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話題の新マスコット・石川百合子はなぜ誕生したのか?女子サッカーチーム・リリーウルフ.F石川から学ぶ地域クラブのクリエイティブ

Yahoo!ニュースに掲載されるには、極めて異例の話題です。女子サッカーの、しかも、地域(4部リーグに相当)で活動しているチームのマスコット・石川百合子の誕生が報じられたのです。これは女子サッカー界の、ちょっとした事件でした。

リリーウルフ.F石川は2021年に発足した新しい女子サッカーチームです。リリーウルフとは集団で力を発揮する狼(ウルフ)と石川県花のクロユリからユリの英語名リリーを合わせた造語。チーム創設者は河﨑護さん(星稜高校を日本一へ導いた指導者)です。

小松市粟津温泉を練習拠点とし北信越女子サッカーリーグ2部からスタート。2022年シーズンは北信越女子サッカーリーグ1部を戦い2位。皇后杯 JFA第44回全日本女子サッカー選手権大会にも初出場しました。この出場は石川県勢として38年ぶり2度目となる快挙です。今回は、北陸3県(富山県・石川県・福井県)を代表する女子サッカーチームを目指して活動しているリリーウルフ.F石川のコミュニケーションとクリエイティブについてご紹介します。

提供:リリーウルフ.F石川

お話をしてくださったゼネラルマネージャーの橋本侑樹さんは1992年生まれ。新世代のゼネラルマネージャーです。株式会社ワン・オールも経営しています。そしてサッカー経験はなし。他のチームでは前例がない取り組みに挑み注目を集めるリリーウルフ.F石川の中心人物です。

橋本株式会社ワン・オールは小学生から大学生まで、各年代のサッカーフェスティバルを開催している会社です。参加チームが増え小松市粟津温泉に天然芝のピッチ(粟津温泉ドリームパーク)を作りました。このピッチの空いている期間を有効に利用して地域に役立つ活動をしたいと考えてサッカークラブを設立することになりました。そのタイミングがWEリーグの設立時期と被り、女子チームの設立を決意しました。つまり、女子チームを作ろうと考えてスタートしたのではなく、目的に合ったチームが女子チームだったのです。私たちもサッカーを通じて社会に貢献できると思いました。そんなタイミングですね。

2022年着工の粟津温泉ドリームパーク第2グラウンドは観客席付きのミニスタジアム 提供:リリーウルフ.F石川

クラウドソーシング・サービスを活用して生まれたビジュアル

マスコットの石川百合子がYahoo!ニュースでも取り上げられ大変話題となりました。どのような経緯で誕生したのでしょうか?

橋本ビジュアルはクラウドソーシング・サービスで募集し、たくさんご応募いただきました。ありがとうございます。選ぶのに困るくらいでした。選手にアンケートを実施したところ、最も多くの支持を得たのが、このビジュアル・デザインでした。

デザイン制作のような自分たちの得意ではないところは無理して内制せず、外部の方にお願いしています。特定の人にお願いをしても良いのですが、より多くの選択肢を増やしたいです。また、依頼情報を掲載することで目に触れ、チームの存在を知っていただける効果も生まれるのでクラウドソーシング・サービスを利用しています。地域クラブだからこそできる有効な方法かもしれません。できるだけ多くの人の声を聞きながら進めていきたいという基本方針もあります。

提供:リリーウルフ.F石川

名称はツイッターで公募

橋本名称はツイッターで募集しました。ご応募いただいた案は一覧にして選手に見せて意見を聞きました。選手から支持を得た案に絞って、最後はスタッフ5人が会議で決めました。

ご応募いただいた案は一覧にするとカタカナが並びますが、石川百合子という漢字のところに目が向いてしまい、皆、笑っていましたね。一つだけ目立っていました。

提供:リリーウルフ.F石川

どのように決定したのでしょうか?

橋本スタッフ5人のうち3人が石川百合子を推しました。新しいチームなので新しいことをしようということで、全員が納得して決まりました。 

—S N Sやメディアの記事等の反響はいかがでしたか?

橋本選手もスタッフも喜んでいます。チームを発足して以来、地元の新聞に取り上げられることはあるのですが、全国的なニュースになるのは初めての経験です。チームは知ってもらうことが重要な段階なので、とても嬉しく思っています。

ファン・サポーターと交流できる時間を重視している

マスコットを必要とした理由は何でしょうか?

橋本地域の人との交流に重きを置いています。石川百合子は地元のイベントに参加した際の力になると考えています。チームは北信越女子サッカーリーグ1部で戦っていますが最大で760人の入場者数を記録し、多くのお客様にご来場いただいています。試合会場には小さなお子様も多く、ここにマスコットが関わることで、もっとチームを好きになっていただきたいと考えています。

まず、マスコットを二次元のビジュアルで発表されましたが、今後は試合会場やイベント会場にマスコットが出向いていくイメージですか?

橋本これだけ大きな反響をいただいているので、時期は明確ではありませんが、会場に登場できるようにしようと思っています。そして「ファンの一員」であり「チームのオフィシャル情報の発信役」としても活動していければと思います。せっかくのマスコットなので、ファンの皆さんと関わりやすい役割としたいです。例えば、試合中はスタンドで一緒に観戦するのも良いかもしれませんね。他のチームにはない面白さを出していきたいです。

試合会場でのマスコットはファン・サポーターとのコミュニケーションを生み出す機能を持っていますね。

橋本今でも、選手は試合後にスタンドの出口に並んで、ファン・サポーターと交流できる時間を設けています。こうした場所にもマスコットに活躍してもらいたいと思います。

なるほど、すでに行っていることから、これからのマスコットの活躍の場を想像しやすいですね。

橋本そうですね。もう、すでに選手が先行して取り組んでいることにプラス、インパクトあるマスコットが加わってくれることでコミュニケーションを膨らませていきたいです。

革新的な表現のエンブレムとポスタービジュアルが生まれるきっかけはアパレルの会社の社長のひと言

リリーウルフ.F石川は、今回のマスコットとは対照的に、先進的なエンブレムデザインを導入されています。黒と黄色の色使いが印象に残るポスターデザインに力がありました。地域で活動する女子サッカーチームとしては革新的で勇気ある表現だと思います。こうしたクリエイティブの方針は、どのように決まっていったのでしょうか。

提供:リリーウルフ.F石川

橋本チームの立ち上げ前に、僕は、なんとなくピンクや水色を使用して資料を作成していました。その資料で、いろいろな方にチーム立ち上げの構想を説明していたのですが「なぜ、ピンクや水色なの?」と質問を受けたことがありました。僕が「女性のチームだからです」と答えると「それは男性から女性を見たときの偏見だよ」と言われました。チームの由来や意図もなく、ただ「女子だから」を理由にピンクや水色を使用していることを注意されました。注意してくださったのはアパレルの会社の社長でした。そこから「このチームはかわいらしさにこだわる必要がない」と考えるようになりました。

エンブレムのデザインが時代に合っていると思いました。かなり思い切った選択をされたと思いますが、すんなりと決まったのでしょうか?

橋本ここにも先進性を求めました。「おしゃれだね」と言ってくださる方がいらっしゃいます。

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