FIFA女子ワールドカップで再び世界一を奪還するために ディズニープリンセスの世界観を楽しむイベントで女子サッカーの普及・発展のベースづくりをするJFA
2023年7月5日、味の素スタジアムには女の子の歓声が響いていました。
「はじめてのフィールドに、踏み出そう!」
そう呼びかけるのは日本サッカー協会(JFA)です。この日、行われていたのは、小学校1~3年生のサッカー未経験・初心者を対象とした、親子でサッカーとディズニープリンセスの世界観を楽しむイベント・JFA Magical Field Inspired by Disneyファミリーサッカーフェスティバル“F irst Touch Premium“です。“F irst Touch Premium“の会場は、Jリーグや日本代表がプレーするスタジアムです。好きなディズニープリンセスのシャツを親子で身につけ、ディズニーミュージック流れるスタジアムの芝生の上で思う存分にボールを蹴ることができます。
初めのうちは硬さの見えた子どもたちですが、ボールに慣れ親しむウォーミングアップやボールを持って移動する簡単な動作を繰り返すと、次第に表情がほぐれていきました。ボールを追いかけるだけでも一苦労していた様子が徐々に変わり、最後のゲームでは積極的にボールを蹴り合い歓声。シュートが決まればコーチたちとハイタッチし笑顔が弾けました。
参加されるお父さん、お母さんも日頃はボールを蹴っていない人がほとんどなので、親子で一緒に全力でボールを追いかけて笑うシーンが印象に残ります。楽しい思い出に残る1日となったことでしょう。
やはりディズニープリンセスの人気は絶大です。未経験者のアンケートを見ると「ディズニー/ディズニープリンセスが好き」が参加理由の第1位で70%。「サッカーに興味がある」55%を大きく上回りました。開催地域でディズニープリンセスをメインビジュアルに取り入れたチラシを配布すると、一挙に参加申し込みが集まります。
ディズニープリンセスは少女たちの憧れの的であると同時に、親世代にも大人気。物語の中では常にチャレンジし身体能力も高いキャラクターたちです。そのため、会場内では、子どもたちにディズニープリンセスになりきってもらうためのストーリーを組み立て女子サッカーとの親和性をさらに高めています。挑戦にはコーチが笑顔と拍手で応えます。“F irst Touch Premium“では、参加した子どもたちを「プリンセス」と呼びます。
「さあプリセンスの皆さん、ボールを蹴ってみましょう!」
世界との差の根本に「伸び悩む女子の登録選手数」
FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023を目前にし、日本の女子サッカー界は厳しい現実に直面しています。世界の強豪国との力の差、高騰する放映権料の問題……。さまざまな要因はありますが、いずれも突き詰めて考えれば、その根本に「伸び悩む女子の登録選手数」があることは間違ありません。
日本の女性プレーヤーは5.1万人(JFAの種別ごとのチームに登録している選手登録数は2.79万人)ですが、アメリカは160万人。人口比で比較すると日本は0.1%なのに対しアメリカは1.1%です。以前から安定した戦績を残しているスウェーデンでは4.5%。東京2020大会で、そのスウェーデンを下して優勝したカナダは1.7%となっています。
日本の32倍ものプレーヤーがいるアメリカ中から優れた女子代表選手が集まれば強豪チームが誕生するのは当然のことです。そのため、FIFA女子ワールドカップ ドイツ2011でなでしこジャパン(日本女子代表)が優勝した際に、世界の女子サッカー関係者が「5万人しかプレーヤーがいない国が世界一になったのはすごいことだ」と称賛したのです。しかし、裏を返せば、日本は、まだ「女子もサッカーをプレーするのが当たり前」とは程遠い社会だともいえます。
登録選手数20万人を目標にするも、まだ5万人という現実
日本サッカー協会は2030年に女子の登録選手数を20万人とする「なでしこvision」を2015年に掲げて普及活動を行なってきました。当時はなでしこジャパン(日本女子代表)の監督だった佐々木則夫さんが、今は女子委員長です。
「私たちが2011年に優勝したとき、女子のサッカーのブームが起き登録選手が少し増えたことがあります。ただ、優勝したときに、子どもたちがサッカーをできる場が構築されていたかというと、全然、そういうことがされていませんでした。だから、構築されないままブームが終わってしまって、なかなか女子のサッカーの発展がなかったという状況になりました。
やはり、さまざまなカテゴリーで準備をしていなければ増大な普及にはならないです。今は、そうした準備をしつつ、FIFA女子ワールドカップで結果を出すということが女子サッカーの発展につながっていくと思います。」
好評の“F irst Touch“をさらにバージョンアップし拡大開催
2022年7月から全国7ヶ所開催でスタートした“F irst Touch“は好評。各地でボールを追いかける子どもたちの歓声が上がりました。特に「未経験者の参加率85%」「プログラムの満足度100%」という数字は予想以上の効果を表しています。
2シーズン目に当たる2023年6月から12月までの間に、日本サッカー協会はJFA Magical Field Inspired by Disneyファミリーサッカーフェスティバル“F irst Touch Premium“を全国12ヶ所のスタジアムで開催します。そして、普及版のJFA Magical Field Inspired by Disneyファミリーサッカーフェスティバル“F irst Touch“を全国11箇所で開催します。
さらに、JFAなでしこひろば認定団体が全国各地の会場で開催するJFA Magical Field Inspired by Disneyなでしこ広場“Second Touch“も開催されます。第一回は7月15日(土)に渋谷ストリーム「トルクコート」で開催予定です。
現場の活動しやすいスキームが地域の皆さんを動かした
ディズニーのイベント・コンテンツと触れることが少ない地方都市で、絶大な反響を起こしています。石川県でも“F irst Touch“は開催され、澤穂希さん、宮間あやさん、海堀あゆみさんが参加しました。会場となった西部緑地公園陸上競技場はツェーゲン金沢のホームスタジアムです。石川県では242件の参加エントリーがありました。全国平均の166件と比べると、とても多くの方が参加しています。石川県サッカー協会は、これまでも、若年層への普及活動を行なってきました。現場の立場から見ると“F irst Touch“には、従来の手法と異なるどのような効果があったのでしょうか。石川県サッカー協会の理事で女子委員長を務める松嶋幸治さんに聞いてみました。
「まず指導メニューに関しては事前にJFA側と打合せをし、JFAが綿密に計算したトレーニングメニューを行うことで、現場での混乱などは無く、やりやすかったと思います。また、多くの子どもたちやそのご家族が参加されるイベントですので、女子サッカー普及を常に念頭に置いている者としては、やりがいしかございません。」
参加者の募集もスムーズだったと言います。
「石川県では、2つの柱で募集を行いました。1つは既存のサッカーファミリー(各種別)の方々にイベント情報の共有と、そのご家族、ご友人等に周知して頂き、参加を促しました。2つ目は、各メディア(テレビ、新聞、ラジオ等)に取材していただき特集をしていただきました結果、広く多くの県民の皆様に周知できスムーズに参加者の募集が出来たと思います。」
ただのサッカー教室ではない特別感、ディズニーのブランドとストーリー、現場が活動しやすいスキームが地域の皆さんを動かしました。
「広く女子サッカーを認知して頂き、実際に体験して楽しさを共有する機会と、それを支える多くの大人たち、そしてその活動を常に配信し続けるメディアの力があれば、女子サッカーの登録拡大になるかと考えます。」
石川県ではサッカー協会からメディアへの働きかけにより、開催を広く知らせることができました。そして、学校を通じで申し込みを受ける流れができました。京都府では、サッカー初体験の参加者の70%が「学校で配布したチラシ」によって、このイベントの開催を知りました。
現場任せではなく、日本サッカー協会が都道府県のサッカー協会が連携し、メディアや学校への働きかけをすることが成果を生み出しています。このサイクルを回して、日本サッカー協会は女子サッカーの普及を拡大しようとしています。
実際の選手登録につながっているかは検証が必要という現場の声も
ただし、20万人という大きな目標にむけて普及を一気に拡大していくためには、こうしたディズニーのような魅力あるギミックで解決できる課題は一部です。前述の松嶋さんは、女子への普及拡大のために必要なことは他にもあると言います。
「イベント終了後、定期的に開催している小学生対象のガールズイベントへの参加者が増えてきたと思います。ただし、これが実際の選手登録につながっているかは、検証が必要と思いますし、毎年継続していくことで、女子サッカーに対する興味や理解が生まれる事を期待しております。
まず必要なのは環境整備です。どこでも気軽に(女の子が気軽に)ボールが蹴れる環境が足りないですし、何より関わる大人(指導者や積極的に受け入れてくれるチーム)もまだまだ少ないです。メディアも男子サッカーと比べて取り上げてくれる頻度はほぼ皆無です。
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