「褒められて伸びてきた」レスリング登坂絵莉さん、サッカー岩渕真奈さん、テニス穂積絵莉さんが伝えるスポーツの楽しさ
スポーツ嫌いにならず、たくさんの子どもたちがスポーツを通して人生を豊かにしてほしい
岩渕真奈さんは、2023年9月に行われた引退会見で引退後の活動について話していました。
「今まで本当にたくさんの人に応援してもらい、自分が好きなことをやってきたので、これからは人のために、そして、女子サッカーのために、何かをできる存在でありたいと思っています。サッカーというものに恩返しする気持ちも込めて、未来の子どもたちに向けてやっていけたらと思っています。」
そして、登坂絵莉さん(リオデジャネイロオリンピック 女子レスリング 48kg級 金メダリスト)、穂積絵莉さん(プロテニスプレイヤー 全仏複準優勝、全豪複ベスト4)と一般社団法人を設立し、新たな活動に取り組む意思を、その場で表明していました。
女子サッカーも好きな登坂絵莉さんがスポーツの楽しさを伝える
今回は、その一般社団法人スマイルコンパスの代表理事を務める登坂絵莉さんのインタビュー記事です。リオデジャネイロオリンピック 女子レスリング 48kg級決勝で、残り13秒の大逆転優勝を記憶されている読者は多いと思います。
話を聞いてみると、実は登坂さんは、子どもの頃からサッカーが好きなのだそうです。レスリングを始めたのは、小学3年生のとき。地元のレスリング教室に連れて行かれ、ウォーミングアップのマット運動が楽しそうだと感じ、自分もやりたいと思ったことからでした。登坂さんは「褒められて伸びてきた」と話します。
「楽しさや素晴らしさを、自身の経験から身をもって感じている私たちだからこそ伝えられる活動がある」と思い、3人で一般社団法人スマイルコンパスを始動しています。スポーツの楽しさはどこにあるのか、ここまでの活動、そして未来についてリモートでお聞きしました。
暴力や強制がなくても結果を出せる方法はあると思ってきた登坂さん
登坂—子どものスポーツ現場においては、暴力、言葉の暴力、いろいろな問題があります。自分自身は、子どもの頃から、あまり負けて怒られたことがなかったので「その(暴力を伴う)道を行かなくても結果を出せる方法はある」という思いがずっとありました。
子どもたちのスポーツにも大人と同じように様々な大会があり目標を決めて頑張ることは素晴らしいものである一方で、のびのびとスポーツをする場所がそれほど多くないかもしれないとも感じています。
そこで、子どもたちとスポーツを通して交流する場を創っていきたいと思うようになりました。1年くらい前に岩渕真奈ちゃんと二人でコーヒーを飲んでいたとき、私の考えを伝えると、一緒にやろうという話になりました。彼女も、ただ好きで楽しくてサッカーをやってきたという思いが強く、強制されてやったことがないという話をしていました。そこに、もともと仲が良く、テニスというスポーツが大好きな穂積絵莉(プロテニスプレーヤー)が加わり、主体的に活動していくために団体を立ち上げることになりました。
それぞれがスポーツの楽しさを見つけてほしい、子どもたちへの思い
—様々な調査結果から、スポーツ嫌いの子どもたちの存在が注目されていますね。
登坂— 一緒に駆けっこをしたりボールを追いかけたりすることを最初から嫌いな子は、それほどいないと思います。ほとんどの子どもは身体を動かすこと自体は好きだと思います。やはり、環境がスポーツを嫌いにさせているのではないかと感じます。小学校に入れば、スポーツテストみたいなものがある。点数が出て評価される。他の子どもと比較されすぎると、どうしてもスポーツに対してネガティブな印象を持つ子どもが現れてしまうのです。
数字を「次はここを目指す」みたいに使うのは良いと思うのですが、学校では、どうしても他の子どもとの比較になってしまいます。すると、運動が得意ではない子どもたちは、スポーツに、あまり良い印象を持たなくなると思います。
—自分のスペックを数字で見せられるみたいな印象がありそうですね。
登坂— それでスポーツから離れてしまうと、結局、スポーツをやっている子どもと身体を動かさない子どもとの間に、どんどんと差が開いていってしまう悪循環に陥るのです。
手応えを得ることができた武蔵野東小学校での最初の活動
—スマイルコンパスの第一回活動の活動として、武蔵野東小学校で卒業目前の6年生向け特別授業を実施されました。岩渕さんの母校だそうですね。実施の手応えを教えてください。
登坂— 私たち自身の勉強にもなった良い時間だと感じています。今回は6年生が卒業というタイミングだったこともあり、自分たちがやってきたことのトークセッションをメインに行いました。想像以上に私たちに関心を持ってくれて、伝えたいことを理解してくれました。
障がいを持った子どもたちにもスポーツの楽しさを伝えたい
登坂— 武蔵野東小学校では自閉症の子たちも一緒に生活しています。一般的には障がいを持った子どもたちがスポーツを楽しむ機会はあまり多くないといわれています。だから、一般社団法人スマイルコンパスでは、そうした子たちにも目を向けていきたいと思っています。
自閉症の子たちも、体育の授業で楽しそうに身体を動かしています。やはり、本来、人は身体を動かすことが楽しいのだと思います。できること、できないことは障がいの程度によって変わってくるので、きちんと考えて、誰もが楽しめるプログラムを作っていきたいです。
スポーツの楽しさは勝ち負けだけではない
—他の人と比較される「尺度」にならなければ、身体を動かすことは、やはり楽しいことですね。
登坂— スポーツは勝ち負けだけに目が行きがちです。私自身は子どもの頃から勝負が好きでしたし、勝ち負けを楽しんできたと思うのですが、スポーツの良さはそれだけではありません。一緒に皆で頑張ること、できなかったことができるようになること、それに、私には小学校と家族以外のコミュニティがあったことも良かったと思っています。クラブチームに入っていたから、学校では出会えない仲間に出会うことができました。
それぞれがスポーツの楽しさを見つけてほしいですね。いろいろな楽しさがあるということを伝えてあげないと、勝ち負けだけにこだわって、スポーツは楽しくない、できない、つまらないみたいなことになってしまうと思うのです。
のびのびとやらせるだけではなく、大事なことは、きちんと言葉で伝える
—登坂さんは「褒められて伸びてきた」とお話しされています。これはレスリングでは当たり前のことだったのでしょうか?
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