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平尾知佳選手(新潟L) ワールドカップ・イヤーの今、目の前の辛いことを乗り越えれば自分を変えられる

FIFAワールドカップ カタール2022ほどゴールキーパーに注目が集まる大会は、過去になかったかもしれません。日本代表のゴールを守った権田修一選手は、多くのメディアに登場し大会を振り返りました。多くのファン・サポーターは、今まで知らなかったゴールキーパーの世界を知ることができました。しかし、わからないことも多い……それがゴールキーパーというポジションです。

アルビレックス新潟レディースは、2022−23 YogiboWEリーグの前半戦で未勝利。なでしこジャパン(日本女子代表)でもゴールマウスを守る経験豊富な平尾知佳選手が主将を務めますが、苦しいリーグ戦が続きました。

今回は、そんな中で、平尾選手のインタビュー取材を通して、ゴールキーパーならではの心理とポジションの魅力についてご紹介します。平尾選手は「ゴールキーパーはチームを上に引き上げられる存在」だと言います。

ゴールキーパーから、もっと的確な指示を出せれば失点を減らせる

平尾今まで、リーグ戦で勝てていなくて苦しい状況です。キャプテンとして責任を感じています。皆、勝つための準備をして試合に臨んでいますが結果がついてきていません。

ウィンターブレイク直前のINAC神戸レオネッサ戦(第8節)は、首位のチームを相手に肉薄する試合をできたのではないでしょうか?

平尾今までの自分たちは0−1から追いつくことがなかなかできませんでした。無敗のINAC神戸レオネッサ戦では(55分に)追いつけたことをポジティブに捉えています(90+3分に失点し1−2で試合終了)。自分は(第6節の退場による出場停止で)試合に出ていないので外から見ていたのですが、チャンスを作れていたし、ボールの奪いどころもはっきりしているように見えました。堅守速攻のチームコンセプトを前面に出せた後半だったと思います。

ウィンターブレイクまで無失点の試合が一つもありませんでした。シーズン前半戦を通して課題がたくさん見つかりました。味方との連携のずれや自分のフィジカル不足、ポジショニングのズレが失点につながっていると思います。

それでも、平尾選手は、かなりたくさんのシュートを止めていると思います。

平尾味方が相手ボールにチャレンジした後のセカンドボールから失点することがいくつもありました。ゴールキーパーから、もっと的確な指示を出せれば失点を減らせたと思います。こんなに勝てなかったのは人生で初めてです。苦しかったですが、知人から「こんな景色を見られるのも良い経験だね」と言われたのが、少し救いになりました。やれることを考えながらやっていこうと思うことができました。

皆の前では明るく立ち振る舞うことを意識しながら過ごしています。試合を見てくださるファン・サポーターは勝利を求めています。プロなので、良い結果を届けなければなりません。でも、下を向いていたら何も起きないので、選手は頑張るだけです。

それぞれに個性があるゴールキーパーのプレー 

2022年のなでしこジャパン(日本女子代表)での活動はいかがでしたか?

平尾選ばれたり、選ばれなかったり、試合に出たり、出なかったり……。色々な経験をしました。代表選手として試合に出場するのは選手としての誇りです。もっと試合に出たいという思いが強くなった2022年でした。

ナイジェリア女子代表戦(2022年10月6日)はプレーに手応えを感じたのではないでしょうか?

平尾いつも通りに集中し、日頃の練習の成果を出せた試合でした。

池田太監督は若い世代のゴールキーパーも召集されるので、平尾選手にとってはライバルが増えた感じもしますね。

平尾これまでは、池田咲紀子さん(浦和)、山下杏也加さん(I神戸)が常に呼ばれていていました。東京2020大会が終わるまでは上しか見ていませんでした。最近は田中桃子さん(東京NB)と大場朱羽さん(イーストテネシー州立大)が呼ばれるようになりました。これまで全く一緒にプレーしたことがない人たちなので新鮮です。大場朱羽さんは自分と同じJ F Aアカデミー福島の出身ですが6歳下なので、中学も高校も被っていません。上を目指すのは気楽なのですが、下の世代と一緒になるとプレッシャーを感じるところもあります。2人の良いところも学び、あまり世代を考えないようにしています……一応(笑)。

選手により、得意なプレー不得意なプレーがあります。そして、所属クラブのカラーもあります。だから、それぞれで守備のやり方が違います。そこに学びがあります。自分に合うものは吸収します。自分には不可能なプレーをする人もいます(笑)。そこは諦めますね。自分にできることを考えます。

学ぶ気持ちで中継を見るときも応援する気持ちで見るときもある 

FIFAワールドカップ カタール2022で記憶に残るプレーはありましたか?

平尾権田選手のコスタリカ代表戦での失点です。止められるボールだったのか?どうすればよかったのか?話題になりました。あのコース、あの角度のシュートは「経験者なら思う難しいシュート!」と思いながら見ていました。飛ぶ前の一瞬で全てを判断しなければなりません。

権田選手以外に気になったゴールキーパーはいますか?

平尾ティボ・クルトゥワ選手(レアル・マドリード:ベルギー代表)よりもケイラー・ナバス選手(パリ・サンジェルマン:コスタリカ代表)のようなゴールキーパーが好きです。ナバス選手はポジショニングの丁寧さがあり安定しています。立っているだけで安心感があります。「ナバスなら守ってくれる」雰囲気が出ていますね。でも、自分は「クルトア系」とよく言われます(笑)。

ご自分のプレーと照らし合わせてテレビ観戦されるのでしょうか?

平尾ゴールキーパーに関しては学ぶ気持ちで見ます。好きな守備戦術のチームの試合は、学ぶ気持ちで集中して見ますが、それ以外の試合はファンとして見ますね。知り合いや好きな選手が出場していたら、応援する気持ちで見ています。楽しんで見ていますね。

「4年後もメンバーに選ばれて試合に出たい」と思った前回大会

ワールドカップということでは今年はFIFA女子ワールドカップイヤーです。まだ半年先ですが、今、思うことを教えてください。

平尾FIFA女子ワールドカップ フランス2019はベスト16で終わってしまいました。メンバーとして現地に行き、試合をピッチ外から見て「4年後もメンバーに選ばれて試合に出たい」と思っていました。大会まで半年を切ったからといって、その気持ちが何か変わることはありません。どのようなときでもトレーニングを続け、結果を出せばメンバーに入れると思っています。所属チームで活躍することは大切です。まず所属チームで結果を残したいです。

4年前は22歳でした。先輩についていくスタンスで、好きなプレーをしていました。あれから年齢を重ねて、少しずつ個人だけではなくチームのことを考えることが増えてきました。

何か、その転機があったのでしょうか?

平尾なでしこジャパン(日本女子代表)では、東京2020の準備期間の頃に意識して、上手くいっていないように見える選手に声をかけるようになりました。ゴールキーパーには出場できるポジションが一つしかないので、代表チームでは大会が近づくと自分の立ち位置がはっきりと見えてきます。そこで、自分に何をできるかを考えるようになっていきました。所属チームでは、今の監督になってからですかね。与えられた仕事はやるだけです。新しい自分になれたと思います。

これまで、自分が変わらなければならないときに、目の前の辛いことを乗り越えながらやってきました。そのときは、ただ、辛いだけです。でも振り返ってみると「あれが良かった」と思い返せることが多いです。「あれがなければ今の自分はなかった」と思いますね。常に今を一生懸命生きています。でも、後で、そのことに気がつきます。

FIFA U-17女子ワールドカップアゼルバイジャン2012の忘れられない思い出

ゴールキーパーを始めたきっかけを教えてください。

平尾私もゴールキーパーを「やらされた」人間です(笑)。身体が大きかったからです。もともと、自分は得点したい人間だったので「点を決められない」ポジションというのが嫌でした。

小学4年生のときからゴールキーパーをやらされました。でも、小学校5年生、6年生はフィールドプレーヤーをやりました。後で聞いたのですが「ゴールキーパーも足元の技術が必要だから」という監督の考えからだったそうです。監督は私をゴールキーパーとして育てようとしてフィールドプレーヤーをやらせていたのです。

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