西部謙司 フットボール・ラボ

もはや戦術は「欧州>Jリーグ」にあらず。ハイプレスvsビルドアップの攻防がもたらす進化

2023年のJの戦術的潮流を読むシリーズ『Jの見取り図2023』3回目。今回はハイプレスvsビルドアップの攻防がもたらすJ1の進化と激変した勢力図を読み解く。はたして、これから有利になるのはどういったスタイルなのか?

ハイプレスの威力マシマシでJの勢力図に大異変 

前回はハイプレスでしたので、今回はビルドアップについて。

ポジショナルプレーの導入、普及で自陣からのビルドアップが増加し、2年前ぐらいまではビルドアップが出来る/出来ないで優劣がついていました。ビルドアップが出来るチームとしては横浜F・マリノスと川崎フロンターレが筆頭で、2017年からの6年間はどちらかが優勝しているJリーグの二強です。

もちろんこの二強のビルドアップに対してもハイプレスは行われていましたが、さほど効果はなく、結局のところ引かざるを得ないという状況がありました。つまり、ボールを保持して攻撃するチームと、ブロック守備で耐えるチームというゲームの構図があり、二強を中心にビルドアップが出来る側が基本的には有利な立場にありました。

少し流れが変わってきたのは昨季です。ビルドアップに対して組織的なハイプレスが行われるようなり、その効果も表れてきました。折しも二強が主力の移籍によって戦力の上積ができなくなってきた時期でもあり、二強と他チームとの差がかなり縮まっています。ただ、それでも横浜FMと川崎の優勝争いになっていたのは、二強がハイプレスの面でも力を持っていたからでしょう。ハイプレスのせいでビルドアップが上手くいかなくなったという点では、むしろ二強以外のビルドアップ志向の強いチームのほうが顕著でした。

そして今季、キックオフからの1520分間のハイプレス対ビルドアップの攻防において、ハイプレス側が有利になってきました。

 「ビルドアップがしんどい」。あきらめるチームと貫くチームの行く末

ポジショナルプレーによる位置的優位に依存していたチームは、計画的なハイプレスによって位置的優位がなくなり、その被害をもろに受けることになりましたが、その点で川崎のマイナスは小さいはずでした。川崎はそれほど位置的優位に依存したビルドアップではないからです。

ところが、川崎は自陣からのビルドアップを以前のように行うことができなくなっています。

第一点はGK。ハイプレスがより組織的に洗練されてきたことで、ボールの逃げ場としてGKを経由させざるをえなくなった。そのため、ビルドアップ志向のチームは足下の技術の高いGKを起用するようになっています。

横浜FMは高丘陽平が移籍すると、一森純を獲得しました。サガン鳥栖は元横浜FMの朴一圭、アルビレックス新潟の小島亨介も足下の上手いGKです。そこまでビルドアップ志向でもない鹿島アントラーズでも早川友基が起用されるようになりました。一方、GKに関しては守備力重視というチームも依然としてあり、川崎もその1つだと思います。チョン・ソンリョンは足下に特徴があるタイプではありません。守備力の高さは定評がありますがGK経由のビルドアップという点では物足りなかった。つなげないわけではなくキックも安定しています。ただ、以前よりもバックパスが多くなった局面で力を発揮するタイプではなかった。

第二に、谷口彰悟が移籍した影響はあったと思います。代わりに高井幸大が台頭して大器の片鱗をみせているのですが経験不足は否めず、柏レイソルから獲得した大南拓磨もビルドアップに強みがあるわけではない。

第三にレアンドロ・ダミアンの不調。ハイプレスを確実に上回るものをGKCBが出せないのなら、逆に相手を引きつけてトップへロングボールを蹴ってひっくり返すという手がありますし、ビルドアップにおいて「つなぐ」と「蹴る」はもともとセットです。ところが、前線のターゲットになるはずのダミアンが半ばポジションを失ったことでターゲット不在になっていました。

敵陣に入ってしまえば、パスワークの上手さとプレスの速さという強みを発揮できるものの、そこまで運ぶのに苦労していた。これまでほど強みを出せる時間がなくなっていたわけです。

埋まる欧州とのギャップ、埋まらないCBとMFのギャップ

ハイプレスの威力が増してきた今季、あえてビルドアップにこだわらない選択をするチームも現れています。

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