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「岡田メソッド」と「今治モデル構想」 「子育て世代が住みたいまち」で地域の共生社会実現を目指しなでしこリーグ昇格に挑戦するFC今治レディースを支えるチカラ

「岡田メソッド」をご存知でしょうか。「岡田メソッド」とは、主体的にプレーできる自立した選手と自律したチームを育てることを目的としたサッカー指導の方法論の体系です。元日本代表監督で、現在はF C今治(J3)の会長の岡田武史さんが提唱したもので書籍も出版されています。

WE Love 女子サッカーマガジンでは、これまで、いくつかのJリーグクラブの女子チームを取材してきました。今回は「岡田メソッド」を武器に躍進するFC今治のレディースチームについてご紹介します。女子サッカーの現場に「岡田メソッド」はどのように生かされているのでしょうか。そして、地域の共生社会実現を実現するために女子サッカーはどのような役割を担っているのでしょうか。

しまなみ海道の上空から見る今治市

今治市は造船・海運都市

今治市は瀬戸内海に面する人口約15万人の地方都市。今治タオルで有名です。国内造船業における建造集積数は約2割。日本の海運企業が所有する外航船の約4割を今治の船主が占めるなど、造船・海運都市としても知られています。また、宝島社発行の「田舎暮らしの本」2022年版・第10回「住みたい田舎」ベストランキングで「子育て世代が住みたいまち」全国1位(5万人〜20万人の部門)に選ばれ子育て世代からの注目を集めています。

FC今治レディースのトップチームの選手の大半はパートナー企業により正規雇用されています。雇用する企業は「皆さん、女性が活躍できる企業にしたいとおっしゃっています」とのこと。つい先日も、一人の選手が、今治市内にある船舶用ウィンチ(揚錨機、係船機等)を造る会社に就職しました。選手を地元の企業に雇用していただくことで、FC今治にとっては、選手のことを知っていただけるようになり、地域に新しいつながりを広げられるメリットがあります。そして、少子高齢化と人口流出が進む今治市にとっては、若い力が市内に定着するメリットがあります。

FC今治レディースのトップチーム

FC今治レディースN E X T(中高生選手を中心に構成されたレディース下部組織チーム)はXF CUP 2022第4回日本クラブユース女子サッカー大会で準々決勝に進出しました。レディースのトップチームは2022プレナスなでしこリーグ2部入替戦予選大会に敗れ、惜しくもなでしこリーグ昇格を逃してしまいましたが、着実に成果を生み出し、地域と共に歩み続けています。

パートナー企業と「レディースウィーク」を開催

「監督として試合に勝つこと」から離れ「地域全体を巻き込んで、サッカーで何かできないか?」と考えていた岡田武史さんの周囲にはサッカーの枠を超えた多種多様な人が集まります。エグゼクティブパートナー(スポンサー企業)には、地元企業のみならず、東京に本拠を置く有名企業も名を連ねます。そして、今治市はF C今治が「にぎわいと交流の創出拠点」となり、さらに今治市を全国に発信する拠点となることに期待しています。

2022年8月、FC治は「レディースウィーク」を開催しました。FC今治の共生社会実現パートナーでもあるトップパートナーのユニ・チャーム株式会社の協力を得てFC今治の中高生年代の選手(男女)向けに「ソフィみんなの生理研修」を開催。FC今治レディースやアカデミーの選手など約50名が参加し、生理についての基礎知識、それに伴う不調や悩みについて学ぶ機会を設けました。参加者同士で生理中の友人への対応を話し合うことで、相互理解を深めるきっかけになりました。

FC今治に聞いてみると「パートナー企業様と情報交換する中で、各企業様と連携することで『女性のエンパワーメント、スポーツに親しむ女性の増加、FC今治レディースのファン拡大』といった取組みを進めることができると考えたから」と企画意図を説明してくれました。F C今治は、スポーツクラブがファン・サポーターやパートナー企業といった関係者と一体となることが、地域全体でこうしたテーマを考えるきっかけを生み出し、地域の活性化につながると考えています。

2022明治安田生命J3リーグ 第21節 カマタマーレ讃岐戦でレディースデーを開催。ユニ・チャーム株式会社とリプロダクションクリニックによるキックインセレモニーを実施。

今治市こども未来部ネウボラ政策課はFC今治のどこに魅力を感じたのか?

「レディースウィーク」には今治市も参加しています。行政は、この取り組みをどのように捉えていたのでしょうか。聞いてみました。答えてくださったのは今治市こども未来部ネウボラ政策課です。

ネウボラ政策課は2022年4月に立ち上がった新しい部署。妊娠期から18歳までの子どもがいるすべての家庭を切れ目なくサポートすることを目的としています。今治市はこどもが真ん中の総合的な子育て支援を目指してきました。ネウボラとはフィンランド語で「アドバイスの場所、相談の場所」という意味。フィンランドでは、かかりつけ保健師を中心に、妊娠期から就学前までの子どもがいるすべての家庭を切れ目なくサポートしており、そうした支援制度や支援拠点のことを指します。

今治市は、なぜFC今治の「レディースウィーク」に参加し共に取り組んだのでしょうか。ネウボラ政策課に聞いてみました。

「今治市は『女性が輝く、子どもが輝くやさしいまち“今治”』を目標に『切れ目のない』『誰も取り残さない』包括的な子育て支援に取り組んでいます。子どもを社会の真ん中にとらえて環境を整備することで、子どもも見守る大人たちも、いきいきと輝ける社会を目指しています。

その実現のためには、SDGsを原動力としたまちづくり施策の展開が必要です。今治市の地力をあげ、多方面からのアプローチを行う上で、企業との連携を強化し、官民協働を進めることはとても大切ですので、サッカーだけでなくSDGs実現に取り組むFC今治とコラボレーションするのは当然の流れでした。

折しも、今治市では、今年4月に子育て施策の司令塔となるネウボラ政策課を新設しました。不妊治療費の公費負担をはじめとする子育て世代に寄り添った、今治市独自の施策を大幅に充実させたこともあり、FC今治の情報発信力を活かして、幅広く市民に本市の取り組みを周知する良い機会でした。

FC今治は「レディースウィーク」の中でスポーツ × 医療 × 行政 「今治からの挑戦!希望が叶う街へ」を開催。FC今治のエグゼクティブパートナーで日本有数の不妊治療クリニックの一つであるリプロダクションクリニックCEOの石川智基さん、今治市こども未来部ネウボラ政策課課長 越智耕二郎さん、そしてFC今治(株式会社今治.夢スポーツ)代表取締役社長の矢野将文さんが登壇し講演とディスカッションを行いました。人口減少、少子高齢化が着実に進んでいる今治市の未来に何が必要なのでしょうか。また、女性・子どもが輝き、持続可能な社会にするためには今後どのような取り組みが必要なのでしょうか。スポーツ・医療・行政がコラボレーションし、市民に学びの機会を提供する貴重な機会となりました。

ネウボラ政策課には反響が届いています。

「晩婚化などで不妊治療を受ける人が増えてきている実態と合わせて、治療に取り組む人への支援として、家族のみならず、企業の休暇制度設計や働き方改革も必要であるなど、貴重なお話を伺うことができました。市民の方からは、ネウボラについて今治市の話が聞けてよかった、不妊治療は夫婦そろって取り組むことの重要性がわかった、周りにも今日聞いたことを伝えていきたいなどのご意見を頂いており、今治市の取り組みについて周知する機会となっただけではなく、社会全体で子育てを支える機運の醸成につながったものと考えています。」

今治市街

レディースチームが果たした重要な役割

FC今治がJリーグクラブだから実現できたことかもしれません。しかし、クラブの中にレディースチームがあるからこそ生まれた取り組みだということもできます。FC今治のレディースチームは地域の中で独自の価値を発揮し重要な役割を果たしているのです。

FC今治レディースのトップチーム

「地方創生の実現に向けては、地方都市においても女性がいきいきと活躍する場を拡大し、若年層の女性に選ばれるまちであることが重要です。そのため、就職活動や起業への支援、キャリアアップなど、就労を希望する女性が多様なライフステージを通して働き続けられる環境など、ひとりひとりの女性が自分らしく生きていける社会が求められます。その中で、地域に根差す J リーグクラブでのレディースチームの活躍は、市内企業との連携における就業の場の確保や女性の活躍できる職場機運の醸成にとどまりません。ファン層の拡大や裾野の広い若年からのレディース選手の養成も相まって、今治市に、子育て世代に選ばれるまちの実現に向けた新しい風を起こしてくださっております。」

「岡田メソッド」の成果、WEリーグの下部組織を破ったF C今治レディースN E X T

ここからは、話題をピッチ上に移します。FC今治レディースの現在についてレディースのトップチーム監督の布山達朗さんにお聞きしました。布山さんは育成年代も含めたレディースグループ長も兼務しています。

布山達朗さん

FC今治は、2025年までに長期一貫指導により日本一質の高いピラミッド(今治モデル)を構築することを目指しています。そのピラミッドの中には、レディースのトップチームとレディースN E X Tチーム(U-18、U-15)が含まれています。FC今治レディースのトップチームは、現在四国リーグに所属し、なでしこリーグへの参入を目指しています。女子サッカーをより身近なものに感じていただき、地域の女子サッカー選手の憧れの存在になれるよう活動しています。

今治モデル(FC今治のウェブサイトから引用)

少しだけ「岡田メソッド」が何であるかについて触れておきましょう。「岡田メソッド」は16歳までの指導を対象にしたメソッドです。岡田メソッドは主に以下の3つの要素で構成されています。

:プレーモデル
:テクニックとプレーパターン
:年代別トレーニングエクササイズ集

プレーモデルとは、日本人が世界で勝つためのサッカースタイルの実現に必要なプレーの原則集です。プレーモデルに基づいた有効なプレーを可能にする「テクニックとプレーパターン」そして、その習得のための「年代別トレーニングエクササイズ集」を「岡田メソッド」では体系的指導方法として整理しています。

「岡田メソッド」は技術、戦術、パス、サポート、ピッチの場所など、ありとあらゆるものに名前をつけて分類。明確に定義し言語化することで、その言葉を聞いたコーチ、選手が同じものを頭に描けるようにしました。「岡田メソッド」として定義した範囲は「ゲーム分析とトレーニング計画」「コーチング」「ヒューマンルーツプログラム」「フィジカル」「コンディショニング」「チームマネジメント」に及んでいます。

「特にU-15までは、武道でいう『守破離』の『守(教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階)』に当たるので、特に『岡田メソッド』を色濃く反映させた指導をしています。U-18になると、少しずつ変化を加えて『離(型から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階)』に入っていきます」と説明してくださった布山さん。つまり、FC今治レディースN E X TがXF CUP 2022第4回日本クラブユース女子サッカー大会でちふれA Sエルフェン埼玉マリU-18を破って準々決勝に進出したのは、まさに「岡田メソッド」の成果といえます。

FC今治レディースのトップチーム

J3からレディースチーム、スクールにまで共有される「岡田メソッド」

布山さんは「岡田メソッド」の本質と存在意義を、このように表現しました。

「私たち指導者にとって、とても勉強になっています。サッカーのやり方に目が行きがちですが『岡田メソッド』にはコーチとしての資質や立ち振る舞いについての記述も同じくらいのボリュームがあります。」

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