WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグを多国籍・多様性に溢れる環境にするために必要なことは? 海外で活躍する選手・指導者の経験談から考える 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】前篇 

WEリーグ開幕に合わせて来日した外国籍選手のうち、2年目のシーズンも契約を継続した選手が何人いるかをご存知でしょうか?答えは一人です。2022−23 WEリーグカップに選手登録されたのは昨シーズンに9試合出場したサリナ・ボールデン選手(EL埼玉)だけでした(なでしこリーグ時代からプレーしている選手は他にいます)。 

WEリーグは「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する。」という理念を掲げています。 WEリーグは、WE ACTION DAYをはじめ、多様性を実現するための様々な活動を行なっていますが、今のところ、プレーする選手の国籍や人種は多様とはいえません。ワールド・リーグ・フォーラムに加入する12の女子プロサッカーリーグの中で、外国籍選手の比率が最も少ない女子プロサッカーリーグがWEリーグなのです。 

ドイツ、オーストリア、日本(浦和レッズ、ヴィッセル神戸)で指導者として活躍、現在はオーストリア・ブンデスリーガのSKN ザンクト・ペルテンでテクニカルディレクターとして男女のチームを統括するモラス雅輝さんは「WEリーグがワールドワイドに開かれた、平等で多様性のある環境を作れるとプレーする日本人選手にプラスになる。」と言います。外国籍の選手と一緒にプレーすることで、オン・ザ・ピッチでもオフ・ザ・ピッチでも学べることが多いというのです。 

WEリーグが夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現を目指すのであれば、その対象は全ての人であるべきです。どのようにすれば、外国籍選手の受け入れが進むのか、指導者や選手のレベルで考えてみます。 

モラス雅輝さん

記事の後半では、オーストリアとドイツでプレーした泊志穂さん(AC長野で引退)、ポーランドで活躍中の圓乘由里奈選手(UKS SMSウッチ)の経験や提言も踏まえてお話を進めていきます。 

外国籍の選手と一緒にプレーすることで学べるはずだが 

「WEリーグのビジョンのひとつ『世界一のリーグ価値』の具現化に向けて、ワールドクラスの選手が海外から参加し、多様性と魅力に富むリーグを創出するため、外国籍選手を獲得するクラブに対する補助金の支給を制度化したい。」 

WEリーグが開幕する半年前の2021年3月、岡島喜久子チェアは 「外国籍女子選手受け入れ支援制度」の導入意義を説明し、受け入れに積極的な姿勢を示していました。それに加えて、 FC バルセロナやMLS等のスポーツマネジメントで活躍されてきた中村武彦さんがWEリーグの国際アドバイザーに就任し、チームの外国籍選手獲得を支援しますが、残念ながら、その成果は、まだ現れたと言い難いです。
1年目のWEリーグの開幕に合わせ、アメリカ、ドイツ、オーストラリア等から外国籍選手が来日。選手登録しました。ところが、コンスタントに出場したのは15試合出場のサンデイ・ロペス選手(N相模原)のみ。 カトラー・グレイス・エリン 選手(大宮V)は第4節のさいたまダービーで外国籍選手初得点。第3節から第8節まで5試合連続出場しましたが11月に全治8ヶ月の負傷。惜しくも戦線を離脱してしまいました。 他の多くの選手は出場機会を得られないことが多く、中には途中帰国する選手もいました。 

WEリーグの理事で、女子サッカー選手の海外留学支援の先駆者であるブリッジを2002年に立ち上げた経験を持つ小林美由紀さんは、1年目のシーズン中に外国籍選手とコミュニケーションをとり状況の把握に努めていたといいます。2年目のWEリーグで外国籍選手が減少してしまったことについて、このように捉えています。 

・チームは契約延長を希望したが出場機会が少なく本人が契約延長を望まなかった例がある。
・日本のサッカーに慣れるのに時間を要したという声がある。
・外国籍選手に慣れているスタッフが少なかった。
・監督からの指示のコミュニケーションがとりにくかったという声がある。
・監督は同じレベルの選手ならばコミュニケーションをとりやすい日本人選手を優先しがちという声がある。 

そのため、WEリーグ事務局としては「日本人にない特徴を持っている外国籍選手の獲得を後押ししたい」としています。 

今シーズンからマイナビ仙台レディースにスラジャナ・ブラトヴィッチ選手が加わりました。スペイン女子1部リーグ(ラージョ・バジェカーノ)からの移籍です。モンテネグロ女子代表として55試合に出場。そのうち35試合はキャプテンとして出場しており、リーダーシップの面でも期待されます。ラージョ・バジェカーノでは田中陽子選手のチームメイトでしたので、来日前から日本人との接点があった選手です。 

年俸水準が向上している欧米の女子サッカー 

WEリーグ事務局の後押しがありながら、なぜ外国籍選手の獲得は進まないのでしょうか。その原因を振り返ってみましょう。まずは経済面です。1993年にJリーグが開幕すると、世界の第一線で活躍した大物外国籍選手が続々と各クラブに加入しました。当時の日本経済はバブル景気の余韻が残されていました。為替相場は1ドル110円程度。日本は国際的に注目を集める国の一つでした。用意した高待遇は海外メディアから「年金リーグ」と揶揄されたこともありますが、各国から有名ベテラン選手が多数来日し活躍。ファン・サポーターを楽しませました。 

では、現在の日本経済とWEリーグの置かれた状況はどのようになっているのでしょうか。 

WEリーグリーグの年俸の基準となるプロA契約の基本報酬は年額460万円以上(初めてA契約を結ぶ場合は670万円以下)。プロB契約とプロC契約の基本報酬は年額270万円以上460万円以下と規定されています。これについて、岡島チェアが米国の大学女子サッカー関係者にヒヤリングした際に得られた声が、1年目のシーズン開幕前のWEリーグのメディアブリーフィングで紹介されました。 

「基本報酬の年額460万円は米国女子プロサッカーリーグNWSLでプロ契約した際の1年目の年俸よりも好条件なので、基本報酬に加えて生活費の補助があれば、アメリカの大卒選手には魅力的な条件になるのではないか。」 

しかし、この状況は一変します。2022年2月にNWSLとNWSL 選手組合(NWSLPA) は団体交渉協定 (CBA) を締結しました。NWSLの最低選手給与は前年比で約60%も 引き上げられ3万5千ドルになったのです。それに加えて、1ドル140円まで円安が進みNWSLの最低年俸は日本円に換算すると約490万円に跳ね上がりました。WEリーグの年俸水準を一気に上回ったことになります。しかも、これはあくまで最低年俸ですから、トップレベルの選手を獲得することは経済的に難易度が増したといえます。 

ガーディアンの記事によるとイングランドのFA WSL(FA女子スーパーリーグ)の最低年俸は2020年9月の時点で約320万円。しかし、イングランドは2022年に女子代表チームが地元開催の UEFA欧州女子選手権イングランド2022(ユーロ)で優勝し空前の女子サッカーブームの真っ只中。チェルシーのエース・ストライカーであるサム・カー選手(オーストラリア女子代表)の年俸は約7千万円と報じられてきましたが、現在は1億円だという関係者の証言もあります。サム・カー選手はNWSLで23試合19得点という史上最高得点記録を塗り替え、3年連続得点王となった後に2019ー20シーズンからチェルシーに加入。 チェルシーのFA WSL(FA女子スーパーリーグ)優勝に貢献しています。 

女子サッカーの年俸は世界的に上昇しつつあります。観客動員が多いのは米国女子プロサッカーリーグNWSLですが、欧州各国のチームがこれまでよりも良い待遇を用意したため、米国でプレーしていた有力選手は一斉に欧州に移籍していきました。有力選手の獲得競争にWEリーグが割り込むのは至難の業ともいえる厳しい環境が生まれているのです。

どのようにすれば、外国籍選手の受け入れが進むのか 

ここまでは厳しい日本経済を中心に、WEリーグの置かれた状況を整理してみました。では、WEリーグに加入したい外国籍選手が全くいないかというと、そうではありません。

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