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WEリーグに新提案「女子のトップチーム」と呼ぼう その理由を知ってほしい 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】 (無料記事)

ヨコハマ・フットボール映画祭2023が6月17日、18日にかなっくホールで開催されました。筆者は、17日に上映された『L F G ―モノ言うチャンピオンたちー』のトークステージで司会の大役。WEリーグでチェアを務める髙田春奈さん、日本のU30世代の政治参加を促進するN O Y O U T H N O J A P A N代表理事の能條桃子さんと共に登壇しました。

L F G ―モノ言うチャンピオンたちー』は、ミーガン・ラピノー選手を筆頭に、アメリカ女子代表が男女同一賃金(イコールペイ)実現に向けて闘った姿を描いたドキュメンタリー映画。素晴らしい撮影と編集もあって、映画作品としてのクオリティが高くY F F Fアワード2023グランプリに輝きました。

L F G ―モノ言うチャンピオンたちー』は2023年6月22日(木)にシネマジャック&ベティで上映されます(https://yfff.org/yfff2023/)。

この日のトークステージでは、O P T(株式会社Rebolt)N O Y O U T H N O J A P A Nが実施した女性スポーツに関するヒアリング調査の結果をスクリーンに投影し、女子サッカーから見えるジェンダー不平等の課題についてディスカッションしました。トークに熱が入り、トークステージの後半で能條さんが、ある一言を口にしました。そこからお二人の発言がさらにアツくなりました。

その発言とは「男子のサッカーは『サッカー』と呼ぶのに、どうして女子のサッカーは『女子サッカー』と呼ばなければならないのだろう」という能條さんの疑問です。髙田さんは、この発言に「なぜJリーグのチームは『トップチーム』と呼ばれ、同じクラブ内のWEリーグのチームは『女子チーム』と呼ばれるのだろう」と、さらなる疑問で応えました。公式会見やビジネスカンファレンスでは見せることが少ない髙田さんのストレートな発言に会場が大きくどよめきました。

実は、この話は、台本にも事前の打ち合わせにも盛り込まれていませんでした。舞台上でディスカッションをしている流れで予告なく飛び出した発言でした。

ヨコハマ・フットボール映画祭2023 『L F G ―モノ言うチャンピオンたちー』の上映後には大きな拍手が起きた © ヨコハマ・フットボール映画祭

女子のサッカーを「女子サッカー」と呼ばなければならないことに不平等を感じるという声は以前からありました。ただし、Jリーグのチームが「トップチーム」と呼ばれるのには明確な理由があります。ですから、筆者は、これまで、この問題に積極的に関わらないようにしてきました。Jリーグのチームを「トップチーム」と呼ぶことを廃止すると弊害があると考えたからです。しかし、今回のトークステージを通じて、その考えの一部を変更する決意をしました。

今回、皆さんに呼び掛けたいのは「女子のトップチーム」と積極的に呼ぼうという提案です。

なぜ女子サッカーは「女子サッカー」なのか?意外と答えは単純 

FIFA女子ワールドカップは英文では「FIFA Women’s World Cup」。女子サッカーは「WOMEN’S FOOTBALL」と表記されています。英語でも「女子サッカー」です。その理由に疑問を感じる人が多くいますが、理由の答えを探す大きなヒントがあります。思い出してください。

現在、シカゴ・レッドスターズ(N W S L)でプレーする永里優季選手は、世界中の女子サッカー選手、関係者から今も尊敬を集め第一線で活躍しています。その理由の一つが神奈川県リーグでのプレーにあります。2020年、当時の新聞は「元なでしこ・永里優季が男子チームデビュー」と報じました。国内だけではなく、海外でもこのニュースは大きく報じられ、例えば、衛星放送のユーロ・スポーツは「日本という伝統に根ざした国が、変化の扉を叩いた」と取り上げました。永里選手には、世界中から祝福と応援のメッセージが集まりました。なぜ、永里選手は神奈川県リーグでプレーできたのでしょうか。それは、F I F Aの定めたルールでは、性別によるプレー機会の差別がないことがもちろん、参加資格の性別による区分も最低限しか存在しないからです。

イングランドでは1921年にF Aにより女子サッカーが禁止されました。当時、1試合に5万3000人ものファンを集める人気チームだったディック・カー・レディースは新天地を探すため、1922年にアメリカへ遠征しました。しかし、対戦相手が見つからず男子チームとの試合を実施。ニュージャージー州での試合は5千人、ニューヨークでは7千人のファンを集めたと記録されています。約100年前も、サッカーは、男女が一緒にプレーできるルールのスポーツだったのです。

日本サッカー協会の公式サイトより

L F G ―モノ言うチャンピオンたちー ©Change Content

これは、日本サッカー協会が定めた区分です。よく見ると、永里優季選手が神奈川県リーグでプレーするために行った第1種登録には性別の制限がありません。つまり、そのリーグは、本当は男子だけがプレーできる「男子のリーグ」ではないのです。Jリーグも同様に第1種登録選手が出場できるリーグです。そのため、「男子チーム」ではなく、性別には制限がない「トップチーム」と表現されているのです。

ミーガン・ラピノー選手(OLレイン)、サム・カー選手(チェルシー)、アシサット・オショアラ選手(バルセロナ)と共に『レゴ®フィールドのヒーローたち』のフィギアになった世界のスーパースター・永里優季選手(シカゴ・レッドスターズ) 提供:レゴジャパン

なぜ「女子サッカー」と呼ばれるのか?答えは単純です。性別による区分がないサッカーだけしかないと、体力に違いのある女性がサッカーを楽しみにくくなるので、女性だけがプレーする「女子サッカー」という新たな区分が必要だったからです。

第1種登録に性別の制限がない以上、Jリーグのチームを正式に「男子チーム」、男子のプレーするサッカーを「男子サッカー」と呼ぶには無理があります。また、「男子サッカー」として区分することで、誰でも一緒にプレーできるサッカーの良さが失われてしまう弊害が生じる恐れがあります。永里優季選手やディック・カー・レディースのようなジェンダーの壁を打ち破る挑戦が生まれにくくなるかもしれません。

「選手たちをもっと輝く場所に連れて行きたい」というチェア就任時の発言の意味

しかし、それでも冒頭で示した通り、筆者は「女子サッカー」という表現に対する考えの一部を変更する決意をしました。ここからが本題です。それはなぜなのかを説明します。

髙田さんはチェアに就任以来「選手たちをもっと輝く場所に連れて行きたい」「力を合わせてWEリーグを高いところに引き上げたい」と繰り返し発言しています。選手は、日本の女子サッカーの顔として、堂々とファン・サポーターの前に現れる存在になってほしいと願っています。ただ、これらの表現だけでは、明確なイメージを抱けない人も多かったと思います。しかし、今回のテーマと髙田さんの発言を重ね合わせてみると、ハッキリと未来が見えてきます。

N O Y O U T H N O J A P A N 代表理事 能條桃子さん © ヨコハマ・フットボール映画祭

日本の女子サッカーは世界制覇をした経験があり、コンスタントに世界のトップ11を維持しています。それでも「背伸びしすぎるな」「勝ってから言え」「人気が出てから考えろ」という批判や嘲笑が女子サッカーに浴びせられることは珍しくありません。女子サッカーに関わる個人が成果を出しても「でも女子でしょ」と言われることすらあります。そうした言葉と接するたびに女子サッカーに関わる人は自己肯定感が削がれてきました。

本来であれば、この世を生きる二人に一人は女性なので、対等に適切な権利を得たり評価を受けたりすることは当たり前であるはずです。能條さんはトークステージで「平等な評価や環境を求めることと試合の勝ち負けとは無関係」と強調しました。ステージ上で髙田さんがそれに同意したのには理由があります。それは、これまで、WEリーグの中で討議してきた問題と、能條さんの意見がリンクしたからです。

日本とは全く異なる、スペインの「2つのトップチーム」という考え

2023年2月20日に開催されたWE ACTION M E E T I N Gで討議されたテーマの一つが「日本の女子の自己肯定感が低すぎる問題」でした。このテーマはWEリーグの選手たちと共に抽出されたものです。日頃から、WEリーグでは「どうすれば自己肯定感を高められるか」が意識されていたのです。

人が自己肯定感を高めていくためには、自分自信を変えていく必要もありますが、それを後押しするために、環境や制度を整えていくことが重要です。その一つに、今回取り上げたような女子サッカーと女子チームのポジション(位置付け)変更があるのです。それが髙田さんの表現する「もっと輝く場所に連れて行く」「高いところに引き上げる」ための具体策につながるのです。

2023年4月20日にWEリーグが主催する勉強会「スペインの女子サッカー戦略」が開催されました。講師は、スペイン女子プロサッカーリーグ・リーガFの戦略本部部長を務めるペドロ・マラビア・サンチスさんです。なぜ、リーガFがプロ化の好スタートを切ることができたのか、何が重要なポイントだったのか、その疑問に答えました。

「女子リーグのプロ化でクラブに『2つのトップチーム』ができるということを意識することが重要です。同じような価値を持つトップチームがもう一つできることにより、クラブに新たな利益が生まれるのです。」

FCバルセロナは女子サッカーでも世界をリードしている

いうまでもなく、リーガ・エスパニョーラは世界有数の巨大なリーグで莫大な利益を生み出します。世界的な人気を誇っています。スペイン1部リーグ ビジャレアルC Fフットボール・マネージメント部に勤務される佐伯夕利子さんは「スペイン国内において、女子サッカーの地位向上への士気が高まるにつれ、快く思わない人も少なからずいた。『ビッグクラブのご加護のもとだろう』とか、『男子チームのお布施で成り立っている』とか、『フェミナチ』(フェミニストとナチズムを掛け合わせた蔑称)などと呼ばれることもあった。」と言います。それでも、スペインサッカー界は、クラブの中でリーガ・エスパニョーラのチームとリーガFのチームは「2つのトップチーム」であるとし、リーガFのスタート時に女子プロサッカー選手のポジションを意図的に高めたのです。

「クラブの中での女子サッカーの位置付けは以前と変わらない」という声もある

日本はどうでしょう。「2つのトップチーム」というメッセージを打ち出しているJリーグ・クラブはあるでしょうか。むしろ、Jリーグを戦う「トップチーム」に対して、WEリーグを戦うチームは普及活動の一環と解釈されアカデミーと一群に見られてしまうケースもあります。例えば、公式サイトのコンテンツメニューが「チーム、チケット、イベント・グルメ、(中略)、育成、スクール、女子チーム」の順に表示されているJリーグ・クラブもあります。グローバルナビ(主にサイト上部に表示される、全ページに共通して設置されたリンク)に女子チームへのリンクが設定されていないJリーグ・クラブもあります。「なでしこリーグからWEリーグに戦うリーグが変わったのに、クラブの中での女子サッカーの位置付けは以前と変わらない」と憤りを口にする女子サッカー関係者もいます。

こうしたことの積み重ねから、選手自身の自己肯定感が高まらず「私たちはこれくらいのポジション」という妥協が生まれていることを見逃してはなりません。制度や名称が、知らず知らずのうちに選手の可能性にブレーキをかけているかもしれない。この現状を知り、筆者は危機を覚えました。

女子サッカーの秘めたポテンシャルについて力説した髙田春奈さん © ヨコハマ・フットボール映画祭

「女子のトップチーム」と呼ぶことからでも女子サッカーのポジションは変わる

そこで、ヨコハマ・フットボール映画祭2023を機に、筆者は考えの一部を変更する決意をしました。皆さんに呼び掛けたいのは「女子のトップチーム」と積極的に呼ぼうという提案です。多くのJリーグ・クラブの女子チームには、女子のアカデミーや女子を対象にしたスクールがあります。ですから、Jリーグを戦う「トップチーム」と同じようにWEリーグを戦うチームは「女子のトップチーム」と呼ぶにふさわしいはずです。そして、この方法ならば、従来からの「トップチーム」を「男子チーム」と言い換える必要はありません。

「選手たちをもっと輝く場所に連れて行きたい」「力を合わせてWEリーグを高いところに引き上げたい」……髙田さんの表現に共感した人から、まず「女子のトップチーム」と呼ぼうではありませんか。WEリーグは日本の女子サッカーのトップを競い合うプロリーグなのですから。

L F G ―モノ言うチャンピオンたちー』は2023年6月22日(木)にシネマジャック&ベティで上映されます。

(2023年6月18日 石井和裕)

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