WE Love 女子サッカーマガジン

この歳で新たな夢に向かって泣きながら頑張るなんて楽しい WEリーグは私に「なでしこジャパンの実況」という大きな夢を与えてくれました 安田美香さん

WEリーグ中継は女性の実況アナウンサーを増やしています。2022年3月5日に開催された2021−22 Yogibo WEリーグ第12節では、安田美香さんが実況デビューをしました。安田美香さんは、長くJリーグ中継のリポーター・インタビュアーを務めていますので、ご存知のサッカーファンも多いと思います。そして、ホリプロが企画運営する「家族の心によりそう」ファミリープロジェクト『ホリプロ保育園』で「えんちょー」として番組やイベントのMCを務めるママ・タレントとしての顔もあります。

安田さんは、なぜ実況に挑戦したのでしょうか。そして、WEリーグに、どのような思いを抱いているのでしょうか。お話を聞くと、小学生時代から今に至るまで、サッカーに対する特別な感情があることが判りました。

女性に見てもらいたいWEリーグ

安田男性が女子サッカーに興味を持ってくれるのもありがたいのですが、私は女性に見てもらうことがより良いと思っています。男子のサッカーを見ている人は、女子サッカーを物足りないと感じることがあると言う人がいます。でも、女性から見ると女子サッカーって単純にすごいんです。「こんな角度で打つの?」「すげー回転をかけている」という驚きがあります。女性が女子サッカーを見れば、女子サッカーのすごさを実感してくれると思うのです。ぜひ、最初はスタンドの上段からではなく、できるだけピッチに近い席で見てほしいです。ボールを蹴る音を生で感じたり、蹴った後に芝が舞うところを近くで見てほしいです。私は、去年、初めて小学校2年生の娘と一緒に、試合を見に行きました。フクダ電子アリーナで開催されたジェフユナイテッド市原・千葉レディースとノジマステラ神奈川相模原の試合でした。最前列で見ることができました。娘は大興奮でした。娘の目の前で放った大澤春花選手のシュートが決まりました。ちょうどシュートを放った位置からゴールまで一直線で見える角度だったので、娘は自分がシュートを決めたくらい興奮して喜んでくれました。私にとって忘れられない1日になりました。私は小学生のときからサッカーをやってきたので、まさか、娘と、こういうサッカーの楽しみ方をできると想像していませんでした。

スタジアムは「自分の居場所」となるコミュニティ

安田子育てには孤独な面があります。WEリーグを通して、ひとりぼっちにならないママのつながりができたら良いと思います。ママたちの生活は、毎日、同じことの繰り返しです。だから週末に行く場所を探しています。でも、子どもが騒いで周囲に迷惑をかけるんじゃないかと思うとどこにも行かれなくなります。ところが、スタジアムでは、子どもが騒いでも大丈夫です。WEリーグをお出かけの選択肢に入れてほしいと思います。そして「2週間後にWEリーグを見に行くぞ」と予定が決まるだけでも生活に張り合いが生まれます。ご出産された岩清水梓選手や大滝麻未選手もいるので、親近感を感じてもらえるかもしれないと思っています。色々な女性が交流するコミュニティになってほしいと思います。

サッカー場はみんなに会える場所です。それが毎日の生活を楽しくします。スタンドの座席で1週間のことを友達と話したりする「自分の居場所」です。話すことで子育ての辛さを少しだけ解消できる気がします。

人と人を結んでくれるのは、スタジアムのとても良い機能ですね。

キャプテン翼をきっかけにチーム入り

安田私は神奈川県二宮町のFC富士見が丘でサッカーを始めました。チームに入ったのはキャプテン翼がきっかけです。ボールを足で蹴る人をアニメで初めて見て「面白い」と思いました。母に頼んでチームを探してもらいました。FC富士見が丘には女の子が1人だけいました。その子は私が加入するととても喜んでくれました。砂場でオーバーヘッドキックやスカイラブハリケーンの練習をしました。

中学校に進学すると、近所にプレーするチームが見つかりませんでした。それで、自分たちでチームを作りました。FC富士見が丘には、私が友達を引き込んでいたので同級生の女子が5人になっていました。そこに、自分たちの親を入れて倍の10人。他の中学校の生徒を2人勧誘してチームができました。神奈川県女子サッカーリーグに登録して試合を始めました。でも、対戦相手は身体の大きな大人のチームなので、いつも負けていました。母は何も運動をしてこなかった人なのですが、無理矢理に審判の資格まで取ってもらいました。お母さんたちに「もっと走って!」と言って親子喧嘩になったこともあります。母には申し訳なかったです。

平塚市内の高校に進学すると男子のサッカー部に選手として入部しました。顧問の先生に入部のお願いをしに行きましたが、最初は「無理」と言われました。でも「やる気を見せてみろ。その間に入れるか調べてみる。」と言われて、いつもグラウンドの外周を走っていました。ぐるぐる回ってバターになるんじゃないかと思うくらい走りました(笑)。1ヶ月くらい経って入部できることになりました。最初は「女とサッカーするのは嫌だ」という男子部員もいました。もちろん、私に怪我をさせたくないからです。でも、キャプテンは「面白いな、お前!」と言ってくれました。公式戦には出場できないですが、やれる練習だけは一緒にやってサッカーを楽しんでいました。でも、男子の肩が、私の顔のあたりにくるので、当たると私は吹っ飛ばされて、いつも鼻血を出していました(笑)。サッカー部のメンバーは良い仲間で大好きです。

プレーヤー時代の安田美香さん 提供:安田美香さん

女子がサッカーをすることを妬む嫌がらせもあった

安田ところが、途中から「なぜ男子の中に女子がいるの?」という嫌がらせの手紙が届くようになりました。私は誰にも言えませんでした。携帯電話が普及していない昔、駅に待ち合わせに使う黒板の伝言板というものがありました。私は嫌がらせの手紙が怖くなって「部活行きたくない」と伝言板に書きました。そうしたら「さぼっちゃえば?」と返事が書き込まれていました。誰が書いてくれたのかはわかりませんが、しばらく、伝言板でやりとりが続きました。

嫌がらせは酷くなっていきました。

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