FIFA女子ワールドカップ・イヤーのアディダス 女子サッカー選手の未来を楽しく明るく 長野風花選手がカタールをアル・リフラ(旅)した意味
「スポーツを通して、私たちには人々の人生を変える力があります。」……ある公式サイトのページは、この一文から始まります。これでまで筆者は、サッカーが人生を変えた人とたくさん出会ってきました。サッカーが国や地域に変革を起こした例もたくさん見てきました。2002年にFIFAワールドカップが日韓で共催され、スポーツアパレルはプレーする選手のためだけではなく、自分を彩るファッションの重要なアイテムに変化しました。タウンウェアやストリートカジュアルとして一気に街に広がっていきました。また、あの日韓の熱狂がなければ、日本でK―P O Pが大人気となる未来はなかったかもしれません。毎日、世界中で行われるスポーツにより勇気を得て、新たな挑戦に踏み出せた人がいます。スポーツに救われたという人もいます。
今回は「スポーツを通して、私たちには人々の人生を変える力がある」と信じているブランド……そう、あのアディダスが、FIFA女子ワールドカップ・イヤーにどのように取り組んでいるのかをお伝えします。
昨年は、FIFAワールドカップ カタール2022が近づくと街でアディダスの屋外広告や店頭ディスプレイを目にすることが増えました。男子の選手のみならず、岩渕真奈選手や長谷川唯選手のビジュアルも大きく掲出されていました。ブランドフィルム「ジャパン フットボール ファミリー リユニオン」には岩渕真奈選手(トッテナム・ホットスパーFCウィメン)、長谷川唯選手(マンチェスター・シティWFC)、長野風花選手(現・リヴァプールFCウィメン)が登場しました。これは、以前のスポーツブランドの広告・プロモーション展開では考えられなかった現象だと筆者は感じました。
なぜ、このようなコミュニケーションが開発されたのか、そもそも、筆者が感じたことは事実だったのか……そして、FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023カップに向けて、アディダスはどのようなアクションを起こそうとしているのか……アディダス ジャパン株式会社 マーケティング事業本部 マネージャーの高橋慶多さんにお聞きしました。
フットボールを感じる生活を
高橋–サッカーをプレーする人にとってピッチは主戦場です。でも、サッカー観戦をする人のライフスタイルを考えるとスタジアムの中だけではなく、ストリートでも着用できるデザインやカラーリング展開が重要になります。アディダスは、いくつかのコレクションの中でも、オンピッチ用、オフピッチ用に分けた展開をして、多くの消費者がさまざまなシーンで日頃からフットボールを感じる生活をしていただけるようにしています。
—こうしたアパレルのカラーリングは、どのように定まっていくのでしょうか。
高橋–日本を含め各国のマーケティング調査からトレンドを捉え、グローバルでシーズンのキーカラーを設定しています。そのキーカラーに応じて、さまざまなデザインが起こされていきます。サッカー日本代表関連のグッズについてはJFAのオフィシャルサプライヤーとして日本でコンセプトを起こしてグローバルと連携して開発をしています。
SAMURAI BLUE(日本代表)となでしこジャパン(日本女子代表)が共鳴する瞬間
—FIFAワールドカップ カタール2022に関連したプロモーションや広告に女子選手の登場が目立ったような気がします。どのようなお考えがあったのでしょうか?
高橋–アディダスはダイバーシティとインクルージョンの旅を続ける企業として、あらゆる人に公平な場を確保する努力を続けてきました。今は多様性を尊重する時代ですね。でも、実は、今のユニフォームの一つ前の「日本晴れ(ニッポンバレ)」をコンセプトにした日本代表ユニフォームを発表した際(2019年)にも女子選手をプロモーションに起用しています。日本中から注目を受けるトピックでは男性、女性を起用することで、多様性を保持することに加え、女子サッカー選手の価値向上に貢献させていただきたいと考えています。
女子サッカー界を担っていくアスリートの一人としてノースカロライナ・カレッジ(取材時)で活躍する長野風花選手をカタールへのアル・リフラ(アラビア語で「旅」)にお連れしました。大会にインスプレーションを受けて、ご自身のキャリアにつなげてほしいという思いがありました。そして、アディダスとしては、カタール大会のモーメントをFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023カップに、上手くブリッジをかけたいという考えを持っていました。ですから、プロモーションで女子サッカー選手の露出を増やすだけではなく、カタール大会への注目をきっかけに、まずFIFA女子ワールドカップが2023年にオーストラリアとニュージーランドで開催されるということを知ってもらうことが大切ですし、どのような選手が出場する予定なのか、関心を持っていただければと思っていました。そのためにも、長野選手にはご協力をいただきました。
高橋–長野選手は女子サッカーのカテゴリーではトップに位置するなでしこジャパンにも選出されている選手です。その選手が男子の試合を見たときに、どのような反応をされるのか、事前には想像できませんでした。実際には、まず一人のファンとして楽しんでいただけたようでした。ドイツ代表戦で浅野拓磨選手が得点した瞬間と試合終了の瞬間に、長野選手が周囲の目を全く気にせず感情を爆発させているのを見ました。SAMURAI BLUE(日本代表)となでしこジャパン(日本女子代表)が共鳴する瞬間を感じることができました。今後、アディダスとして、SAMURAI BLUE(日本代表)となでしこジャパン(日本女子代表)をもっとクロスできれば、女子のサッカーカテゴリーへの注目をあげていくことができるのではないかと感じました。
アディダスは選手の皆さんにご協力いただきながら、たくさんの人にFIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023カップに注目していただけるようにしていきたいです。長野選手は「まずは、メンバーに選ばれること。そのために、ピッチで結果を残すことが大切」とおっしゃっていました。
反響が大きく、今シーズンも継続した「H E R T E A M」プロジェクト
高橋–アディダスはadidas Football Collectiveというコミュニティを支援する活動をグローバル全体で行っています。日本では女子中学生のプレーの環境(自宅近くに適切なチームが見つからない等の理由で「女子中学生プレーヤーの5人に1人が13歳になるとサッカーを辞めてしまう」)を課題として捉えていますのでアディダスジャパンは「H E R T E A M」プロジェクトを行っています。
2020年度から実施している「H E R T E A M」プロジェクトは2022年度で3回目の開催となりました。2022年度は26都道府県から58チームという初年度とほぼ同じの応募がありました。志を高くお持ちの方が全国にたくさんいらっしゃいます。
※中学生年代(U-15年代)の女子がプレー可能な新規創設チームが応募対象
高橋–F I F Aワ-ルドカップ カタール2022の公式試合球「アル・リフラ(AL RIHLA)」が世界をつなぎ旅する取り組みがありました。公式試合球「アル・リフラ(AL RIHLA)」が東京に来たときに「H E R T E A M」プロジェクトに参加されたチームが香川真司選手(シント=トロイデン)と一緒にボールを蹴って次のエリアにボールを届けました。選手とお会いして直接お話をお聞きすると「小学生のときは男の子に混じってサッカーをプレーしていて中学生になると続けたくても続ける環境がなく『どうしよう』と思っていたところに立ち上がったチームがあったのでプレーを続けることができた。」という声があり、まさにアディダスが捉えていた課題がまだまだ存在することを感じました。
女子サッカーの楽しい未来、明るい未来を若い年代のプレーヤーに伝えたい
—アディダスでは2022年2月に、全国10~30代のサッカープレーヤー、女性500名を対象に「女子サッカーに関する意識調査」を実施されました。調査結果から、女性だからこその悩み・困りごと、将来への不安等が見えてきました。この結果をどのようにお考えでしょうか?
高橋–小学生、中学生年代の女子が「女子サッカー選手を続けた未来を想像するのが難しい」ということが調査結果で明らかになりました。楽しい未来、明るい未来を若い年代のプレーヤーに伝えられる機会を増やしていきたいです。
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