西部謙司 フットボール・ラボ

遠藤保仁「監督」の近未来。非凡な「眼」を持つ男に約束された名将への道【特別コラム】

電撃の引退発表。西野朗、オシム、長谷川健太…指導者の誰もが彼を称賛する。不世出の天才は一体何が優れていたのか? 共著書を出版したことのある西部謙司がその非凡さを読み解きます。

俯瞰の眼を持つ天才 

遠藤保仁がいきなり現役引退していて驚きました。いつ引退してもおかしくない年齢ではあったわけですが、なぜか来季もやるものだと思い込んでいました。けっこう不意をつかれた感じのファンも多かったのではないでしょうか。

『眼・術・戦』という書籍を作ったときに、何度も話を聞かせてもらいました。本のタイトルとしては「戦術眼」が普通なのでしょうけど、あえて引っくり返したのは話を聞くと、「眼」が最初なのだなと思ったからです。

中学生になったばかりのころにコーチから「頭を使ってプレーしないさい」と教わり、「じゃあ、普段の生活から周囲を見る癖をつけよう」と考えて実行したそうです。

「公園にブランコがあるとします。ブランコがあるのはわかると思いますが、揺れていたのは右から何番目かと聞かれても普通答えられませんよね。それを答えられるようにしようと」(遠藤)

頭を使ってプレーしよう→周囲を見よう。ここまではわかる。それにプラスして「何番目のブランコか」まで掘り下げたのが非凡なところですね。自分以外の21人がフィールドのどこにいるか、それが誰なのか。そこまで見えるようになったのが中学3年間の終わりごろだったそうです。

見えるだけでなく、それが何なのか、それは誰なのか。その意味を見てとる、「見抜く」ところまで普段の生活から習慣づけた。

「視界に入るものは自分の中で整理できるように」(遠藤)

「意識してやっていれば、たぶん誰でもできると思いますよ」と言っていましたが、いつしか「意識しなくても、勝手に眼に入って来るようになった」というところが決定的なんでしょうね。相手のシステムの変化などに気づくまでの時間がどれくらいか聞くと、「5分間くらい」と答えていました。これは我々が記者席で見ていてわかるまでの時間とほぼ同じです。フィールドにいながら、鳥が上空から見るような俯瞰の眼を持っていたわけです。

眼の違いがサッカーの違いになる 

現役引退したのはジュビロ磐田ですが、来季はガンバ大阪のコーチになるようです。そう遠くないうちに遠藤監督が見られるのではないでしょうか。

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