なでしこジャパン 3連覇を逃すも収穫に目を向けるべき大会に AFC女子アジアカップ準決勝リード守れず散る
2022 Asian Football Confederation (AFC)
なでしこジャパン(日本女子代表)は2度のリードを守りきれませんでした。後半開始直後の失点、延長戦終了間際の失点で中国女子代表と2−2の引き分け。PK戦の結果、AFC女子アジアカップの準決勝敗退が決まりました。2連覇で守り続けてきたアジアの女王の座を失いました。
予想外の課題が浮き彫りになった大会でした。今回は、暑いインドで、なでしこジャパンが得た2つの成果と大きな課題について振り返ります。
そして、ピッチ上だけではなく、DAZNによる女子代表の実況・解説の課題についてもお伝えします。
2つの成果 短期間でチームの骨格を組み立て個の力を発揮
2021年10月1日に、なでしこジャパンの監督に就任した池田太監督は、たったの3ヶ月で新たなチームを組み立てました。かつてないスピードです。どのような采配でスピードアップしたのでしょうか。そして、なぜ、選手は輝いて見えたのでしょうか。
【 成果1 】 超短期間のチーム作り
10月1日に就任した池田監督はJFA夢フィールドで18~24日まで国内で強化合宿を行いました。年内の、AFC女子アジアカップの準備のための強化合宿は、この6日間だけになりました。11月のオランダ遠征2試合から帰国すると、オミクロン株の感染拡大に伴う政府対応に基づき、監督、選手、スタッフは予定外の14日間待機に。12月に予定していた強化合宿が中止になりました。2022年1月11日から15日まで、短期間の強化合宿をJFA夢フィールドで行いましたが、練習期間の短さは明らかで、しかも、試合から離れた選手のコンディションを上げることが必要でした。
加えて、オランダ遠征ではオランダ女子代表の主力メンバーの多くが欠場。1月の合宿では男子大学生チームとの合同トレーニングが中止に。中国女子代表やオーストラリア女子代表の強度を想定した練習を行うことができませんでした。
近年、ここまでチーム作りに時間をかけずにFIFA女子ワールドカップの予選に臨んだチームは記憶にありません。
まさに、戦いを重ねながら、選手たちは池田監督の目指すサッカーを理解し、そのやり方に適合していきました。この超短期間に、池田監督はどのような色を私たちに示したのでしょう。まず特徴的だったのは選手のローテーション起用でした。5人交代ルールを生かし、前後半で選手を入れ替える等、全ての選手をできるだけ長く起用し、試合の中で、選手たちを池田ジャパンの色に染めていきました。また、チームメイト、元チームメイトをユニット化して起用し、コンビネーションを深めていきました。例えば、長野風花選手はオランダ遠征で、このように話しています。
「(長谷川)唯さんと、特に会話はなかったですが、ずっと一緒にプレーしてきたので何をしたいかが分かります。行ってほしいポジションに行ってくれるので、すごくやりやすさを感じています。」
- 奪う守備
ボールを奪う位置、迫力、奪い方で、これまでのなでしこジャパンとは明らかな違いを見せました。「奪う」は池田ジャパンの代名詞です。グループステージの開幕時と比べ、高い位置でファーストディフェンダーがボールを奪いに行けるようになりました。味方が密集し相手を囲むことを必要とせず、対戦相手のボール保持者の脅威になりました。毎日行われた選手の会見で、言葉が自信を帯びていくのを感じました。
- 選手の距離感は遠目
試合後の会見で、攻守に満足なプレーをできなかった選手複数が「もっと味方の近くでプレーすれば良かったかもしれない」と発言しています。つまり、逆に解釈すれば、これまでの日本の女子サッカーの感覚よりは、選手間の距離が遠目に設定され、早いパススピードでボールを動かすことが求められるサッカーになっています。サイドには人数をかけず単独突破を求めるシーンも多く発生しました。解説を務めた大野忍さんは「もっとサイドに複数の選手が集まってサポートしながらプレーする」ことを希望する発言をしましたが、このチームは、そのような日本の女子サッカー伝統のショートパス・サッカーとは目指す方向が違います。
- 安定を心がけたセンターライン
フィールドプレーヤー全員が出場し、日替わりで選手をセレクトしていった池田監督の采配ですが、センターラインの軸になる選手は見えてきました。熊谷紗希選手、南萌華選手、長野風花選手の3人です。グループステージ最終戦の韓国女子代表戦、ノックアウトステージのタイ女子代表戦、中国女子代表戦で、この3人は先発出場しました。今大会はポゼッション率が高く、大量得点を意図した攻撃的なポジションを取ることも可能でしたが、前がかりになりすぎない、サイドに流れすぎて中央のスペースを空けることがないよう慎重に心がけていたプレーぶりでした。
【 成果2 】 発揮できた個の力
前任の高倉麻子監督は、偽サイドバックのようなポジショナルな戦術遂行を求めていましたが、同時に、状況に応じた選手の判断と自由な発想を大切にしていました。池田監督は、タスクを限定している感がありますが、選手は、逆に個性を発揮できていたように見えます。
- 長谷川唯選手のツートップ起用
アンダー年代では爆発的な活躍をし、高倉監督の前期まで縦横無尽にピッチを駆け回っていた長谷川唯選手ですが、高倉監督の戦術がポジショナルに変化していくにつれてサイドやボランチで力を持て余し、どこか窮屈に見えるプレーをしていました。
池田監督は、初戦のミャンマー女子代表戦で長谷川選手をツートップの一角として起用しました。大きく動きすぎないけれど左右に揺さぶりをかける動きが効果的でした。その後は、違うポジションでも周囲との連携も良く、常にプレーが輝いていました。迷いが感じられませんでした。長谷川選手の活躍は、これからのなでしこジャパンの展望に、明るい兆しを与えてくれました。
- 日本のエースへ植木理子選手
植木理子選手は、FIFA女子ワールドカップフランス2019ではサイド攻撃の切り札と期待されメンバー入りしました。しかし、フランス入りすることができませんでした。「前回のワールドカップを怪我で離脱した悔しさが残っています。」という植木選手は今大会で5得点。22歳にして、なでしこジャパンのフォワードの柱に据えられる存在になりました。
自分の良いところは「ゴールに向かう姿勢」と「中で競り勝つところ」という通り、中国女子代表戦では値千金のヘディングシュートで2得点しました。植木選手の速さと強さが、これからも日本の女子サッカーを救ってくれるに違いありません。出場する試合を増やすことで、自信を持ってプレーすることができました。
植木選手だけではなく、宮澤ひなた選手、長野風花選手、隅田凛選手(杜の都トライアングル)をはじめ、これまで代表経験が少なかった選手たちが、なでしこジャパンのピッチ上で自らの個性を発揮できる存在となりました。ただ勝ち上がるだけでは得られない成果です。そして、これからさらなるポジション争いが生まれます。もちろん、菅澤優衣香選手をはじめ、実績十分な選手もポジション争いに立ち向かいます。
最も大きな課題は試合を支配する力
今大会でなでしこジャパンと競り合う力を有していたのは、オーストラリア女子代表、韓国女子代表、中国女子代表の3チームでした。そのうちオーストラリア女子代表とは対戦することがありませんでした(韓国女子代表に敗れた)。
なでしこジャパンは、韓国女子代表戦と中国女子代表戦で、トータル3回のリードを奪いました。しかし、3回とも追いつかれるという残念な結果となりました。
延長戦の終了間際の失点は4つのミスが連続して生まれています。
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