政と運営の指摘を受けて書類審査を通過できませんでした。初めての申請だったので審査に関する知識不足をいがめませんでした。これだけの環境が整っているので大丈夫だろうと思っていたところもあり、それが良くありませんでした。今シーズンは、概ねクリアできる体制を整えました。サッカーの面では、大きく劣っているところはないと思っています。

五井駅に掲出しているVONDS市原の広告看板

田中(出雲)距離は近くなっているような遠くなっているような……。私たちは過去9年間で8回もなでしこリーグ2部入替戦予選大会に出場しています。でも、最多出場の名誉はない大会です。「過去に書類審査を8回通過しているから今シーズンも必ず通過する」という保証はありません。毎年、どこが通過の基準となるかは読めません。また0から準備して、しっかりと臨んでいきたいです。

—最終的には絶対評価ではなく、相対評価になるので、書類審査に申請したチームの顔ぶれによって通過できる基準が毎年変化しますね。ディオッサ出雲F Cではブラジル人選手もプレーされています。さまざまな試行錯誤をされていますね。

田中(出雲)私たちのチームにブラジル人選手がいるのは、出雲市に約3千500人のブラジル出身者が生活しているからです。そうした人口の傾向は、30年来続いています。この地域ではブラジル出身者がいることが自然なことなので、一緒に盛り上げていこうではないかと考えてブラジル人選手を獲得しています。スタンドにもブラジル出身者が増えました。

ディオッサ出雲F Cのサポーターが掲げるブラジル国旗 提供:ディオッサ出雲F C

橋本(石川)川本さんに質問なのですが、財政面で通過するためのヒントがあれば教えてくレませんか?

川本(市原)財政面の審査は、おそらく予算の多い少ないだけではないのだと思います。でも、自分たちが当初に想定していた予算額よりは通過ラインは高かったと思っています。

田中(出雲)お金のことだけではなく、地域での活動のバランスもありますし……。私たちは、財政面はしっかりと組み立てていますし下部組織の活動も大事にしています。これで書類審査を通過しないのであれば「仕方ないと思うしかない」というところまでやっています。通過することを信じて、日々の活動をやるしかありません。

下部組織はWEリーグクラブの下部組織とも対戦 提供:ディオッサ出雲F C

サッカーをするだけではない行政との関わり

橋本(石川)行政との関わり方はどうですか?私たちは市長への表敬訪問はしていますが、市との連携協定締結までには至っていません。

川本(市原)市原市にはジェフユナイテッド市原・千葉レディースがあるので難しいところもあります。

田中(出雲)行政との関わりはありがたいです。我々がなでしこリーグを目指し始めた直後になでしこジャパン(日本女子代表)がFIFA女子ワールドカップ ドイツ2011で優勝しました。そういうタイミングだったので、行政も地域おこしにチームを役立てていこうと考え、今の関係が始まりました。出雲市のシティーセールス事業の中にディオッサ出雲F Cの支援が含まれています。ですから、出雲市はディオッサ出雲F Cが全国の舞台で活躍すること、全国から対戦チームを出雲市に呼ぶことを望んでいます。選手を県外から獲得(移住)することも期待されています。

勝利の「女神酒」楽しみに酒米「佐香錦」の田植えを体験 提供:ディオッサ出雲F C

市原市はどうですか?これまで、シティセールスのためにジビエ料理(カフェ・カンパニー等)や里山トロッコ列車(小湊鉄道)を活用した観光活性化に市の予算が投下されてきています。女子サッカーについてはどうでしょうか?

川本(市原)市原市にはプロチームがあるので、ウチは、そこまで行政からのバックアップを得られていません。

橋本(石川)出雲さんが羨ましいです。私たちも市と協力して何かやりたいと思っていますが、アイデアを持ち合わせていませんでした。

(残り 2029文字/全文: 7219文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ