WE Love 女子サッカーマガジン

なでしこジャパンの明暗 千葉選手と宮澤選手が表情を緩めたとき、池田監督と田嶋会長が険しい表情を見せたとき 女子ワールドカップ・メンバー発表

FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド2023を戦う23人が発表になりました。なでしこジャパン メンバー発表会見に臨んだ池田太監督は、手元のメモに目を落とし、間合いを空け前を向き、一人ずつ同じトーンで選手の名前を読み上げていきました。千葉玲海菜選手(千葉L)の名前が呼ばれたとき、会場がかすかにざわついたように感じました。

各地で記者会見が行われた2023年6月13日(火) 

13時からのなでしこジャパン メンバー発表会見の後に、メンバーに選出された選手が所属する各チームが記者会見をセットしています。出席を希望するメディアの取材者はあらかじめ登録フォームで参加を申請しています。

夕方のニュース番組に間に合うように記者会見を行うため、各チームの記者会見の開催時間は重複します。筆者はマイナビ仙台レディースの記者会見にリモート参加を申請。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの会見に出席を申請。他の関東圏のチームの記者会見への出席を断念していました。

千葉玲海菜選手(千葉L)

全ての取材を終えたのは18時頃。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの記者会見は千葉市内のクラブハウスで行われ、幸せな空気に包まれました。2022年9月のトレーニングマッチで右膝前十字靱帯損傷による全治8カ月の大けがを負った千葉選手がギリギリで滑り込みの代表復帰。会場にチームメイトがサプライズ乱入し、笑顔で祝福したからです。故郷の福島県からもメディアが取材に駆けつけました。高校時代(藤枝順心高校)を過ごした静岡県のメディアはリモートで質問しました。その前の時間帯に仙台市で行われたマイナビ仙台レディースの記者会見も和やかな雰囲気でした。会場に詰めかけた地元メディアの質問に対し、宮澤ひなた選手が丁寧に答えました。

逆に重苦しい空気に包まれたのが、日本サッカー協会が千葉市内のホテルで行ったなでしこジャパン メンバー発表会見でした。中継された動画から、読者の皆さんは何を感じ取ったでしょうか。今回のWE Love 女子サッカーマガジンは「なでしこジャパン FIFA女子ワールドカップ・メンバー発表の日」をお伝えします。

地元メディアからの祝福と期待が伝わったマイナビ仙台レディースの記者会見

池田監督がメンバーを読み上げてから約40分後の14時過ぎにマイナビ仙台レディースの記者会見が始まりました。メンバー発表の緊張をほぐすために愛犬と一緒に中継を見ていたという宮澤選手は笑顔で話し始めました。

宮澤ひなた選手(マイ仙台)

「選んでもらった以上、ワールドカップという舞台で、しっかり活躍することが自分にできることだと思うので、良い準備をしていきたいと思っています。」

地元、仙台のメディアからの質問は、なでしこジャパン(日本女子代表)が開催地のニュージーランドに旅立つ前日にあたる7月14日(金)にユアテックスタジアム仙台で開催されるM SA Dカップ2023・パナマ女子代表戦にまで及びました。地元チームのスター選手の活躍に期待が膨らみます。宮澤選手は試合への抱負を、これもやわらなか笑顔で語りました。

「いつもと違うユニフォームを着て、この仙台で戦えるのはすごく嬉しいです。マイナビ仙台レディースで戦っているときとは違う自分を見せられたらと思います。フォワードとして、海外の選手を相手に、どのように戦うかを見てほしいと思っています。」

そして、仙台の街と所属チームへの感謝を口にしました。

「本来の自分を思い出させてくれたのがマイナビ仙台レディースだと思います。」

宮澤選手にとって仙台は「昔の感覚というか、自分でこういうプレー好きだった、こういう感覚だなと思い出させてくれた場所」でした。これまで、アンダー年代の女子代表ではワールドカップを戦ってきましたが、仙台で取り戻した「宮澤ひなたらしさ」を武器に、初めてフル代表(五輪・W杯)の大会で世界に挑みます。

「千葉から世界へ」ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの記者会見

マイナビ仙台レディースの記者会見から約2時間30分後にジェフユナイテッド市原・千葉レディースの記者会見が始まりました。千葉選手は静かに抱負を語りました。

「数え切れない人たちの支えがあってサッカーをできていることを忘れずに、そして感謝の気持ちを忘れずに、自分らしく全力で戦っていきたいと思っています。」

ホワイトボードには今田紗良選手が描いた祝福のメッセージ 

千葉選手は長く戦列を離れていましたが、池田監督は「ダイナミックな動き」に期待し、最終メンバーに加えました。2022年7月に開催されたEAFF E1サッカー選手権2022決勝大会以来です。この大会で、なでしこジャパン(日本女子代表)は球際厳しくボールを奪い、すぐに長めのパスでディフェンスラインの裏を狙うプレーを多用しました。特に中国女子代表戦ではパスの距離が長く、スピードは速く。前線の3選手がスペースに勢いよく走り込み、アグレッシブな攻撃を展開。世界標準に近づくチームづくりを初めて明確に示すことができた試合となりました。

この試合で大活躍したのが千葉選手と高橋はな選手(浦和)でした。高橋選手も、千葉選手と同様に右膝前十字靭帯を損傷し全治8ヶ月と診断され戦列を離れていました。リハビリを終え、今年に入って出場したのは3日前の6月10日に行われた2022−23 YogiboWEリーグ最終節のみですが、池田監督の口から高橋選手の名前が読み上げられました。

千葉選手は、高橋選手について、このように話しています。

「お互い、リハビリ期間中に近状報告をしあった仲間です。(高橋)はなもメンバーにいることが本当に嬉しいです。一緒に頑張りたいと思っています。」

長期離脱が初めてだった千葉選手にとって、2022−23シーズンは辛い日々の積み重ねでした。

「怪我をしたときは正直『そのタイミングでか』と、悔しい思いもありましたが、ネガティブになっていても時間がもったいない。周りにポジティブな方が多かったので、それにつられて『自分もこの期間で何か得られるものが絶対にある』と信じてやれたと思います。(左膝前十字靱帯損傷で全治10ヶ月だった)林香奈絵キャプテンが一緒に同じリハビリをしていて、温かい言葉や前向きな言葉をかけてくれたり背中で見せてくれたりして、本来は辛いリハビリも辛いと思わないものに変わっていきました。香奈絵さんには、いつも感謝しています。思い通りにいかないことがあっても、リハビリ中のことを思いだせばへっちゃらだと思います。リハビリの間は自分のサッカー人生の中で大切な時間でした。」

記者会見後には千葉選手を支えたメディカルスタッフ、トレーナーも祝福のために姿を見せた

緊張気味の千葉選手の表情が一気に緩んだのは、記者会見終了後の会場に勢いよくチームメイトが流れ込んできたときです。手書きのTシャツ姿が並ぶと「祝W杯 千葉から世界へ」というメッセージ。大声で叫び、歌い、踊って、苦しいリハビリをやり遂げメンバー入りした千葉選手を祝福しました。その中の一人が林選手でした。

「本当に、リハビリからやれることは全部やってきたので、心から応援しています。頑張ってね。」

「チームメイトには感謝しても感謝しきれないくらい」と話す千葉選手は千葉から世界へ、自分の特徴を生かして羽ばたきます。

乱入したチームメイトによる祝福

対照的に強い緊張が張り詰めた日本サッカー協会のメンバー発表会見

時計の針を13時に戻します。筆者は、これまでいくつもの代表メンバー発表会見に出席してきましたが、FIFA女子ワールドカップメンバーのメンバー発表会見は、これまでと全く雰囲気が異なります。通常の代表メンバー発表記者会見が「このメンバーで戦います!」という明るく未来志向の空気に包まれるのに対し、苦渋の選択と選ばれなかったメンバーへの思いが、強く重苦しい雰囲気を作ります。

田嶋幸三会長の手元のメモの裏側には「夢への勇気を。」

会見の冒頭で「今日、いろいろなサプライズをいただけるのかなと楽しみにしています」と笑顔で挨拶した日本サッカー協会の会長の田嶋幸三さんですが、下を向き、険しく悲しげな表情になった時間帯がありました。

(残り 2221文字/全文: 5989文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ