「ベレーザらしさ」のゆくえ 海外移籍が活発化したWEリーグの曲がり角と、その先
時代と共に変わりゆく日テレ・東京ヴェルディベレーザと女子サッカー
WEリーグが開幕したことにより、変わったものと変わらないものがあります。最も大きな変化はリーグ戦の上位と下位の実力差が狭まり、大差の試合が減ったことです。全体に技術、戦術、強度のレベルが向上しました。
上位チームは時代に合わせた変化を余儀なくされています。日テレ・東京ヴェルディベレーザの中心選手である藤野あおば選手は、2024年3月1日の取材で、このように話していました。
「自分が入る前までは常勝軍団で、どんな試合でも『勝ち続ける強さ』がベレーザにあったと思います。やるからにはもちろん勝利を目指して頑張りますが、正直、今のベレーザは(試合をする前から)『勝って当然』とは思えないチームですが、一戦一戦、しっかりと戦って、勝利を積み重ねれば最終順位はおのずとついてくると思います。」
「ベレーザらしさ」とは何か?
かつての日テレ・東京ヴェルディベレーザは「ベレーザらしさ」を見せつけた上で圧勝を続けてきました。例えばLリーグ2005L1(現・なでしこリーグ1部)は18勝0敗3分。21試合で84得点5失点得失点差+79という圧巻の戦績です。そのスタイルは近年まで着実に引き継がれてきました。ポゼッションによるゲームの支配、独特のリズムのショートパス交換、美しいゴール、中央突破、ブラジルスタイル……以前に当たり前のように使用していた、それらのキーワードは、今のチームに、どれくらい当てはまるのでしょうか。
今回のWE Love 女子サッカーマガジンは「『ベレーザらしさ』のゆくえ」を追いかけます。
急激な変化を感じる2023−24シーズン
今シーズンから復帰した松田岳夫監督は、かつて1998年シーズンに読売ベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)で監督としてのキャリアをスタート。2005年シーズンから2008年シーズンまでで四連覇し常勝・ベレーザ黄金期を作り上げました。
松田監督は長く日テレ・東京ヴェルディベレーザに関わり「ベレーザらしさ」を熟知していながら、今シーズンは、あえてそのイメージを一度は崩し「WEリーグ版ベレーザらしさ」に変化させようとしているように感じます。
数字では「ベレーザらしさ」が維持されているが大きく変わった試合運び
WEリーグが公開した「2023−24前半戦チームスタッツ」によると、パス本数は全12チームで1位。スルーパス本数もドリブル回数も1位。中央攻撃は38%で三菱重工浦和レッズレディースやINAC神戸レオネッサよりも多く、実は数字だけを見れば「ベレーザらしさ」は維持されているようにも見えます。
しかし、前からの守備によりファイナルサード(相手陣深く)でボール奪う回数が多く、そこから最短距離で相手ゴール前に迫るアクションが目立っています。ゆっくりとパスをつなぎながら緩急の変化をつけて崩していくプレーが少なくなったこともあり、日テレ・東京ヴェルディベレーザのやり方は、見た目には数字以上に急激な変化があったように感じます。簡単に縦一本を狙うパスの印象も強く、それが、ずっと応援し続けてきたファン・サポーターに一抹の不安を差し込みました。また、5バックで最終ラインを埋めてくるチームに苦戦し、これまで経験してこなかったような大敗もありました。
長く応援しているサポーターを含む女子サッカーファンから「ベレーザらしさが消えてしまうのではないか?」という声が上がりました。
ウィンターブレイクを4位で終え、日テレ・東京ヴェルディベレーザは2人のストライカーを補強しました。2023プレナスなでしこリーグ1部最優秀選手の鈴木陽選手はオルカ鴨川FCから、2023プレナスなでしこリーグ1部得点王の神谷千菜選手は朝日インテック・ラブリッジ名古屋からの獲得です。
第8節ではサイド攻撃から2得点
迎えた、ウィンターブレイク明けの第8節では大変身。攻め急ぎはなくなり、しっかりとパスをつなぎ、守備の圧力を交わしながら前進するサッカーを披露しました。とはいえ、中央での有効な崩しは少なく、サイドからのクロスを、新加入の2人を2トップに据え、神谷千菜選手がヘディングで2得点。ノジマステラ神奈川相模原に圧勝しました。このサッカーは狙い通りなのでしょうか。松田監督に聞いてみました。
「チームとしていろいろな試みをしてきました。一つはグラウンドにいる選手たちがもっともっと自分のプレーを出せるようにすること。もう一つはゲーム全体を支配すること。ここ何試合か振り返ってみると、相手と五分五分のゲームが多かった。ゲームを支配することを視野に入れながら、中断期間に高めてきました。
もともとゴールへの意欲の高い(2トップの)選手たちです。(神谷選手は)ヘディングが強いという武器を十分に出せたと思います。ただ、やはりクロスだけではなく、真ん中からもゴールを引き出してほしいです。今後、バリエーションを増やしていけると思っています。」
「ベレーザらしさ」を言語化することはできるか?
そもそも「ベレーザらしさ」とは何なのでしょうか。昔と今で違いがあるのでしょうか。当事者に聞いてみました。
竹本一彦さんの語る「ベレーザのサッカー」は「勝つこと」と「見ている人が面白いと感じてくれるサッカー」
松田監督を招聘した女子強化部長の竹本一彦さんは、1983年シーズンからコーチとして、このチームを指導。1986年シーズンから1996年シーズンまでの10年間は監督を務めました。その後、Jリーグのクラブで活躍しましたが、2020年シーズンにGMとして帰還しました。40年間にわたり日テレ・東京ヴェルディベレーザの基礎を築いた張本人ですから、最も「ベレーザらしさ」を知っているはずです。
竹本さんの語る「ベレーザのサッカー」は「勝つこと」と「見ている人が面白いと感じてくれるサッカー」です。具体的なゴールの奪い方のイメージは「足元でのパスワークやワンツーを使った中央突破による『地上戦の意外性』」だと話します。
勝つためにクロスからの得点が必要
しかし、竹本さんは「ベレーザのサッカー」に誇りを持ちながらも、勝つためにはクロスからの得点が足りないと考えています。そこで、戦術的な変更のみならず、クロスに合わせて得点できる「ウチにいないタイプ(竹本談)」のストライカーをウィンターブレイクに獲得したのです。
アカデミーから優れたストライカーを育て続けてきた日テレ・東京ヴェルディベレーザは、これまで、別のリーグで実績のあるストライカーを獲得したことがありません。この補強は従来の「ベレーザらしさ」とはイメージの異なる、大きな方向転換です。
岩清水梓選手は今シーズンの目指す戦い方をバルサに例える
時代の曲がり角がやってきたのかもしれません。岩清水梓選手に「ベレーザらしさ」がどうなっていくのかを聞いてみました。
岩清水選手は中学生時代から下部組織で育ち2003年シーズンに昇格。ベレーザ一筋でプレーしてきました。松田監督の指導を受けていた2006年2月になでしこジャパン(日本女子代表)で代表デビューしています。
「確かにそう言われてみたら、良い意味でウチらしくない2人が加わりました。攻撃のバリエーションが増えたと思います。迫力があると思います。 」
そして的確な例えで、これからの「ベレーザらしさ」について個人的な見解を話しました。
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