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WEリーグ再開 飽くなき探究心で上を目指す中島依美選手(マイナビ仙台レディース) 優勝に必要なこと

今シーズンもマイナビ仙台レディースはスタートダッシュに成功しました。チームの中心は、今シーズンから加入した中島依美選手です。2021−22 YogiboWEリーグはINAC神戸レオネッサの中心選手として全20試合に出場。初代女王に輝きました。なでしこジャパン(日本女子代表)では90試合に出場。東京2020大会を戦いました。

マイナビ仙台レディースは設立2シーズン目の若いチームです。勝ち方を知る経験豊富な選手がピッチの中央にいる効果は計り知れません。中島選手は「私を必要してくれるチームに行こう」と、マイナビ仙台レディースへの移籍を決断しました。8試合を終えて勝ち点14の3位につけています。加入時に「チームを勝たせられる選手になりたい」と話していた中島選手の思いは、今も変わらないのでしょうか。そして、首位に肉薄するために何が必要なのでしょうか。マイナビ仙台レディースの前半戦を振り返り、再開に挑む意気込みをお聞きしました。

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中島依美選手(マイ仙台)

宮崎キャンプ、仙台での調整を終え、WEリーグ再開に挑む

マイナビ仙台レディースのトレーニングキャンプは、冬でも気候が穏やかな宮崎県延岡市で行われました。北国の雪から解放され、毎日を天然芝の上で過ごしました。新型コロナウィルス感染症の対策が進み、以前よりも規制が緩和されました。ピッチ内外でのコミュニケーションはよく取れています。

「ウィンターブレイク中に若い選手が加わり競争が高まりました。アンダー年代の代表に入っている選手は上手いですし選手の数が増えれば試合でベンチに入れない選手が出てきます。良い意味で争わなければいけませんね。」

中島選手の表情からは充実した日々を送っていることが感じられました。

中島依美選手(マイ仙台)

3位ながらも打たれ弱さが見えた前半戦

 位のINAC神戸レオネッサと勝ち点差5。マイナビ仙台レディースは優勝争いに食らいつきウィンターブレイクに突入しました。再開後は、順位で上回るINAC神戸レオネッサと三菱重工浦和レッズレディースの2強にチャレンジします。ここまでの戦いを、中島選手はどのように自己評価してくれるのでしょうか。聞いてみました。

「開幕戦と次の試合に連勝したのですが、内容としては全然良くないというのが私の感想でした。なんとなく勝利できた試合でした、もちろん結果はとても大事ですが、内容が薄く感じられたので『この先大丈夫かな』という懸念がありました。それが、前半戦の結果につながっていたと思います。」

第1節と第2節を振り返ってみましょう。開幕の第1節はちふれASエルフェン埼玉をホームスタジアムのユアテックスタジアム仙台に迎え3−1で勝利しましたました。中島選手は「まず開幕戦を勝利で終えたことを嬉しく思っています。(新しいユニフォームは)新鮮な気持ち。この地で公式戦300試合出場を迎えられたということも嬉しかったですし、大勢の方が来てくれた中で勝利できました。」と勝利を喜びました。1得点1アシストの活躍。しかし、そのとき、確かに「この先大丈夫かな」という懸念も発していました。試合後に、このような話もしていたのです。

「勝てたことは良かったですが、課題がたくさん残る試合でした。まだ突き詰めていかなければいけないところが多いです。やはりボールを持っている時にアクションがなかったり、止まったりしている時間が長く、攻撃が詰まってしまった。もっとマイボールの時に、ボールを動かして、ゴールを狙えたらいいと思います。守備はもっとコンパクトに、狙いを持ってボールを取れたら良かったと思います。」

続く第2節のAC長野パルセイロ・レディース戦はアウェイの環境。大きくディフェンスラインを動かすAC長野パルセイロ・レディースの守備のプレッシャーに圧倒されました。シュート数はAC長野パルセイロ・レディースの15本に対してマイナビ仙台レディースは5本。後半は1本しかありませんでした。それでも2−1で勝利。開幕2連勝を飾ったのでした。

激しくボールを奪いにいく中島依美選手(マイ仙台)

3位という順位とは裏腹に得点が少なく90分間を凌ぐ試合が続いています。4つの勝利のうち3つは1点差。引き分け2つはスコアレスドローです。逆に、序盤の連続失点から一気に崩れてしまう脆さを感じさせる試合も目立ちました。

第4節の大宮アルディージャVENTUS戦は9分に隅田凜選手が負傷交代すると13、17、44分に連続失点。第7節の三菱重工浦和レッズレディース戦は5分に失点するとゲームの主導権を奪われ40分にも失点。中島選手は、試合後に「細かい部分ですが、攻守に突き詰めなければいけないところがたくさんある。」と話しました。

2022年12月18日に行われた皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会4回戦の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦は1分、11分、17分、38分に連続失点し1−4で初戦敗退してしまいました。松田岳夫監督は、試合後にチームの課題をこのように話しました。

「打たれ弱いというか、苦しい状況になると自分を見失ってしまうところがチームとしての課題です。個人の意識も非常に大事だと思います。プロサッカー選手として活動する中で、もっと強い覚悟を持ってやっていかないと変わらないなと感じましたし、選手たちにも感じてほしいところです。」

ウィンターブレイク前、最後の試合となったのは、皇后杯 JFA全日本女子サッカー選手権大会と同じ日テレ・東京ヴェルディベレーザとの対戦(2023年1月9日・第8節)。P Kを含むシュート25本を浴び受け続けながら、これをしぶとくスコアレスドローに持ち込むことができました。松田監督は「前を向ける引き分けでしたし、後半戦につながるゲームだったと思います。」と話しました。

上を目指しチームは少しずつ変わりつつある 

あれから約2ヶ月が過ぎました。厳しいトレーニングキャンプを経てチームは課題を克服できたのでしょうか。中島選手は「自分は、毎日、このチームで過ごしているからチームの変化を感じにくい」と言います。でも、同時に、こんなことも話してくれました。

「コーチから『(中島選手が)来た時よりは変わっているよ』と言ってくれているので、少しずつ選手の意識が変わってきているのだと思います。」

中島依美選手(マイ仙台)

レジェンド・澤穂希さんを思い起こしてしまう中島選手の大きな存在感

ときは夏、2022年7月25日、トレーニングに初参加した中島選手は戸惑いながら身体を動かしました。マイナビ仙台レディースの雰囲気が予想と違ったのです。

「若いチームなので、同世代同士で指示や要求をし合う賑やかなチームを予想していました。でも、トレーニングが始まると、かなり淡々とした雰囲気なので意外でした。」

選手がお互いに主張し合うチャンピオンチームから移籍してきた中島選手は、そのギャップを口で言うよりも、まず行動に移すことから始めようと考えました。

「周囲がどのように捉えてくれるかは分かりませんがピッチでプレーを見せるしかないと思いました。サッカーをするのは自分たちです。優勝するためには、もっとやらなければいけないと思いました。まずは、代表経験のある選手が率先してやっていかないと変わらないと思ったのです。」

INAC神戸レオネッサで中島選手と共にプレーしINAC神戸レオネッサの黄金時代を築いたレジェンド・澤穂希さんは2008年の北京オリンピック3位決定戦でチームメイトに語りました。

「苦しい時は、私の背中を見て。」

残念ながら、この試合に勝つことはできず初のメダル獲得はなりませんでしたが、3年後の2011年になでしこジャパン(日本女子代表)は世界一に輝きました。澤さんは、常に行動力で先を行きチームメイトに進むべき道を提示する存在でした。

2015年12月27日、皇后杯 第37回JFA全日本女子サッカー選手権大会の決勝戦で澤さんが決勝点。劇的な優勝を果たし祝福に包まれながら澤さんは現役生活を引退しました。そのときのINAC神戸レオネッサの監督が、今、マイナビ仙台レディースを指揮する松田監督であり、澤さんが試合終了後にピッチを去るまで、ずっと隣にいたのが中島選手でした。筆者は、あのとき、中島選手が次の澤さんの役割を担うのだろうと予感しました。今、マイナビ仙台レディースでプレーする中島選手は、当時の澤さんと近いポジションにいます。背中でプレーを語ります。そして、コメントに使用する単語のセレクトから澤さんとよく似たリーダーシップをどうしても感じてしまいます。

「練習中に、言うべきことを言わなければチームは変われません。そして、自分自身のためにも言っています。言ったからには自分もやらなければいけませんから。」

結果を出すために、あえて心を鬼にして発言しているのかもしれない……筆者はそう思いました。でも、そんな気持ちは、おそらくチームメイトに伝わっていました。

宮澤ひなた選手

マイナビ仙台レディースのロッカーは背番号順に並んでいます。10番の中島選手の隣のロッカーを使うのは9番の宮澤ひなた選手です。宮澤選手に、中島選手についてお聞きすると、こんな話をしてくださいました。

「18歳でなでしこジャパン(日本女子代表)の合宿に行ったときに初めてお会いしました。当時は、緊張して、あまり話をした記憶がありません。(仙台で)同じチームになっても、最初は緊張していたのですが、本当に優しい人です。プレーでは(中島)依美さんが顔を上げたタイミングで走ればボールが出てきます。パスが合わないときは、すぐにコミュニケーションをとって会話をしてくださるので修正できます。気になったことは話してくれるのでやりやすいです。もっとコンビネーションを研いで依美さんからのボールでゴールを決めたいです。」

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