赤い稲妻・清家貴子選手(浦和)が止められない、止まらない WEリーグ対戦相手の声から理由を考える 5つの重要証言
止められない、止まらない、清家貴子選手の魅力と凄さをリーグ折り返しのタイミングで再確認
三菱重工浦和レッズレディースの清家貴子選手が止まりません。破竹の7試合連続得点(WEリーグ新記録)を達成し、ここまで12得点です。日本のプロサッカートップリーグの連続試合得点記録は1998年に樹立したフリオ・サリナス選手(横浜F・マリノス)の8試合連続得点。清家選手はあと一つに迫りました。
清家選手は、ここまで2023−24 WEリーグの全試合に出場。見る者をアッと驚かせるプレーを必ず披露します。つまり、三菱重工浦和レッズレディース・サポーターは、毎試合、赤い稲妻の閃光を浴びているのです。なんと幸せなことでしょう。

清家貴子選手はジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦で1得点、アルビレックス新潟レディースで1得点1アシスト 写真提供:WEリーグ TOP写真も
「わかっていても止められない」理由を数字と声から探す
今回のテーマは「赤い稲妻・清家貴子(浦和)が止まらない」。いささか結論じみた見出しとなりましたが「わかっていても止められない」理由がどこにあるのか、この記事のために、2つの試合を取材し、対戦相手やチームメイト、そして本人から話を聞いています。
サイドバックでの経験を経て日本屈指のサイドアタッカーへ変貌
清家貴子選手がプレナスなでしこリーグにデビューしたのは2014年シーズンです(浦和レッズレディースユース所属で出場)。デビューイヤーはリーグ戦24試合出場8得点。直線的な高速ドリブルからのシュートで新風を巻き起こし優勝に貢献しました。当時「日本の未来のエースストライカーは清家貴子で安泰だ」と思ったファン・サポーターは多かったと思います。筆者もその一人です。
2015年シーズンも9得点の大活躍で新人賞獲得。ところが、その後は得点機に絡むシーンが減少。エース候補としての存在感が薄れかけていました。転機は2019年に訪れます。就任した森栄次監督により右サイドバックにコンバートされコンスタントに出場機会を得たのです。そこから清家選手が右肩上がりで急上昇していきます。EAFF E―1サッカー選手権2019決勝大会でなでしこジャパン初出場、そして初得点も。その後、右サイドバックとして技術と破壊力を高めていきます。
ときおり中盤や3トップのサイドとして起用されてきた清家選手に訪れた次の転機は楠瀬直木監督の就任です。縦に速く強度の高いサッカーを目指す楠瀬監督は右サイドバックに遠藤優選手を起用。清家選手は再び、一枚前の攻撃的なポジションに戻ったのです。
ここ数年間の活躍で、WEリーグ屈指のサイドアタッカーとして地位を固めてきた清家選手ですが、今シーズンは新たな境地に達しています。
決めてよし、アシストしてよし、まさに無双状態
まずWEリーグが発表しているスタッツを見てみましょう。
清家貴子選手スタッツ(第12節終了時点)
得点ランキング1位 (2位と5点差)
シュート数1位
枠内シュート率2位
アシスト数2位
クロス数3位
キーパス数1位
ゴール期待値(xG)1位
数字をご覧いただき分かる通り、どのチームも清家選手を全く止めていません。
対戦相手は素早くスペースを圧縮して押さえ込みたいのだが
2024年3月24日、フクダ電子アリーナに乗り込んだ三菱重工浦和レッズレディース戦はジェフユナイテッド市原・千葉レディースを1−2で下しました(第12節)。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの指揮を執ったイスマエル・オルトゥーニョ・カスティージョヘッドコーチは「優れた選手がたくさんいるので清家選手一人への対策を考えるわけではない」としながらも、清家選手が特に優れたキープレーヤーであることを認め、試合前の準備を試合後に明かしました。
「清家選手のいる右サイドにスペースを与えないために、しっかりといつも以上にスライドして距離間を短くすることをやっていきました。ディフェンス対応する選手は清家選手にただついていくだけではなく嫌がるコンタクトをする、アグレッシブに行くところはしっかりやっていこうと話をしました。どのようなプランを組んでいても、キープレーヤーはしっかりと結果を残せる、自分のプレーを出してくる難しさを感じた試合になったと思います。」
山口千尋選手は対戦後に、試合前の指示と意気込みについて教えてくれました。
「レッズは右サイドがストロングなので『今日は私と(藤代)真帆に懸かっているよ』と言われていました。本当にバチバチに戦おうと思って入りました。」
三菱重工浦和レッズレディースの右サイドが強力な理由の一つは清家選手に加えて遠藤優選手という、強度が高くスピードの速い選手が前後に揃っていることです。遠藤選手も「一対一ドリブル成功率」1位(81.8%)の難敵です。山口千尋選手は二人を相手に苦闘しました。
ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、アルビレックス新潟レディース、そして本人が語る強み
では、ここからは5つの項目で証言を整理し清家選手を止められない理由を探っていきます。
証言1 対策されても一瞬の隙を逃さない
この試合で得点したジェフユナイテッド市原・千葉レディースの鴨川実歩は試合後に悔しさを隠せませんでした。
「ブロックを崩された、自分たちが本当にやられた感のあった試合ではなかったので、より悔しいとすごく感じます。」
蓮輪真琴選手はセンターバックとして三菱重工浦和レッズレディースの攻勢に対処し続けました。
「自分たちの左サイド(浦和から見た右サイド)から攻められることが多いことは(試合前から)わかっていました。自分たちが受け身になることなく、しっかりとゾーンを組んで超コンパクトにスライドすることを意識して中3日で練習してきました。若干のずれが生まれたり、簡単に背後を取られたりするシーンがあったと思いますが、最後のクロスに対してはしっかりとできていたので、対策はできていたと思っています。」
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは、流れの中で崩されて失点することはありませんでした。そのため、「ここまで押さえても勝てなかった」という落胆が残りました。2失点目はゴールキーパーの前に走り込んできた清家選手を倒してしまったことによるPK。清家選手はゴールキーパーとディフェンダーの双方の声を聞いてボールに間に合うと判断して飛び込んだことを明かしています。まさに「勝負の神は細部に宿る」です。一瞬の隙を逃さずに得点してしまうのです。

厳しくマークされる清家貴子選手 写真提供:WEリーグ
1週間後の3月27日に、アルビレックス新潟レディースもジェフユナイテッド市原・千葉レディースと同じようにコンパクトな陣形維持に注意して臨みました。滝川結女選手は主に前半に三菱重工浦和レッズレディースの右サイドとマッチアップしました。
「清家選手には、すごく注意を払って、サイドバックの園田瑞貴選手と話し合いつつやりました。信頼しているから(自分は前に出て)任せ切れたと思います。抑えていたと思うのですが、やはり隙を突いた裏抜けに『代表クラスだな』と改めて感じました。」
双方が引くことなく、前からボールを奪い合うハイレベルの戦いはスタンドのファン・サポーターを唸らせました。それでも、清家選手は前半に先制点を決めました。たった一つですが、中央からのディフェンスラインの裏を抜け出したのです。

清家貴子選手に集まるチームメイト 写真提供:WEリーグ
後半から滝川選手とポジションを入れ替え、清家選手とマッチアップするサイドでプレーした石淵萌実選手は、ある程度までは狙い通りの守備をできていたと考えています。
「清家選手をスピードに乗せてしまうと危ないと思っていたので、一対一の距離感や、まずやらせないところに戻るところを意識しました。」
それでも、清家選手は、後半に1アシスト。アルビレックス新潟レディースにとって悔しい失点となりました。

アルビレックス新潟レディースの守備をドリブルで切り裂く清家貴子選手 写真提供:WEリーグ
証言2 明晰頭脳の分析に裏打ちされた駆け引き
ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦の終盤は両チームに反則が多くなりました。繰り返しの反則を受けた清家選手は腕を大きく広げ抗議しているように見えました。しかし、それは「見えた」だけだったようです。
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