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元アーセナル、ミュージシャン 石田美穂子監督とニッパツ横浜FCシーガルズの挑戦 入場者数が増加する理由

2023プレナスなでしこリーグ・第2節のホーム開幕戦で418人だったニッパツ横浜FCシーガルズのホームゲーム入場者数は第4節で517人、第6節で687人に増加。ホームゲームを開催するごとに右肩上がりを描いています。2023年1月にゼネラルマネージャーに就任した斉藤織恵さんにお話を聞くと、招待券の大量配布は行っておらず「自然増」だとのこと。特に、今シーズンはトップチームの試合(Jリーグ)の来場経験者をうまく女子チームに引き込む工夫をしているそうです。さらには、選手の勤務先から広がる応援の輪も拡大しています。Jクラブならではのファン獲得チャネルの強みとアマチュアチームならではの支援の広がりが融合して入場者数の増加に結びついています。そして、何より、ピッチ上の選手たちのプレーが魅力です。「今シーズンはニッパツ横浜FCシーガルズの試合が面白い」という噂が人を呼び、バラエティに富んだ客層を広げています。ニッパツ横浜FCシーガルズのホームゲームには、JリーグともWEリーグとも少し異なるフレンドリーな魅力があります。アマチュアリーグながらメインスタンドには日本サッカー界のレジェンド・木村和司さんの姿もありました。試合後の出待ちには100人近くが集まることもあります。入場者との比率で考えると、かなり多数のファン・サポーターが選手との接点を楽しみにしていることがわかります。その多くは女性と小さなお子さんです。

試合後に交流する選手とファン・サポーター

プレーと歓声がシンクロする声出し応援の今シーズン

ニッパツ横浜FCシーガルズには、コロナ禍以降に加わった若い選手がたくさんいます。今シーズンは声出し応援でスタンドの雰囲気が賑やかになりました。ピッチ上で、選手はどのように感じているのでしょうか。

エースナンバーの背番号9を背負う片山由菜選手は3年目。ニッパツ横浜FCシーガルズ入りしてから声出し応援のスタジアムでプレーするのは初めてです。現在、得点王争いのトップを走っています。

「初めての声出し応援に力をもらえます。すごくありがたいと思いました。自分の力が今まで以上に出せる感じあります。」

マークを寄せ付けない片山由菜選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410 トップ写真も

「天真爛漫な生え抜きのストライカー」といわれる室井胡心選手は横須賀シーガルズからトップチーム昇格を果たし2年目です。

「今年から声出し応援になって、ピッチの中にもすごく声が聞こえてくるので頑張ろう、自分たちはプレーで恩返しするしかないと思います。勝って、皆で笑える瞬間を、今までよりもっと増やしていけたらと思います。いつも以上にパワーが出てしまいます。」

迫力ある突破でスタンドを沸かせる室井胡心選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

1年目の松本莉緒選手は第4節から第6節まで3試合連続で得点しています。今は、試合に出ることが楽しいと言います。

「多くのファン・サポーターに足を運んでいただいてワクワクしています。試合中に疲れてきたときときにサポーターの声援があると『走らなきゃ』と思えます。本当に嬉しいです。」

第6節でも冷静に得点した松本莉緒選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

初優勝に向け無敗のスタートダッシュを成功させた石田美穂子監督

 昨シーズンの王者・スフィーダ世田谷FCを3−0で下しニッパツ横浜FCシーガルズは無敗の首位に立ちました。2位の朝日インテック・ラブリッジ名古屋に勝ち点3差をつけています。これまでの、なでしこリーグ1部での最終順位は6位と8位ですから大躍進です。その理由がどこにあるのか、解明するためには今シーズンから監督に就任した石田美穂子さんに聞かなければなりません。

石田美穂子監督 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

石田さんはスフィーダ世田谷FC、ニッパツ横浜FCシーガルズでコーチを務めてきました。生まれ育った横浜で初の監督采配となります。現役時代の石田さんは闘志を全面に出せる技巧派として知られた選手でした。大学を卒業後、イングランドの名門・アーセナル・レディースF C(現・アーセナル・ウィメンF C)に加入。帰国後は2006年シーズンからジェフユナイテッド市原・千葉レディースでプレー。なでしこリーグ2部から1部への昇格の原動力となりました。石田さんは選手としてプレーする傍らミュージシャンとしても活躍していました。代表曲の『一番星』は日本テレビ系『N E W S リアルタイム リアルS P O R T S』のテーマソングに使用されました。筆者は港区で開催されたライヴステージを何度か見に行きましたが、客席には常にジェフユナイテッド市原・千葉レディースのチームメイトが駆けつけ客席は大合唱となっていました。仲間の心を動かす人です。フットボーラーとしてイングランドのトップリーグでプレーし、ミュージシャンとして国立競技場で君が代独唱をした経験を持つ選手は男女を通じて一人だけです。

スフィーダ世田谷FCの神川明彦監督、川嶋珠生コーチと、試合前に健闘を誓う石田美穂子監督 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

なぜ、ニッパツ横浜FCシーガルズの試合はファン・サポーターを惹きつけるのでしょうか。一気に相手ゴール前に迫るための攻撃的な守備が目立ちます。躊躇なくボール保持者にアタックし前からボールを奪う守備が躍進を支えています。第6節・スフィーダ世田谷FC戦は球際での競り合いを多く制し、試合の主導権を握りました。

「サッカーは得点をとるスポーツなので、攻撃的にどんどんチャレンジして誰かが後をカバーすればいいし、背後にボールが出てもゴールキーパーがいるじゃないかと伝えています。」

と石田さんは言います。しかも運動量が落ちません。室井選手はアディショナルタイムまでゴール前に全力で走ります……3点差でリードしていたとしても。

「あまり苦しいと思う時間帯がなく、90分間に今週やってきたものの全てを賭けて戦うだけという感じです。本当に楽しみながらプレーしています。」

室井選手は笑顔で話します。歯を食いしばってボールを追うというよりも、選手が生き生きとした表情でハードワークしているように見えるのです。それがスタンドを魅了します。

競り合いに強さを見せる渋谷巴菜選手 Photo by Ke Twitter→@ke780kx5 instagram→@ke_photo410

中盤の底が強いのでワイドに選手を配置できる

攻撃の特徴として、両サイドに張ったピッチを大きく使う攻撃と、強力なダブルボランチによる縦に速い配給が挙げられます。サイドと中央、2つのエリアに注目してみましょう。

2023年4月23日に行われた第6節・スフィーダ世田谷FC戦では左のアウトサイドのミッドフィルダーに室井選手、右のアウトサイドのミッドフィルダーに竹ノ谷好美選手が起用されました。17分の先制点は左サイドからゴール前に走り込んだ室井選手が右からのクロスに合わせゴールネットを揺らしました。

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