WE Love 女子サッカーマガジン

サポーターの応援はギターと太鼓で アート×農業×女子サッカー 独自の進化を遂げたF C越後妻有の3年後

Topのphoto 日本大学藝術学部 田中里実

 WE Love 女子サッカーマガジンがF C越後妻有を初めて取材したのは2020年の秋でした。FC越後妻有は『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』のプロジェクトの一環として2015年に発足したチームです。『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』は世界最大級の国際芸術祭。棚田、廃校、空き家、自然を生かした作品が地域に点在しています。

星峠の棚田 photo Nakamura Osamu

北信越女子サッカーリーグ初参戦を3位で終える

今回も2020年の取材と同じく、「まつだい『農舞台』」という建築作品とリモートでつなぎ、あれから3年を経たF C越後妻有の現在をお届けします。越後妻有は新潟県南部に位置する十日町市と津南町からなる盆地を中心とした地域です。F C越後妻有は十日町市にある「クロアチアピッチ」をホームスタジアムとし、昨シーズンに北信越女子サッカーリーグ2部を優勝しました。今シーズンは1部と2部が合併した北信越女子サッカーリーグを戦い10勝1分3敗、勝ち点31の3位でフィニッシュしました。勝てなかった4試合は、優勝したリリーウルフ.F石川戦と2位の新潟医療福祉大学女子サッカー部戦のホーム&アウェイのみ。大きく躍進しました。

今回、お話してくださったのは2人の選手です。

内海昭子「たくさんの失われた窓のために」(大地の芸術祭作品)photo Nakamura Osamu

渡邊彩海選手は前回の取材にも参加してくださいました。当時はF C越後妻有に加入直後。豊富なトレーニング器具のあるトレーニング室、24時間使える天然芝のグラウンドがあること、仕事も全てチームメイトと一緒なのでチームワークが磨かれ、サッカーを中心にした生活をできることが加入の理由となったと話していました。2020年は農業チームに所属していましたが、現在は広報を担当しています。

渡邊彩海選手 photo 日本大学藝術学部 田中里実、鞍掛純一

小林舞選手は、サッカー未経験者として、このチームに加わりました。現在は『大地の芸術祭』の作品メンテナンスの仕事をしています。大学卒業後に東京で映画やCMの美術スタッフをしていた小林さんは『大地の芸術祭』公式のサポーター・こへび隊の活動に参加し、現地で何気なく会話したことがF C越後妻有加入のきっかけとなりました。高校でハンドボールのゴールキーパーをしていたことを越後妻有の住人に話すとゴールキーパーとしてスカウトされたのです。

小林舞選手 photo 日本大学藝術学部 田中里実、鞍掛純一

新潟県女子サッカーリーグ優勝、北信越女子サッカーリーグ2部優勝と結果を出し続ける

渡邊選手は最初の取材の頃と3年経った今との違いを話してくれました。あの時点で2015年のクラブ立ち上げから5年が経過していましたがメンバーはわずかに6人。サポートメンバーを加え合計15人でいよいよ新潟県女子サッカーリーグに初参戦するというタイミングでした。

F I F Aワールドカップ日韓2002にクロアチア代表のベースキャンプとなったクロアチアピッチ photo 日本大学藝術学部 田中里実

渡邊まず、選手の人数が増えました。今は12人のメンバー+サポートメンバーで試合をしています。業務の部分では農業だけではなく、大地の芸術祭の運営部署にも人を回せるようになったので、今は分散して働いています。

小林徐々にメンバーが増え、練習メニューもいろいろなことができるようになりました。チームとして成長してきたと感じますね。

どこかで上昇気流に乗るタイミングがあったとは思うのですが、それはどこだったと思いますか?

渡邊新潟県女子サッカーリーグに参入できたところで、もしかしたら、もう上昇気流に乗り始めていたのかもしれません。そのときは気づかなかったのですが、公式戦に出場したことで気にしてもらう機会が生まれ、新潟県女子サッカーリーグに優勝したことでチームの存在を知った選手が加入してくれました。N H Kの『Dearにっぽん』というドキュメンタリー番組をはじめ、さまざまな全国放送に取り上げていただく機会も増えました。

加入理由は各々で違います。私はサッカーをずっと続けたいので、その進路としてこのチームを選びました。小林は『大地の芸術祭』から入ってきた選手です。

小林新潟県女子サッカーリーグ優勝、北信越女子サッカーリーグ2部優勝でメディアから注目を受けるようになりました。地元の方からの注目も集まり盛り上がりを感じるようになってきましたね。

越後妻有は魚沼産コシヒカリの栽培地域 photo Nakamura Osamu

『大地の芸術祭』をはじめ地域活動とセットで報じられるF C越後妻有

渡邊公式戦をできるようになったのは、とても大きなことです。

公式戦を実施するとメディアの取り上げ方が変化し「苦労の多い農業もやっている」というニュアンスではない発信が増えたように感じますがいかがですか?

渡邊おっしゃる通りだと思います。最近は地域貢献、地域とのつながりを取り上げていただくことが多いですね。

最近のF C越後妻有の取り上げられ方を見ると、この地域に『大地の芸術祭』があることとセットで報じられることが多いと感じます。この地域の外からアーティストが創作活動のために越後妻有に入る、全国からたくさんの方が『大地の芸術祭』にいらっしゃって地域が元気になっていく……そこにチームの皆さんが関与しているところが取り上げられ、以前の「農業×サッカー」から「アート×農業×サッカー」に進化した感じがします。

イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」(大地の芸術祭作品)photo Nakamura Osamu

小林FC越後妻有のコンセプト「おじいちゃんおばあちゃんの笑顔を創り出す」が、やっと実現してきたと思います。地域の応援パワーがすごいです。私たちを応援してくれることで、おじいちゃん、おばあちゃんが元気になっていると実感します。県外からの『大地の芸術祭』にツアーでいらしたお客さんに「サッカーチームがあるんだね」と話しかけられることもあります。美術館の受付で「サッカーやっている子ですか?」と聞かれることもあります。県外のお客さんからも認知されてきていると感じますね。

photo Nakamura Osamu

スタンドから聞こえてくるギターの音色

テレビ番組で見ると、チームを応援される方の雰囲気がずいぶんと変わりましたね?

渡邊「応援団が必要だよね」と、気がついたら応援団が生まれていました。越後妻有の人たちは他のサッカーチームの応援との接点があまりないこともあって、素晴らしい自作の応援を始めました。

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