VARがなくとも映像検証で変化する女子サッカー審判員の世界 そしてVARを導入できない理由 山岸佐知子さん後篇
どうすればWEリーグのジャッジは女子プロサッカーリーグと共に向上するのか
日本サッカー協会 審判委員会副委員長(取材時) 山岸佐知子さんのインタビュー後篇です。前篇ではWEリーグのスタートで変わったこと、「審判交流プログラム」についてお聞きしました。今回の後篇では、試合を円滑に進めるために重要なコミュニケーション、選手へのルールの周知、映像活用により受ける影響について話を進めていきます。
そして、なぜWEリーグにVARを導入できないのか、といった気になる疑問についてもお答えいただきました。
丁寧にお話ししてくださった山岸さんは女性では2人目の(女子1級ではなく)1級審判員資格取得者です。AFCの選出する年間最優秀女子レフェリー賞を5回受賞。FIFA女子ワールドカップ カナダ2015はアメリカ女子代表VSスウェーデン女子代表を担当しています。現在は、審判委員会の中で特に女性審判員の育成、審判技術の向上等に取り組んでいます。
シンプルでありながら納得感のあるコミュニケーションが大切
山岸—試合中の選手からの質問に対して事細かく説明する必要はないと思います。簡単な言葉で短く話す必要があると思います。
—JリーグとWEリーグを比較すると、WEリーグの審判員たちの「真面目そうなコミュニケーション」が目につきます。表情や話し方だけでも選手のフラストレーションがたまるかどうかが変わると思うのですが、いかがですか?
山岸—「審判交流プログラム」で来日したオーストラリア、イングランド出身の審判員も、いつもニコニコ笑っているわけではありません。伝えたいことはしっかり伝え、聞くべきことは選手から聞く。それができるのは、もしかしたら自信からかもしれません。そういったところは、もう少し日本の審判員にも学びが必要かもしれないですね。
今、イングランドから来日されている審判員の指導者に聞いても、審判のコミュニケーションで重要なのは決して説明をすることではないとされています。しかし、チームには説明をしてもらうことこそがコミュニケーションと思われている方もいる。お互いの役割の落ち合うところを見つけることが大事かもしれないです。
リーグ、チームと協力しながら競技規則の理解促進を支援する
—審判委員会はJリーグと共に、選手に求めるプレーや昨シーズンの事例に F I F Aの競技規則に基づく解説を加えた「Jリーグ レフェリング スタンダード」の映像を作成し、シーズン開幕前に全クラブの選手、指導者に説明しています。WEリーグやなでしこリーグでは、ルールやレフェリングの周知活動をどのようにされていますか?
山岸— なでしこリーグはルール講習会を開幕前に行っています。以前はチームを回っていました。コロナ禍になっても継続してオンラインで開催していましたが、今年からは2部を含めて、何回かに分けてオンラインで行っています。こうした活動はリーグが主催しています。
山岸— WEリーグの場合は、開幕前に行う同じような取り組みに加えて6月が競技規則の改正の時期になるので、その点についてもお話しさせていただいています。それから、シーズン中に行われる強化担当者会議の中にレフェリーの時間を設けていただいています。審判員の取り組みの説明、直前に起きた事象を例にした説明等を行なっています。
ゲームを円滑に進めていくのはレフェリーの仕事ですが、チームの側でできることもあるかもしれない。良いサッカーにしていくために、お互いの立場から話し合っています。
映像がレフリングに与えた影響の大きさ
山岸— 2022−23 シーズンの開幕前の説明では、タックルのシーンの映像を多く使用しました。当初、WEリーグは警告の数が少なかったのですが、全て正しく判定されていた結果ではありませんでした。
(DAZNで全試合の中継がされるようになったこともあり)コンタクトプレーのアップやスローモーションを見る機会が増えました。それまでは1台のカメラの収録や分析担当の撮影した引き絵の映像が多かったのでわかりにくい部分もあったのですが、アップやスローモーションで、いろいろなことが明らかになりました。しっかりとジャッジしていかないと選手の安全を守れないということが見えてきました。そして、選手の皆さんも、どこまでコンタクトしにいくのかを考える必要が生じました。
—映像を簡単に使用できるようになりジャッジの考え方や笛の吹き方は変わりましたか?
山岸— 映像の影響は大きいです。
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