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WEリーグに「ヒト・モノ・カネ・情報」は集まるか? KPMGコンサルティングが「ソーシャルインパクトパートナー」に就任した狙いと女性活躍社会の可能性

日本社会の未来 を見つめ、女子サッカー・WEリーグの価値の顕在化を探る

WEリーグのピッチを眺めたとき、多くの人が日常生活であまり目にしたことのないロゴが白抜きされた青い看板にお気づきの人も多いと思います。その看板には「KPMG」という4文字。

KPMGは、世界4大会計事務所(Big 4)の一角として、143の国と地域に27万3千人以上を擁するプロフェッショナルファームのグローバルネットワークで、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野でサービスを提供しています。2023年11月、KPMGの日本におけるメンバーファームの一員であるKPMGコンサルティング株式会社(以下、KPMGコンサルティング)がWEリーグ「ソーシャルインパクトパートナー」に就任しました。KPMGコンサルティングはWEリーグと、いわゆるスポンサーシップ契約をしているためピッチサイドに看板が設置されています。

青い看板の前で繰り広げられる両チームの激突 写真提供:WEリーグ  TOP画像も

WEリーグが「女性活躍社会を牽引する強力なエンジン」となることで変わる社会

「ソーシャルインパクトパートナー」とは、どのようなパートナーなのでしょうか。KPMGコンサルティングは、今回の取り組みを通してWEリーグと「女性活躍社会を牽引する強力なエンジンとして社会変革を実現していく」と発表しています。「女性活躍社会を牽引する強力なエンジン」とは何なのでしょうか。KPMGコンサルティングの本社を訪ね、その基本からお聞きしました。

物質的な価値に頼らない新しい産業が社会に求められている

今回の取材に対応していただいた執行役員の佐渡誠さんはビジネスイノベーションユニット統轄パートナーとして多くのプロジェクトをリードしてきました。湘南ベルマーレとのアライアンスや沖縄県名護市との「スマートシティ名護モデル」推進など、社会価値創造を仕掛ける多数のプロジェクトを牽引しています。また、プライベートでは少年サッカーチームの代表を務めています。

KPMGコンサルティング株式会社 執行役員 ビジネスイノベーションユニット統轄パートナー 佐渡誠さん

「スポーツというものの位置づけが変わってきました。国がスポーツを成長産業化していく方針を打ち出しています。ですから、我々も(産業として)スポーツと向き合っていこうと考えています。」

佐渡さんとの会話で、まず気がついたのは「産業」というキーワードの使用です。スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画(令和4年3月25日)で総合的かつ計画的に取り組む施策としてスポーツの成長産業化を掲げました。国の方針としてスポーツ市場規模 5.5兆円を2025 年 までに 15兆円に拡大することを目指しています。

なぜ、「スポーツを成長産業化していく」ことが必要なのか?

選手視点やファン・サポーター視点でスポーツと付き合うと、国が「スポーツを成長産業化していく」という方針の理由や意義を感じ取りにくいと思います。なぜ、成長産業化は必要なのでしょうか。そんな疑問から佐渡さんに質問してみました。

「今のように物質的繁栄を続けている状況であれば、企業はプロボノ(仕事で培った専門的なスキル・経験等をボランティアとして提供し社会課題の解決に成果をもたらすこと)活動やCSR(企業の社会的責任、環境や次世代への配慮)活動などを行い、社会がより豊かになるよう働きかけることがよいのではないかと思います。しかし、2030年、2050年といった、より不確実性が高まる時代を見据えた場合、この先の日本が物質的な幸せだけで満たされるような社会が続くとは思えません。だから、次の世代のために、今、ここで物質的な価値に頼らない新しい産業を育てなければなりません。その一つがスポーツの成長産業化であり、スポーツの場における女性の活躍だと思います。だから、我々の仕事は新しい成長産業に自然とお金が集まる仕組みを作ることにこだわりたいのです。」

スポーツが共創型プラットフォームを作ることで生まれる効果とは

佐渡さんが統轄するビジネスイノベーションユニットでは日本の未来を考え、街づくり、人づくり、その手段としてのテクノロジー活用を進めています。KPMGコンサルティング がWEリーグとどのようなアクションを起こそうとしているのか、それを理解するための材料を先行事例に求めました。その事例とは、湘南ベルマーレと立ち上げた「地域共創型デジタルプラットフォーム」です。

「地域共創型デジタルプラットフォーム」は、湘南ベルマーレの「デジタルイノベーションパートナー」であるKPMGコンサルティングの支援により構築・運用されているのです。

「湘南地区の課題解決カンパニー」になることを目指す湘南ベルマーレ

「地域共創型デジタルプラットフォーム」は2023年6月に本格稼働を開始しました。このプラットフォームにより湘南ベルマーレのホームタウンである9市11町の企業や自治体、大学等がSDGsをテーマに連携できるようになっています。

湘南ベルマーレのホームタウンは、相模湾に面した、いわゆる湘南だけではありません。伊豆半島に接する湯河原町、神奈川県央地区の物流拠点として知られる厚木市、丹沢湖と丹沢山地に抱かれた山北町、金太郎伝説の故郷である南足柄市も含まれます。いわば、歴史的にも地理的にも特別に強い関係ではなかった9市11町が、湘南ベルマーレのホームタウンという共通項から広域で連携できる環境にあるのです。その関係は「地域共創型デジタルプラットフォーム」により、一段と有機的になりました。

例えば「地域共創型デジタルプラットフォーム」を活用して「湘南Wellmareプロジェクト熱中症共創アクション」に参加する企業の募集が行われました。これは、環境省が後援する事業で、参加する企業には、1万人規模の検証データの取得、様々な企業とのマッチング機会、スポーツチームを活用したPRブランディング・マーケティング効果、専門家からのレクチャー等、特別な価値が提供されています。

企業や自治体、大学がいつでもアクセスして出会い、企画や情報を得られるデジタル・プラットフォームを提供すること、そして、湘南ベルマーレに関わる人材や団体を共有することで、湘南ベルマーレは「湘南地区の課題解決カンパニー」になることを目指しています。

「地域共創型デジタルプラットフォーム」https://bellmare-sdgs-platform.jp/ の考え方 提供:KPMGコンサルティング株式会社

WEリーグもプラットフォーマーとして活動できるはず

WEリーグが「ソーシャルインパクトパートナー」の力を借りて、同じような共創型プラットフォームを作るとしたら、そのテーマは女性活躍になるでしょう。

佐渡さんは、週末にWEリーグの試合が開催されるスタジアム自体がプラットフォームであり、さらに、これからデジタルプラットフォームを立ち上げたいと考えています。

「様々な業界・分野の人が集まる場所にしたいと思っています。サッカーに直接関わる人だけではなく、日本社会の抱える問題や、女性活躍社会の実現をどうにかしたい人も、このプラットフォームに集めたいのです。そこで接点を持った人が、例えば『上場企業で女性管理職が増えない理由を議論する』ことがあっても良いと思います。なぜなら、そうした思いを持った人が一堂に集まる場が日本には不足しているからです。(4点ある)WEリーグの設立意義の1つが『日本の女性活躍社会を牽引する。』なのですから、そのプラットフォーマーとして活動できると思います。」

WEリーグが持っているであろう価値は社会課題を解決する新たなビジネスチャンスを生み出す

プロスポーツと関わりたい経営者はたくさんいる

佐渡さんは湘南ベルマーレの「デジタルイノベーションパートナー」としての活動を通じて「湘南ベルマーレの社会連携活動に参加したいと考えている企業経営者は非常に多いのではないか」と感じました。社会価値の創造、ESG/サステナビリティ教育、若者を支援したい……。そうした人たちの活動予算を集めれば、大きなパワーが生まれるはずです。

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