WE Love 女子サッカーマガジン

アメリカから見た大学女子サッカー 強さと人気がつながる構造 岩井蘭選手(フロリダ州立大)

今シーズンからアメリカ女子プロサッカーリーグNWSL(National Women’s Soccer League)の試合を日本で視聴できることになりました。迫力ある試合と熱気あふれるスタンドの様子をDAZNが配信しています。

2023年3月に、WEリーグは国際アドバイザーの中村武彦さんを招いてアメリカ女子サッカー事情に関する勉強会を開催しました。WEリーグ関係者、日本サッカー協会関係者、メディア関係者ら約80名が参加。世界最強かつ最もビジネスとして発展しているアメリカ女子サッカーに注目が集まっています。

今回は、アメリカの女子サッカーについて少し違った角度からお伝えします。大学女子サッカーです。アメリカには女子サッカーチームを持つ大学が1千500校以上もあります。アメリカの大学女子サッカーには日本の女子サッカー発展につながるヒントが詰まっています。

高倉麻子さん(当時・日本女子代表監督)は2017年に上野直彦さんの取材(アメリカ女子サッカーの発展にノースカロライナ大学が与えた影響に関する研究)に応え、このように話しています。高倉さんは2000年に W U S A(当時のプロリーグ)シリコンバレー・ レッドデビルズでプレーした経験があります。

(アメリカの女子サッカーの秘訣は大学サッカーと言われています。実際に現地で見られてどう思いましたか。)

「間違いないと思います。日本では長い間、中学生年代の育成が課題と言われていて、勿論それも凄く大事なのですが、18歳から21歳までの育成年代も同じくらい重要です。」

NCAAディビジョン1でチャンピオンに輝いた岩井蘭選手

WE Love 女子サッカーマガジンは、フロリダ州立大で活躍中の岩井蘭選手に当事者としてのお話をお聞きしました。岩井選手はJFAアカデミー福島9期生。スポーツ奨学金制度を利用してフロリダ州立大に入学し、3年間で全米ナンバーワンの大学女子サッカーチームを決めるNCAAディビジョン1 チャンピオンシップの優勝、準優勝、ベスト4という素晴らしい経験をしてきました。今回のインタビュー記事は、大学女子サッカーの最高峰でプレーする選手から、女子サッカーの未来への提言です。

提供:岩井蘭選手(フロリダ州立大) Top写真も

2023年2月にフロリダ州オーランドで開幕した2023シービリーブスカップにゴールキーパーの大場朱羽選手が追加招集されました。大場選手はイーストテネシー州立大学でプレーしています。大場選手と同じようにアメリカの大学でプレーする岩井選手は、この追加招集のニュースをどのように感じたのでしょうか。

「朱羽は自分が13歳の頃からJ F Aアカデミー福島で一緒に生活し練習してきた仲間です。最初に彼女がなでしこジャパン(日本女子代表)に入ったとき(2022年11月の欧州遠征)に、連絡をとって『おめでとう』と伝えました。シービリーブスカップ直前に離脱された守屋都弥さん(I神戸)も同じJ F Aアカデミー福島の先輩です。自分が中学校1年生のときに高校3年生だったので、在籍期間がギリギリ被っています。ウィングポジションの都弥さんが怪我をしてしまい、代わりに朱羽が呼ばれました。アメリカの大学でプレーしている選手がなでしこジャパン(日本女子代表)に呼ばれるのは嬉しいことなのですが、都弥さんはフィールドプレーヤーなので私を呼んでほしかったです、なぜなら、私は試合会場と同じフロリダ州にいたので(笑)。でも、チャンスがあるとわかったので、私も頑張ってやっていきたいと思います。これからのモチベーションになるので朱羽が呼ばれたのは良かったと思います。」

アメリカの大学女子サッカーには強さと人気があります。その理由はどこにあるのか構造を探ります。岩井さんは4つの視点でお話ししてくださいました。

視点1 プロに近い環境で戦い続ける大学女子サッカーの世界
視点2 大学チームを支えるファン・サポーターの眼差し
視点3 選手のモチベーションにつながるU-23アメリカ女子代表の活動
視点4 異なるルーツの選手が活躍する多様性

視点1 プロに近い環境で戦い続ける大学女子サッカーの世界

アメリカ女子プロサッカーリーグNWSL(National Women’s Soccer League)には、日本のプロ野球と同じようなドラフト会議があります。各チームにはアンダー年代の育成組織がありません。主に大学で活躍した選手がドラフト指名されチームに加入するのです。欧州や日本の選手育成とは全く異なる仕組みになっています。

「アメリカの大学でプレーする女子サッカー選手の環境はプロ入りする前からプロ選手に似ています。スポーツ奨学金をもらってプレーし勉強もさせてもらっているのです。だから、プレーに責任感が生まれます。強い大学に入るために高校で努力し、大学に入るとサッカーの戦術的な部分を叩き込まれて、そこで揉まれた選手の中から優れた選手がN W S Lに上がっていくシステムになっています。『勝たなければならない』『見に来てくれた人のために精一杯のプレーを披露しよう』という気持ちが生まれます。大学生でありながらも日常的にプロ意識が高まっていきます。プロ意識とシステムが選手を成長させパフォーマンスが向上します。ですから、大学を卒業してN W S Lに活躍の場を移しても柔軟に対応できるのだと思います。」

お金(スポーツ奨学金)をもらってプレーする。地域と大学の代表としてプレーする。試合は生中継され、大学スポーツ紙等で報じられる。サイン会もあれば企業タイアップによるキャンペーンもある。アメリカの大学女子サッカーは、まさに、プロスポーツに近い環境です。

アメリカ女子代表のミーガン・ラピノー選手の自伝『O N E L I F E』は「誰にも束縛されない。」がテーマになっていて、終始、ラピノー選手の強さが印象的な書籍ですが、ラピノー選手がポートランド大学1年生でデビュー戦を迎え2得点した後の描写だけはこのような表現になっています。

「ふーう、これで奨学金をもらうだけの力があると証明できた」

岩井選手によると、アメリカでは大学女子サッカーにおいても勝つことが最優先。それが、選手に強さを植え付けますし、観客を呼び込む原動力となっているそうです。

「日本では『上手くなりたい』『丁寧に崩していきたい』というプロセスを踏んで、その先で得点を奪う練習をしてきました。アメリカでは、まず『ゴールしたい』という考えが前にあり、そこに向かうためのいろいろな手段の練習をしていきます。『プロセスを重要視する』『勝つことを重要視する』……日米の異なるサッカー文化が面白いと感じています。アメリカでは『勝つことを重要視する』ため、ピッチで激しいぶつかり合いを生みます。強くぶつかっても倒れずファイトするメンタリティがプレーに表れます。そうしたプレーを見たい人は多いと思います。自分が対戦する大学チームの中には、それほど上手くはないけれど、本当に勝ちにこだわって戦うメンタリティが伝わってくるチームがあります。そうしたプレーも、女子サッカーが盛り上がる要因の一つになると思います。」

提供:岩井蘭選手(フロリダ州立大)

視点2 大学チームを支えるファン・サポーターの眼差し

この記事の前半で紹介した高倉さんが2000年にプレーした当時のシリコンバレー・ レッドデビルズの練習はスタンフォード大学の施設で行われていました。上野直彦さんの取材(アメリカ女子サッカーの発展にノースカロライナ大学が与えた影響に関する研究)の中で高倉さんは「『夏季五輪がここで全て開催できる』という大学関係者の言葉どおりで、施設や環境の良さに本当に驚かされました」と話しています。あれから四半世紀を経て、アメリカの大学の施設はさらに充実。試合はエンターテイメントとして進化しています。

「大学のピッチとは思えないほど大きなスクリーンがある試合会場では、ハーフタイムに選手小噺のような動画を上映します。カレッジカップでは、会場の周囲に屋台が出てお祭りのような雰囲気です。サッカーを見にいくというよりも大きなイベントに参加する感じです。」

提供:岩井蘭選手(フロリダ州立大)

岩井選手は「多くの観客の前でプレーするとサッカーをできる幸せを感じます。」と言います。そして日本でも「軽い気持ちで足を運べる女子サッカーになってほしい」と考えています。

「卒業生が応援してくださることも、地域のおじいちゃん、おばあちゃんがスタンドに足を運んでくださることもあります。将来、大学でサッカーをすることを目指す小さな子どもたちもやってきます。幅広い年代の方が試合会場にいらっしゃいます。自分ではプレーしていない人でも、(競技の種類に関わらず)その大学を応援しようという気持ちでスタンドに見に来てくださいます。大学チームの試合でも(プロの試合と同じように)とても楽しい雰囲気がピッチに伝わってきます。スタジアムの雰囲気はとても大切です。楽しかった経験から『また行こう』と考えリピートしてもらえるサイクルにつながります。

先日、W B Cで日本の野球が世界一になりました。カタールでは日本代表がベスト16に進出しました。そのとき、多くの日本人がテレビを見たように、いつもはサッカーや野球といった競技に関心を持っていなくても、大会を見たくなるような魅力があると観客数が伸びると思います。たくさんの人が集まってスポーツを見ると楽しいです。一度、試合会場に足を運んで楽しさを経験できれば、少しずつ観客数は増えていくと思います。

観客数を増やすことだけにこだわる必要はないと思いますが、観客数が増えると選手のパフォーマンスが向上していきます。選手のプレーに大きな影響があると思うので、観客数を増やすことも大事にしてほしいと、ここまでの3年間で思いました。」

視点3 選手のモチベーションにつながるU-23アメリカ女子代表の活動

「チームメイトにはU-23アメリカ女子代表に入っている選手が2人います。私が2年生のときのキャプテンは、当時のアメリカ代表に選ばれていました。大学生でも優秀な選手は代表入りするので、それを見て、自分も頑張ろうと思いますし代表チームやFIFA女子ワールドカップを身近に感じます。素晴らしい環境だと思います。

今、アメリカにはU-23の代表活動が頻繁にあり選手のモチベーションが上がります。目指す目標があるので、アメリカの大学でプレーする選手は常に、それを意識してサッカーをしています。若い選手が国際経験をできるチャンスが与えられると、もっと成長できると思います。」

U-23アメリカ女子代表は2023年3月にN W S Lのプレシーズントーナメントに参加。プロチームと3連戦しています。また、1月にはパリ郊外にある有名なナショナル・トレーニング・センターであるクレールフォンテーヌでU-23フランス女子代表と2試合を実施。この遠征には、開幕間近なN W S Lのチームが協力し、ドラフト指名で加入した選手もチームを離れて参加しています。

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