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遂になでしこリーグに昇格するヴィアティン三重レディース 「Jリーグ百年構想」に賛同する総合型地域スポーツクラブから学ぶこと

ヴィアティン三重は、日本では数少ない本格的な総合型地域スポーツクラブです。ヴィアティン三重は、桑名市・東員町をはじめとする7市町を中心に、三重県がより魅力的で活気に溢れた街になることを願って様々な活動を行なっています。

サッカーだけではなく、バレーボール、バスケットボール、ビーチサッカー、陸上競技、チアリーディング、ハンドボールのチームを有しています。さらには新体操、野球、英語、バレトンの教室も行っています。2021年に、常務取締役 マーケティング部長の椎葉誠さんが、日本トップリーグ連携機構が定める「トップリーグトロフィー」を受賞しました。ヴィアティン三重バレーボール(V2リーグ所属)でのチームディレクターとしての活動内容が評価された受賞です。

そんなヴィアティン三重の女子サッカーチームであるヴィアティン三重レディースが、2022年はなでしこリーグ2部で戦うことになりました。ヴィアティン三重レディースはどのようなチームなのか、総合型地域スポーツクラブは何を目指しているのか……今回は、代表取締役社長の後藤大介さんと監督の森周三監督にお話をうかがいました。

オランダで見た環境を三重県で実現したい

後藤さんは、27歳のときに中国で起業し2年間を過ごしました。躍進し活気ある中国の人々を見ながら、日本の将来を担う子どもたちにできることを考えていたそうです。帰国後、リーマンショックが起こり、日本の経済は停滞します。今こそ行動を起こそうと思った後藤さんは「ものづくり教室」を始めます。さらに、身体が丈夫でなければ健全に発育しないという考えからスポーツによる教育事業に乗り出します。

欧州のスポーツクラブを見る必要性を感じた後藤さんは視察に出かけます。2011年9月のことでした。オランダでは、子どもたちがサッカーをプレーするピッチの横にヨガを楽しむお母さん。おじいちゃん、おばあちゃんはグランドゴルフをプレーしていました。体育館ではバレーボールやバスケットボール。さまざまな世代の人々が色々なスポーツで汗をかいていました。街のあちらこちらに、スポーツコミュニティがありました。芝生のグラウンドもたくさんある。

後藤さんは、オランダで見た環境を、今の三重県で実現できたら、みんなが幸せになれるだろうと強く思いました。そこで、半年後の2012年に総合型地域スポーツクラブを目指してヴィアティン三重を立ち上げました。サッカーは、初年度に、レディースチームもスタートしています。

子どもたちに夢を持ってもらうためのきっかけとして昇格が必要

後藤–サッカーチームが、Jリーグ、なでしこリーグ、WEリーグといったトップリーグを目指すには理由があります。欧州ではアマチュアであっても総合型スポーツクラブは街のシンボルです。街の人は、自身がプレーする、チームを応援する、ボランティアのような方法で参加する……様々な方法でクラブに関わります。しかし日本では歴史の違いがあり、まだまだ総合型スポーツクラブが地域に定着していません。子どもたちに夢を持ってもらうためのきっかけとして、トップリーグで汗をかいて輝いている選手たちを見てもらう必要があります。さらに、プロチームがあれば、クラブの活動は街づくりにつながっていきます。

男性だけではなく女性にも環境を整えていく必要があると考え、最初からレディースチームもスタートしました。若い、小柄な女子選手が90分間を全力で走っている姿を見ると、男子の試合を見る以上に感動してしまいます。2021プレナスなでしこリーグ2部入替戦は見ていて涙ぐんでしまうほど心に響きました。

—クラブ発足直後に桑名市サッカー協会と、将来のなでしこリーグ参戦に向けた 「なでしこリーグ参戦を目指す委員会」を発足しています。他の総合型スポーツクラブと違うスタートの切り方だと思いますがいかがですか?

三重県では伊賀市で伊賀FCくノ一三重が活躍されています。ただ、三重県は南北に長く、奈良県に近い伊賀市はとても遠い場所でした。名古屋市に近い桑名市や四日市市の女の子には、中学生になるとプレーする受け皿があまりありませんでした。そうした受け皿づくりは以前から桑名市サッカー協会の課題でした。ぜひ一緒に取り組んでいこうと考え、社会人チームを作り、同時に普及や育成にも取り組み始めました。

「子どもたちを笑顔に、地域と共に夢と希望を。」クラブの理念を忘れずに

—スポーツクラブのオーナーには、元選手をはじめ、様々なタイプの方がいらっしゃいます。後藤さんの場合は、社会課題を解決しようとする起業家タイプに見えますね。

後藤–私は、サッカー界、スポーツ界で生きてきたわけではないです。以前からもっとサッカー界のことを知っていれば、10年前に戻り「あそこをもっと上手くできた」と思えることがたくさんあります。ただ、ヴィアティン三重を立ち上げたのは37歳の時でした。経営者の経験を既に10年間も積んでいました。経営者の立場で知事や市長とのつながりも持っていました。自分の強みを、経営の面で生かすことができると思っていました。

昇格ありきではなく、クラブの理念である「子どもたちを笑顔に、地域と共に夢と希望を。」を絶対に忘れないように、ここまでやってきました。でも、ここまでくる途中で、男子(トップ)チームについて「勝ち負けだけだよね?」「地域のための活動をしているの?」というご指摘をいただくこともありました。目的と手段を間違えてはならないと思いました。「とにかく、地域の課題を解決するクラブでなければダメだ」とクラブスタッフには話をしています。終わりがない活動です。ヴィアティン三重はスポーツの普及活動を続けていますが、例えば、地域の課題を解決するために、パートナーの力を借りながら「子ども食堂」をやっても良いし、夏祭りを復活しても良い。極論を言えば学校を作っても良いと思っています。理念に沿った活動であれば、その行動はクラブの存在価値につながると思います。そして、ヴィアティン三重が課題を解決すれば、地域に喜んでいただけると思います。

……ですけれど、中には「理念は素晴らしいけれど、試合にもっと勝ってよ。」と言われることもあります。男子(トップ)チームは順調に昇格してきましたがJFLで5年間停滞しています。熱心なサポーターさんたちにはストレスが溜まっています。勝利も両輪で回っていかなければなりません。

悲願のなでしこリーグに昇格

後藤–レディースチームは「最近は男子よりも女子の方が頑張っているんじゃないの?」などと冗談を言われながら、少しずつファンが増えてきました。今回、悲願のなでしこリーグに昇格しました。

昇格してすぐに、なでしこリーグ2部で上位を目指せるかというと、そんなに簡単なことではないと思います。1部リーグに昇格することを急いでいるわけではありません。まずはチームの土台を確固たるものにしなければなりません。

選手を補強し強化していく必要があります。チームスタッフや、女子サッカーに関わるフロントスタッフも足りていません。予算や応援してくださるパートナーさんを増やす必要がります。グッズの売り上げも増やさなければなりません。それらを達成してから、上位進出への考えが初めて生まれてくるのだと思います。

「社長から激励の言葉」で強豪を撃破!?

—入れ替え戦の反響はいかがでしたか?

後藤–「本当に上がったね」なんてことを言われました(笑)。私も2021プレナスなでしこリーグ2部入れ替え戦予選大会を見に静岡県 時之栖スポーツセンターまで行きました。2021プレナスなでしこリーグ2部入替戦も、遠くは岡山県美作ラグビー・サッカー場、広島広域公園第一球技場に行きました。

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