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マチルダズ(オーストラリア女子代表)に触発された政府が大規模な女子スポーツ支援に動く

FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023は2023年8月19日に3位決定戦が行われスウェーデン女子代表が勝利。これにより、敗れたマチルダズ(オーストラリア女子代表)は4位で大会を終えました。
準決勝で敗れ快進撃が止まったものの開催国の関心は高く、シドニーのファン・フェスティバルは試合開始前に満員札止め。入りきれないファン・サポーターは隣にあるコンベンション施設・ICCシドニーの屋上に誘導されました。こちらにも大型ビジョンが設置されており試合の行方を見つめました。

第2会場となったICCシドニー

今大会はオーストラリアの女子スポーツの流れを変えるほどの影響を及ぼしました。そして、女子スポーツのみならず、オーストラリアという国全体に刺激を与えました。シドニーで創刊20周年を迎えたオール・カラーの日本語無料月刊誌・月刊ジャパラリア(https://japaralia.com/)で『Take it easy!〜あすかのつづれば〜』というシドニーのライフスタイルを独自の視点で切り取る人気エッセイを連載している田代明日香さんは、マチルダズの人気が爆発したことと、大会が成功した要因について、このように話します。

「国を挙げてしっかりと準備はしてきたと思います。今回の大会はオーストラリアにとってシドニー・オリンピック以来の大きなスポーツイベントです。歴史を変えるくらいの出来事で経済効果もすごいです。国として、とても力を入れています。『優勝したらパブリックホリデーにする』という発言までありましたね。
でも、マチルダズが勝ち進むまでは誰もこんなに女子サッカーが盛り上がると思っていなかった。勝ち進むにつれて『よし来た!』みたいな感じで盛り上がりが広がっていったと思います。さまざまなルーツの人が生活しているので参加した外国のチームも自分のルーツとして応援できる人が国内にたくさん住んでいます。だから、どの試合でも身近に感じる人がいて盛り上がりやすい面があると思います。」

オペラハウスの周囲にも大会のフラッグ

ハッピーなムードに包まれる女子サッカー

開催都市は大会カラーで染まり、いたるところで無数のフラッグが風になびき、ムードを盛り上げていました。確かに、ファン・フェスティバルに足を運べば多様なルーツを持つ人たちがマチルダズを応援しています。欧州系、東アジア系、インド系、ポリネシアン系、先住民……という表現が適切なのかわかりませんが、誰もが自分事として女子代表チームを自然に応援し、ここまでの大きなうねりを引き起こしたのです。そして、スポーツが好き。3位決定戦は敗れたものの、ここまで、ファン・サポーターは常に大きな声援を贈ってきました。

多様な民族が集まって形成されるオーストラリアという国

ただ、それは、日本でみられる「日本のすごさをアピールする」「強さを見せつける」「勝利に導く」「絶対に負けられない」という意思を含んだ応援とは異なり「スポーツが好きだから応援している」「楽しいから応援している」というハッピーなムードから生まれています。敗戦に「残念」という空気が少しばかり漂いましたが「落胆」は感じられませんでした。ファン・フェスティバルのステージにはロックバンドとDJが登場し、試合終了から90分以上経った22時近くまでショーが盛り上がりました。周辺の飲食店は笑顔に溢れ、多くの人が素晴らしい週末を楽しんでいました。田代さんは言います。

「皆さん、スポーツが好きですから、相手をやっつけるよりも両方のチームにリスペクトがあって、勝っても負けても『よく頑張った』ところを応援しているのだと思います。オーストラリアでは自分のハッピーが一番で他のことをあまり強く求めていない国民性があります。ガツガツもしていなくて、皆、誰にでも優しいです。
日本で放送されるCMには不安を煽るものが多いですよね。その手法なら商品が売れるからだと思うのですが、こちらは『Take it easy!』です。国は成長してきたし資源もある。奨学金制度は充実しているし年金も手厚いから、オーストラリア人は将来のことをあまり焦っていないです。応援にも、そうした緩やかな国民性が反映するのだと思います。」

ファミリーでの観戦が目立った

魅力ある個性に溢れたマチルダズの選手たちは国民的な人気者となりました。田代さんによると、エースのサム・カー選手は、オーストラリアのスポーツ選手で一番有名な選手なのだそうです。男女を通して一番有名なので、日本のスポーツ選手に例えると大谷翔平選手のような位置づけになります。女子サッカー選手のポジションが高いとはいえない日本では想像できないオーストラリアの女子サッカーの躍進に、現地で観戦した日本人は驚かれたことでしょう。

サム・カー選手を映したデジタルサイネージ広告

「褒める文化」が競技人口を増やす

2020年シーズンまでニッパツ横浜FCシーガルズでプレーしていた平川杏奈選手は、現在、オーストラリアのブリスベンで暮らしています。FQPL1ウィメン(Aリーグ・ウィメンから数えて3部に相当)のヴァージニア・ユナイテッドに所属しているのです。

「シドニーはとても盛り上がっていると思いますが、ブリスベンも中心部にパブリックビューイングの会場があり盛り上がっています。街を歩いていても、いろいろな国のユニフォームを着て歩いている人がいます。オーストラリアは元々、多民族なのですが、会場に行くといろいろな国がルーツの人がいて『やっぱりワールドカップだな』と思いますね。
スポーツショップへ行くとワールドカップのものばかり置いてあったりします。屋外広告やサイネージでオーストラリア女子代表選手をよく見ます。普段はサッカーを見ない人もスタジアムに来ている感じです。ワールドカップという効果はすごく出ていると思います。」

平川杏奈選手

平川選手は、文化やマインドの持ち方が日本とは異なることを強く感じています。

「お国柄の特徴もあってかと思いますが、個人の主張は強いですね。練習でも、監督に対して発言がボンボン出てくる。それと、サッカーに関係なく『褒める文化』はすごくあると思います。否定しないし褒め倒すこともある。こちらに来て褒められることが多い気がします。前向きな声かけが多い。だから、自信を持ってプレーしやすいかもしれないですね。」

書店に並ぶ女子サッカー関連本

「ストロング」が同性からの憧れにつながるオーストラリア

シドニーでは、ファン・サポーターが選手に要求するポイントが、日本のファン・サポーターとは若干、違っていると感じます。ストロングな選手が「かっこいい」と支持を集め、競り合い、ぶつかり合いで大歓声が起こります。平川選手は、どのように感じたでしょう。

「自分から見たらみんなストロングに見えますけれど……(笑)。日本の技術が優れているのに比べて、オーストラリアは力強さが大事なのかもしれないですね。」

そして、このムーブメントは自らの目標達成のための力を与えてくれるとも感じています。

「応援してくれる人が増えてくれると嬉しいですし、プレーする人が増えれば、すごく嬉しいですね。もっと応援してもらえるように自分もプレーを頑張りたいですね。まだまだアピール不足ですから。上のディビジョンでプレーすることも目指したいです。」

マリー・ファウラー選手

オーストラリア政府は女子スポーツへの巨大な支援を発表、世界は変わるか?

オーストラリア政府はスポーツイベントによる経済活性化、観光客の誘致に力を入れています。オーストラリア政府観光局の総局長フィリッパ・ハリソンさんは開幕前に、このような発言をしています。

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