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政府機関の投資と減税 WEリーグと異なる方法でプロリーグ化が進むスペインの女子サッカー 現地レポート

女子サッカーのプロリーグ化で注目が集まるスペイン。FIFAランキングは、なでしこジャパン(日本女子代表)を上回る7位。 UEFA欧州女子選手権イングランド2022(ユーロ) では、大会直前に、バロンドールの受賞者 のアレクシア・プテジャス選手が左ヒザ前十字靭帯断裂で戦線を離脱したのにも関わらず準々決勝に進出。優勝したイングランド女子代表に延長戦で敗れたものの、その実力を世界に示しました。 

スペインのプロリーグ化 はWEリーグとは全く異なるプロセスで進んでいます。ここまで急速に国全体が動き、国内外からスペイン女子サッカーへの関心を高めることができたのはなぜでしょうか。 

スペイン全土で530万人が参加するデモが行われ「女がいなければ世界は止まる」というスローガンが叫ばれたのは2018年の国際女性デーでした。当時のスペイン女子代表はFIFA女子ワールドカップ出場1回(2015年:グループステージ敗退)の弱小チーム。それから4年を経た今年、ジェンダー平等の面でスペインは世界経済フォーラムが、世界各国の男女平等の度合いを数値化したジェンダー・ギャップ指数2022の17位(日本は116位)に。そして、女子サッカーにおいては世界の強豪国に仲間入りしようとしています。

多くのスペイン国民の「ジェンダー平等は当然であるべき」「弱者を平等な立場にするために支援すべき」というコンセンサスと「プロリーグ化」には関係がありそうです。 

2007年からスペイン在住。自転車レースやフットボール等のライター及びフォトグラファーとして活躍する對馬由佳理さんによるスペイン女子サッカー界の「プロリーグ化」についてのレポートです。 

(2022年8月2日 石井和裕)

マドリード スペインには平等省という格差をコントロールする省庁がある

政府機関の投資と減税が女子スポーツを変えたスペイン 

サッカーが「国技」とも言える国の一つ、スペイン。そのスペインで、近年人気を集め始めているのが、女子サッカーである。2022年3月に女子サッカーでも「エル・クラシコ」と呼ばれるバルセロナ対レアルマドリードの対戦で、万人以上の観客が集まったニュースをご記憶の方も多いのではないだろうか[1] 

スペイン女子サッカーの「プロリーグ化」が正式に決まったのは、2021年7月のこと。スペインの政府機関の一つであるスポーツ上級委員会 (Consejo Superior de Deportes以下CSDと省略 )が、スペイン女子のトップリーグを「プロリーグ化」することを正式に決定したのである。 

サッカーの世界では、ワールド・リーグ・フォーラムに加入すると「プロリーグ」として認識されている。 ワールド・リーグ・フォーラムが2021年12月に発行した女子サッカーレポート2021にはスペインを含む13のリーグが掲載されている[2] 

バルセロナ

2021年に女子サッカーのトップリーグはプロ化へのゴーサインを受けた翌年の2月にCSDはプロ化するトップリーグに1600万ユーロの投資を行うことを発表する[3]。この投資の目的は各チームに必要なインフラ整備が主なものとなっている。 

https://www.elespanol.com/branded/deporte-femenino-espana/ 

この大規模投資の裏付けになっているのが、2015年から始まったスペイン・スポーツ評議会による「Universo Mujer」と呼ばれる動き。この「Universo Mujer」により、女子スポーツを促進させようとする団体や企業に対し、税金面で様々なアドバンテージを与えようという計画である。例えば、この「Universo Mujer」を推進し宣伝している企業や団体に対し、15%の減税を認めるなどの措置が取られていた[4]  

この「Universo Mujer」において、計画が実行された当初から中心的な役割を担っているのが、スペインの一大エネルギー企業であるイベロドーラ(Iberodora)である。2016年に女子スポーツに進出したイベロドーラは、サッカーやラクビーなど6つのスポーツのリーグの冠スポンサーとなり、各リーグ戦の開発をバックアップすることになった[5]。この結果、2016年の1年間だけで、トップクラスの女子スポーツの試合数が前年の129試合から200試合以上にまで増えたと報道されている[6]

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