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サンフレッチェ広島レジーナがWEリーグカップ初優勝 ビッグ3の一角が崩れた120分間激戦の意味

120分を終えるまで人の動きボールの動きがほとんど落ちないサッカーでした。フィールドに立っている11人は最後まで走り抜け、性別も、これが延長戦であることも感じさせない激しいぶつかり合い。主審の山下良美さんの吹く試合終了のホイッスルが等々力陸上競技場の夜空に響いたとき、スタジアムはスコアレスドローの落胆のため息ではなく、大きな賞賛の拍手に包まれました。

ゼロからスタートしてサンフレッチェ広島レジーナが初タイトル獲得

P K戦の末、2023−24 WEリーグカップの頂点に立ったのはサンフレッチェ広島レジーナ。WEリーグのスタートに合わせて結成された若いチームが3年目で初タイトルを獲得しました。三菱重工浦和レッズレディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサのビッグ3以外のチームがWEリーグのタイトルを獲得したのは史上初。日本の女子サッカーの三大タイトルをビッグ3以外のチームが獲得したのは2017プレナスなでしこリーグカップ1部(※)を制したジェフユナイテッド市原・千葉レディース以来。この20年間ではジェフユナイテッド市原・千葉レディース、田崎ペルーレF Cに続く3チーム目の快挙を達成したことになります。

優勝を決め歓喜の瞬間 写真提供:WEリーグ TOP画像も

掲載当初「2017プレナスなでしこリーグ1部」と記載しておりました。お詫びして訂正いたします。申し訳ありません。

大きな舞台で感じた選手たちの意地

惜しくも準優勝となったアルビレックス新潟レディースの橋川和晃監督は、決勝がこのカードになった意義を試合後の監督会見で話しました。

「代表活動とかいろいろあったにしろ、トップ3の牙城を崩していかなければならない。去年のリーグ戦での勝ち点差もかなり大きかった。我々とサンフレッチェ広島レジーナが上がってきたとはすごく良かったです。」

優勝したサンフレッチェ広島レジーナの中村伸監督は喜びを表現しながらも、ビッグ3の牙城を崩したことについては慎重な姿勢を崩しませんでした。

「肩を並べるレベルには、まだまだ我々は達していません。ただ、どのチームにも、それぞれ良さがあって、一つ一つ自分たちが成長するためのものを示していただきました。そういうものと向き合い続け、ここまでやってきたことが、今日、この結果につながって本当に嬉しいです。」

この日、フィールドでプレーした選手の中にFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023に出場した選手はいませんでした(アルビレックス新潟レディースの平尾知佳選手はニュージーランドではベンチ入り)。しかし、ハイレベルの戦いを120分間も披露し、スタンドは最後まで沸き続けました。WEリーグの髙田春奈チェアは試合後に取材に答え、WEリーグと日本の女子サッカーのレベル向上に手応えを掴んだ様子でした。そして、日本全国のクラブに、WEリーグという日本の女子サッカーの頂点の存在を意識してほしいと考えています。

「選手たちの意地もあると感じました。アジア大会で世界と戦う機会をもらった選手たちもいて女子サッカーの裾野が広いということを示せたと思います。近賀選手、川澄選手といったベテラン勢がチームを鼓舞して、ここまで引っ張ってきたところもあると思うので、女子サッカーの歴史の重みも出た試合だったと思います。この2チームだけではなく、あと一歩だったチームも『できる』ということをすごく感じられたと思います。その切磋琢磨が、ますますWEリーグを面白くすると思います。

日本の女子サッカーには歴史があり、育成されてここまで(ビッグ3の時代が)来ています。(WEリーグのスタートに合わせて)途中から入ってきたチームもファンの方たちの応援に支えられてタイトルを掴めるということを示してくれました。これから日本の女子サッカーが広がっていく意味では良い結果だったと思います。」

サンフレッチェ広島レジーナ躍進を支えた最終ラインからのビルドアップ

アルビレックス新潟レディースの猛攻を無失点に抑えたゴールキーパーの木稲瑠那選手はキックの技術に優れ、攻撃的な姿勢を表現できる選手です。この大舞台でアルビレックス新潟レディースのエース・道上彩花選手との一対一を見事に左足で止めました。2023−24 WEリーグカップを通じて「自信を積み重ねてきている」と言います。

「3シーズンを過ごし、後ろからビルドアップしてきました。それは、どのような相手であろうと変わらないことです。自分の長所でもあるロングキックも生かしながら、つなぐことを意識しました。」

木稲瑠那選手(左) 写真提供:WEリーグ

この大会を通じて筆者が感じたのは「安心感」よりも「鋭さ」です。無謀なチャレンジは少なくなりました。相手の立ち位置をコントロールしながら、タイミングを測り、的確なタイミングでテンポよくパスをつなぐことが多くなり、難しい縦パスのチャレンジをする必要がなくなったように感じます。ここぞという状況が揃うと厳しいパスを前に差し込みます。グループステージでは木稲選手からタッチライン際に立つ選手へのロングキックで局面を変えるプレーが強く印象に残ります。

「練習中や終わった後に、ビルドアップのことに関してディフェンスラインと話す機会が多くなっています。『ああのこうしてほしかった』と言うことも、逆に『こうしてほしい』と言われることもある。相手の意見を取り入れながら自分も言いたいことを伝えています。(今日の試合はビルドアップが)基本、スムーズにいきましたけれど、押し込まれていている中でつなぐのか蹴るのかについては、ちょっと悩むところもありました。試合中はあまり声が通らなかのでハーフタイムとかに話しながらやりました。」

優れた最終ラインの選手が補強されたことも、サンフレッチェ広島レジーナの初タイトルの要因です。守備力の向上もさることながら、木那選手と連携した攻撃面でのレベルアップを強く感じます。今シーズンにジェフユナイテッド市原・千葉レディースから加入した市瀬千里選手は最終ラインでのビルドアップ能力に評価が高い選手です。6試合全てに出場しました。なぜ、ここまで短期間にフィットできたのでしょうか。

「移籍を決めたときは不安も大きかったのですが、合流してからは自信につながることが多いです。本当にいろいろな方々が期待してくださった中で、このような結果を出せて本当にホッとしています。移籍の声をかけていただいたときに『市瀬さんの良いプレーを、自信を持って出してください』と言われていました。私が努力したというよりも広島の方々が受け入れてくださったのだと思います。自分は目標にリーグ優勝を掲げて移籍しました。カップ戦を優勝できたことは本当に自信になりました。そして、スタートラインだと思います。WEリーグ優勝を絶対にしたいと思います。」

道上彩花選手と競り合う市瀬千里選手(左) 写真提供:WEリーグ

柳瀬楓菜選手は広島の女王様になる

サンフレッチェ広島レジーナの最大の強みは中盤を制圧する小川愛選手と柳瀬楓菜選手のコンビネーションです。守備では、アルビレックス新潟レディースの滝川結女選手と上尾野辺めぐみ選手がスペースへ顔をだす動きに、上手くマークを受け渡しながら対処。適切なポジションをとることで、ボールを奪取した後の飛び出しもスムーズでした。

「小川選手とは3年目ですごくやりやすいです。声をかけなくても自然と意思疎通ができていて、小川選手が前に出たら私が下がる、私が前に出たら小川選手が下がる関係が自然にできています。」

決勝進出を決めたグループA第4節では、小川選手と柳瀬選手が得点し、ディフェンディングチャンピオンの三菱重工浦和レッズレディースを下しました。柳瀬選手はリーグ戦、カップ戦を通じて初得点でした。サンフレッチェ広島レジーナの中村伸監督は今シーズンを迎えるにあたり柳瀬選手に「女王様になっていこう」と伝えました。昨シーズンは怪我もありました。2022−23 Yogibo WEリーグは第8節まで出場することができませんでしたが、今シーズンは、ここまで順調に見えます。

「結果にこだわって、このチームのために戦う思いがより一層強くなりました。今日はタイトルがかかった試合だったので、気持ちの部分で負けないように入りました。」

この優勝をステップに、WEリーグの女王様に即位する可能性は十分にあります。

「チーム全体で戦って、負けなしという結果は自信になりました。まだまだ自分は本当に成長過程なので、リーグ戦でも優勝を目指していきたいと思います。もっと得点に絡みたいという思いもありますし、もっともっとチームを助けられる存在になりたいなと思います。」

柳瀬楓菜選手 写真提供:WEリーグ

新潟L躍進の証拠はオレンジに染まったスタンド

惜しくも準優勝に終わったアルビレックス新潟レディースには、小学生時代から一緒に大和シルフィードでプレーした二人の選手と、二人を追ってプレーした選手がいます。

杉田亜未選手は大和シルフィードの先輩である上尾野辺めぐみ選手の存在がアルビレックス新潟レディースへの移籍の理由の一つになったと言います。アルビレックス新潟レディースへの移籍を決めた後に、もう一人の先輩である川澄奈穂美選手の加入が発表され「正直ヤバい」と思ったそうです。あこがれの先輩二人と一緒にプレーすることになり学ぶことが多い毎日です。

「90分で決めたかったです。そこが一番だと思います。チームとして成長していると感じるので、これからまた楽しみだとは思っています。」

杉田選手の存在が攻守にわたりゲーム運びに安定をもたらしました。

杉田亜未選手 写真提供:WEリーグ

アルビレックス新潟レディースの橋川和晃監督は三人の交代で120分を終えました。80分以降のプランをどのように考えていたのでしょうか。

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