小6から夢に描いた皇后杯 準優勝の悔しさ胸にWEリーグ後半戦を戦う市瀬千里選手(千葉L)が語るジェフの伝統と恩返し
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは、久々のタイトル獲得まであと一歩にまで迫りました。皇后杯 JFA 第43回全日本女子サッカー選手権大会に準優勝しました。決勝戦で三菱重工浦和レッズレディースに許した失点が、この大会を通じて唯一の失点。堅い守備と、手数をかけないスピーディな攻撃が光る「負けないジェフ」を印象付けた大会となりました。
ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは3バックと5バックを併用し、状況に合わせた細やかなポジショニングで局面を支配。左サイドのキープレーヤーとなっているのがスリーバックの左を務める市瀬千里選手です。千葉市立都小学校、加曽利中学校、千葉経済大学附属高校出身。中学生からジェフ一筋にプレーしています。プレーしながら通っていた大学を3月15日に卒業。教員免許を取得しました。
今回は、市瀬選手に、長くプレーしているジェフユナイテッド市原・千葉レディース躍進の理由を振り返っていただきました。
ジェフ入り直前にスタンドから見つめた決勝戦の思い出
市瀬—皇后杯には強い思い入れがありました。私が小学校6年生になってジェフに加入するためのセレクションを受けた年に、ジェフが初めて決勝戦に進出しました。私はスタジアムに決勝戦を見にいきました。まだジェフに加入する前でしたが「ジェフでこの舞台に立ちたい」と強く思いました。ジェフユナイテッド市原・千葉U-18でプレーしていた2017年に、U-18が2回戦でスフィーダ世田谷FCに勝ち、次は日テレ・ベレーザと対戦することになりました。でも、私は、その日が大学受験と重なってしまい出場できませんでした。皇后杯には、特別な舞台に立てなかった日の悔しい思いがありました。
「優勝したい」試合後に目標が変わった
市瀬—優勝したい思いがありましたが、楽しみたいという気持ちを一番に持つようにしました。その上で結果がついてくるように……試合前は、そのように考えていたのですが、試合後は準優勝のメダルの色を見ると悔しさが強く込み上げてきました。「必ずタイトルをとる」という三菱重工浦和レッズレディースの気持ちとの差が出てしまったと感じています。
私たちは「あの舞台に立ちたいという思い」が強かった。でも、試合後は「優勝したい」に目標が変わりました。貴重な経験をさせてもらったと思っています。「私たちはできる」という自信にもつながりました。
—決勝戦は失点してから流れが傾いてしまいましたが、それまでは互角のプレーを繰り広げていたと感じました。いかがですか?
市瀬—失点してから、チーム全体が、ガクンと落ちてしまったと、試合を振り返って思いました。勢いに乗り切れませんでした。
泥臭さを忘れないチーム
—ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの良いところと強みを教えてください。
市瀬—良いところは「本当に仲が良い」ところです。試合の中でも外でも上下関係なく話せるチームです。強みは「泥臭さを忘れない、上手くやりたいよりも勝ちたい気持ちを持って戦うことができるチーム」だというところです。チームのため、勝利のため、周りの選手のために、身体を張ることができるチームです。
—キャッチフレーズWIN BY ALLのスピリッツは、なでしこリーグ2部にいたときから、ずっと変わりませんね。なぜ、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの選手代々に引き継がれ、磨かれていくのでしょうか?
市瀬—昔からジェフを築き上げてくださった選手、スタッフに、私たちが育成年代のときから、それを見せてもらってきたことが理由だと思います。
—確かに、コーチ陣には、走るジェフレディースの象徴だった清水由香さんもいらっしゃいますね。
強さを継続できる力をつけたい
—WEリーグの前半戦を振り返ってみて、満足に至った点はありますか?
市瀬—私自身としては、満足のいくところはあまりありませんでした。前向きな考え方として「私たちは、もっとできた」と思います。無失点で勝てる試合は増えました。チームの状態は右肩上がりに良くなりました。でも、それは開幕戦当初から良くなければいけなかったことです。勝利を重ねていく中で、それを感じていました。
—ウィンターブレイク前は7試合負けなしとなりましたが、WEリーグ開幕直後の3試合では、もっとできたはずだというお気持ちでしたか?
市瀬—それもありますが、7試合「負けなし」には引き分けも含まれます。引き分けは決着がつかず、私にとって一番悔しい結果です。
—満足できなかった、改善したい点はありますか?
市瀬—強さを継続できる力をつけたいです。失点せずに勝ち切れる試合を増やして続けていきたいです。そして、勢いを継続して失点しても跳ね返せるような力を持ちたいです。それから、セットプレーからの得点が少ないので点をとれるチームにしていきたいです。
—得点のチャンスを増やしたいですね。
市瀬—私としては、ビルドアップをして、低い位置からでも崩してシュートにまでつなげるプレーをもっと増やしたいです。でも、低い位置からのビルドアップをできなくても、苦しい試合のときに決め切れる力を出せるようになりたいです。
「ジェフは走ってきた」という自信がチームを変えた
—WEリーグが始まると、プレシーズンマッチとは全く違う3バックの陣形から、かなりレベルの高いビルドアップを、市瀬選手が起点になって行っています。何が変わったのでしょうか。
市瀬—一番の変化は、失点に絡むミスの減少です。頭の整理やゲームを読む力がついてきました。変化の一番の理由はビデオを見るようになったことです。海外のサッカー、Jリーグ……とてもたくさんのビデオを見て状況判断を学ぶようになりました。そして、自分に自信がつきました。「これだけ練習をやってきたから、自分のドリブルは奪われない」とか「ロングキックはしっかりとここに飛ぶ」という自信がついて、怖がらずに低い位置からプレーできるようになりました。
—サイドの選手やボランチの選手とダイレクトでパスをつなぐプレーが増えました。そのために、ご自身が楽な体制でボールを受けられるように、こまめにポジションを変えている印象を受けています。ビデオをご覧になった研究の成果が生きているのでしょうか?
市瀬—上手い選手は、ミスを周りのせいにしません。どのようなボールが来ても、自分の得意な場所にボールを置くことができます。それをビデオで見て感じました。いくつも見ることで自分の気持ちが変わりました。今までの自分に足りないところが見つかりました。
このチーム、この選手、を決めて見るよりも「良いプレー」を見るようにします。プロになって自分の時間が増えたので、たくさんのビデオを見ることが可能になりました。
—ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは、攻撃のときには3バックが幅を広く使ったり、守備のときは選手の間隔が狭くなるように最終ラインに5人が並んだり、状況判断によるプレーの切り替えが必要なサッカーをされています。この戦術に手応えを感じ始めたのはいつ頃からですか?
市瀬—今の3バックにフォーメーションをチェンジしたのは、WEリーグが始まる直前でした。WEリーグの試合を重ねるごとに改善できていったと思います。危機感が一番の鍵でした。プレシーズンマッチで負け続けて「これじゃダメだ」という状況になりました。監督からの要求もありましたが、ピッチの中でプレーするのは選手なので、選手同士が話し合いをすることで良くなっていきました。話し合いながら「やれると思ってやろう」という考え方に変わっていったのかもしれません。
—データを見ると、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースが行っているサッカーは守備の位置は低め。奪ってからの攻撃が速いサッカーだと思います。最近のサッカーのトレンドの、高い位置にラインを敷いて敵陣で奪って一気に攻めるサッカーとはギャップがあるサッカーと感じます。始めた当初に、選手の皆さんは戸惑いを感じませんでしたか?
市瀬—後ろのポジションの選手としては、ボールを高い位置で奪えると気持ちが全然違います。組み立てが楽になります。前でボールを奪えるに越したことはありません、守備で体力を消耗するよりも攻撃で疲れたいです(笑)。でも、私たちには「ジェフは走ってきた」という自信がありました。ですから、やれると思って、今のやり方に気持ちを合わせていきました。
—ここで、走るジェフの伝統が生きてきたのですね。この伝統がなければ、上手くいかなかったかもしれませんね。
市瀬—本当にそう思います。ジェフの伝統が生きていると思います。ディフェンスラインは低いですが、ゴール前でシュートを打たせない(泥臭い)守備についてアカデミーでプレーしていたときから言われ続けてきました。
—幅を広くとって、近くに味方がいない状況でボールを受けることが多いようですが、相手に詰められることなくボールを動かせる秘訣はありますか?
市瀬—中から追われたときに逃げるドリブルを身につけて、自分の強みとしてきました。さらには、追ってきた相手を引きつけて、自分が剥がすことで、局面を有利にできます。なるべく楽な状態でボランチにボールを入れてあげたいと思っています。そのために相手を1枚引きつけるボールの持ち方をします。私が1枚剥がせればボランチをマークしていた相手が寄せてきてボランチのマークが外れることもあります。
—それは、なでしこジャパン(日本女子代表)に少し足りないプレーなので、いつも、とても良いプレーだと感じています。
責任を持ってジェフに恩返ししたい
市瀬—2021−2022 Yogibo WEリーグで3位に入る目標を掲げています。もちろん優勝を目指しますが、まずは3位に入れるようにやっていきたいです。そして、なでしこジャパン(日本女子代表)に入りたいです。アカデミー出身でジェフユナイテッド市原・千葉レディースにいるうちになでしこジャパン(日本女子代表)でプレーした選手はいません。プレーできれば、アカデミーでプレーする選手の目標になるので頑張りたいです。
ジェフに恩返しができる方法の一番は結果だと思います。チームとして結果を残すことに加えて、個人として結果を残すことが重要です。ジェフで育ち、ジェフにいるうちに代表入りすることは、これ以上ない恩返しだと思うので、責任を持ってやりたいです。自分の手で掴み取りたいです。
(インタビュー:2022年3月1日 石井和裕)