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FIFA女子ワールドカップ初出場の影に日本人指導者あり ベトナムサッカー協会 女子サッカー統括 井尻明さん

ベトナムの女子サッカーが、日本では想像できない勢いで盛り上がっています。ベトナム女子代表は、プレーオフを勝ち抜き、FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023に初出場を決めました。プレーオフが終わり1週間を経過しても、ベトナム国内のテレビは連日、女子サッカーのニュースを報じ続け、なでしこジャパン(日本女子代表)が世界一に輝いた2011年と似た状況です。

ベトナム女子サッカーを支える1人の日本人指導者がいます。井尻明さんです。肩書きはベトナムサッカー協会の女子サッカー統括。仕事の幅は広く、関わるカテゴリーはベトナム女子代表、アンダー年代、草の根(グラスルーツ)に至るまで、ベトナム女子サッカーの普及、育成、強化に奔走されています。そして、指導者養成は重要な仕事の一つです。ベトナムでは、日本とベトナムの友好の架け橋になることも求められます。

日本サッカー協会からの派遣でベトナムに赴任してから4年目。簡単に表現すれば「ベトナム女子サッカーのヘッド」ですが、井尻さん本人は、冗談を交えて「何でも屋」と自己紹介します。そして、その「何でも屋」の仕事をできるのが日本人の長所ではないかと井尻さんは言います。ベトナムには、JFAアカデミー福島のようなアンダー年代のエリートチームがあります。約50名が寄宿舎で一緒に生活しています。井尻さんも、その一角で生活しています。

初めてのFIFA女子ワールドカップ出場で喜びに湧き上がるベトナム女子サッカー。今回は、躍進するベトナム女子サッカーを支え奮闘する日本人指導者・井尻明さんから、東南アジア最前線のお話をお聞きしました。

縦割りの組織を一体化させる女子サッカー統括の仕事

井尻海外で働く日本人指導者、学校の先生、協力隊……皆さん、二足の草鞋、三足の草鞋を履いて生活されていると思います。ベトナムサッカー協会では、ご自分の部署以外の仕事にはタッチしない傾向の方が多いです。そのなかで、ここでの私の女子サッカー統括の仕事はベトナム女子サッカーの全てに関わることです。

縦に分かれている組織と人々を繋いでいく重要な役割を、外から日本人の目で把握し担っていくお仕事なのですね。コロナ禍でのベトナムの生活はいかがですか?

井尻2020年はベトナム政府が「ゼロ・コロナ」を目指しました。警察だけではなく、軍隊までをも街で目にしました。かなり厳しい外出制限が1年間くらいありました。2021年の夏頃からは「ウイズ・コロナ」の方針が伝わってきました。外出制限は緩くなりましたが、とにかくワクチンを打つように強く伝達がありました。

アンダー年代のベトナム女子代表の活動に、かなり大きな影響があったのではないでしょうか?

井尻厳しい外出制限があったときは、女子代表チームの活動ができませんでした。部屋の外に出ても寄宿舎の廊下までくらいでした。選手はベトナム全土から集まっています。一度、郷里に帰った選手は、こちらに移動できないので集合できない状況でした。逆に、郷里で感染が広がっているために、帰省できない選手もいました。2020年、2021年のアンダーカテゴリーの国際大会は全てキャンセルになりました。

「男子はこれ」「女子はこれ」という風習が根強く残るベトナム文化だが

具体的な成果の披露や、次の目標設定ができないのでお仕事をしにくかったでは?

井尻よく、そのように言われるのですが、自分なりに国内で指導者養成をかなりやりましたし、アカデミーの選手の指導もかなりやれました。力を発揮できた実感はあります。

それが、監督のようなセグメントされたお仕事ではない、井尻さんのお仕事ならではの実感なのでしょうね。

井尻ベトナムのサッカー人気はものすごいのですが、女子のサッカー人口は1千人もいません。ベトナムの女子選手のほとんどは14歳くらいからしかサッカーを始めていません。小さなコミュニティです。肌が白くて髪の長い女性が美しいとされているそうで、文化的に、親が女の子を外に出したがらないと聞きます。まず、日焼けをさせたくないらしいです。いわゆる「ゴールデンエイジ」と呼ばれる年代でプレーする女性が少ないのです。

かなり先進国に追いついてきたベトナムといえども、いまだに「男子はこれ」「女子はこれ」という風習が根強くあるのですね。

井尻ただ、日本よりも男女平等が進んでいると思います。なぜ、そのように思うかというと、色々な部署の管理職に女性がかなり多いからです。社会進出していますし自己主張もするので、ベトナムは女性が強いです。ベトナムでは「父の日」「男性の日」が浸透していませんが「国際婦人デー」と「ベトナム女性の日」があり「ベトナム女性の日」は祭日です。我々男性は、女性に花束を渡します。バレンタインデーも男性から女性へプレゼントを贈るのがベトナム流です。フランスが統治した時代があったのでレディーファーストの文化が強いと聞いています。それでも、小さい年代だと「女の子だから」こうしなければならないという風習が残っていますね。

「ベトナム女子代表が東南アジアで一番すごい」という大騒ぎ

井尻コロナ禍の影響が色濃く出ていた大会でした。ベトナム女子代表は事前キャンプで10名以上の選手が陽性になってしまい、インド入りの初日にはメンバーが揃いませんでした。そのような状況の中で勝ち上がり、出場権を獲得したのは偉業だと思います。

ベトナムにとって男女を通じてトップカテゴリー初のFIFAワールドカップ出場です。大会が終わってもお祭りが続いています。ベトナム国内での女子サッカーの注目度が一気に上がり、今後にとても期待を持てます。

ベトナム女子代表が注目されるようになったのは、FIFA女子ワールドカップ出場が決定してからです。国民のほとんどは、アジアカップ開幕後も大会の存在を知らなかったはずです。ベトナムは、国民全体が盛り上がる行事が少ない国です。オリンピックに出場する選手も数えるほどです。だから、男子のAFC U-23アジアカップ中国2018で準優勝したときはテレビの視聴率が77%を記録しました。サッカーは国民が一つになって、星印の入った赤いシャツを着て盛り上がる特別な行事の印象があります。

大会前に、ベトナム国民の多くは女子サッカーに関心を持っていませんでしたが「ワールドカップに出場するのか。男子も達成していないことだ。これでベトナムを世界に伝えられる。」と、大きな喜びになりました。メディアを含めて国中が大騒ぎになっています。

ベトナムは東南アジアの中で戦ってきました。東南アジア各国はシーゲームズ(東南アジア競技大会)での勝利を目指します。特にベトナムは「タイに負けなければOK」でした。それが、初めて世界に出られることになりました。タイ女子代表はFIFA女子ワールドカップに出場経験があり、これまで、先を越されていました。ベトナム女子代表はタイ女子代表を破って出場を決めたので、ベトナム国民は、ベトナム女子代表が東南アジアで一番すごいということを誇りたいのだと思います。

ベトナム女子代表選手は全てプロサッカー選手

『ベトナムフットボールダイジェスト+(プラス)』によると、ベトナム女子代表に30億VND(約1千500万円)の報奨金を贈ると発表があり、その後も、スポンサー等から、さらにお金が集まっているようです。ベトナムでは、かなり大きなニュースなのですね。

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