西部謙司 フットボール・ラボ

それでも、ハイプレス続けますか? 幸運を呼ぶ「待ち受け」に変えますか? Jリーグの守備戦術を占う

2023年のJの戦術的潮流を読むシリーズ『Jの見取り図2023』4回目。ハイプレス、待ち受けのブロック守備。今回はJリーグでどういう守り方が有利になりつつあるのか(あるいは不利になってきたのか)を占います。

欧州以上に重くのしかかるJの「60分問題」 

キックオフからの20分間程度はハイプレス対ビルドアップの構図が多くの試合で見られるようになりました。そして、その攻防においてはハイプレス側が有利になってきたのが今季のJ1の傾向です。

しかし、20分を過ぎるとハイプレスの効果は減少し、逆にビルドアップ側が有利になることが多い。さらに後半は開始から15分間ほどでハイプレスの効果がなくなっています。もちろん、それ以上にハイプレス効果が持続する場合、逆にもっと早い段階でビルドアップ側が有利になる場合もありますが、およそ全体の60分あたりでハイプレスの効果がなくなります。

およそ60分でハイプレスの強度が落ちるのは、不思議なことに昔からそうでした。1980年代のイングランド代表はその典型で、代表監督にもなったテリー・ベナブレスは「対戦国は我々のパワーを削ぎ落す」と言っていました。イングランドの勢いが落ちるのを見越してペース配分をしていたということですね。現在の選手のほうがスタミナはあると思うのですが、ゲームのインテンシティも上がっていますから息切れのタイミングは変わっていないということなのでしょう。

Jリーグは夏場も開催しますから、欧州以上にこの「60分問題」は重くのしかかってきます。しかし、そんな中でも90分間を通してハイプレスの強度を維持できたチームもありました。

21節で名古屋グランパスと対戦した京都サンガです。この試合は7月16日に京都のホームで行われていて天候は曇り、気温は28.1度でした。今年の夏場としてはそこまで高温ではありませんが、サッカーをするには厳しい暑さではあるでしょう。

京都は序盤からハイプレスでペースをつかみます。名古屋が中3日だったのでコンディションの差もあったと思います。先制した京都はハイテンポを維持したまま前半を終了。後半に入って全体の70分あたりで、京都はいったんハイプレスからミドルプレスへ移行しました。しかし、72分に3人を交代すると再びハイプレスに戻します。そのまま最後まで続け、92分にパトリックの得点で2-1と勝利しました。

京都が90分間のハイプレスを実現できた背景には、コロナ禍以来定着した5人交代と飲水タイムがあります。京都はハーフタイムに2人を交代。70分にいったん息切れしかけましたがそこで3人を代えています。もともとハイプレス志向でスタミナもあったのでしょうが、交代と飲水の活用で90分間の強度を維持することも可能だとわかった試合でした。

浦和、鹿島、名古屋が上位なのは偶然ではない? 

主に交代を活用することでハイプレスの持続時間を延ばしやすくなったとはいえ、60分問題を解決するのはやはり難しいのが現状です。ハイプレスの強度が落ちた後の戦い方を持っていないと、かつてのイングランドのように息切れを狙われることになってしまいます。ハイプレス志向のチームほど体力を消耗してしまうので、ハイプレスが効く時間帯とその後で落差が大きくなってしまいがちでもあります。

夏の中断明けからの柏レイソルは4-4-2のコンパクトなミドルプレスが奏功しています。

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