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女子アスリートが「なりたい自分」になるために前例がない挑戦へ Next―One代表 十文字学園女子大学 教授 石山隆之さん

十文字学園女子大学教授で十字文高等学校サッカー部総監督(で、サーファーでもある)石山隆之さんが新しい事業を始めました。その名はNext―One(https://next-one.work)。未来を感じさせる名称です。Next―Oneは女性スポーツに関わる学生・実業団選手・プロアスリートはもちろん、監督・コーチ・トレーナー・チーム関係者に至るまで なりたい自分になるための、選択肢を広げるマッチングプラットフォームです。サイトを見ると現役アスリートや、現在は新たな道で活躍する元アスリートたちがアンバサダーとして活動中です。Next―Oneとは何なのか、そして石山さんは何を目指しているのでしょうか。

今回は石山さんに女子アスリートのセカンドキャリア問題について、お話をお聞きしました。

Next―Oneは女子アスリートのセカンドキャリアの問題を解決するマッチング・プラットフォーム

石山隆之さんは育成年代の女子サッカー界を牽引してきました。1996年に女子サッカー部を0から立ち上げ、2016年に十字文高等学校サッカー部を全国高等学校女子サッカー選手権で日本一に。これまでに、年代別を含めのべ40名以上の女子日本代表選手や世代別代表選手を育てています。2022年にはINAC神戸レオネッサの運営会社、アイナックフットボールクラブ株式会社の代表取締役社長の安本卓史さんとの共著『前例がないことをやってみる』を発表。徳間書店から発売中です。石山さんは教育者であり女子サッカー指導者であり、そして起業家ともいえます。

十文字学園女子大学教授、十字文高等学校サッカー部総監督 石山隆之さん 提供:石山隆之さん

女子アスリートのために必要な「送る作業」「磨く作業」「活躍させる作業」

石山女子サッカー指導者として1千人以上の女子サッカー選手を指導してきました。卒業生や引退後の選手が僕のところに「次のキャリア」の相談に来ます。男性アスリートよりも厳しい現実にさらされている彼女たちが、その問題で苦労しているのを見てNext―Oneというセカンドキャリア支援の総合的なプラットフォームを立ち上げました。 

—Next―Oneに登録すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

石山登録するとNext―Oneのキャリアアドバイザーから連絡が入ります。キャリアアドバイザーは、競技中に大きな怪我をしてしまったような、自らのエピソードをお持ちです。ご登録された経歴を拝見し。引退後のお仕事、海外でプレーするための仲介人のことを知りたいといったニーズを把握し、ご相談者が「なりたい自分」になれるようにお手伝いが始まります。きっと、気軽に相談できると思います。

マッチング・プラットフォームとは、どのようなものなのでしょうか?

石山女子アスリートのために「送る作業」「磨く作業」「活躍させる作業」の3つを提供します。「送る作業」が人材紹介業です。ただ「送る」際に、スキルや学歴がないと就職に苦労します。そこで「磨く作業」で学び直しを支援します。日本には、女子サッカー選手をはじめとする女子アスリートが多くを稼げない現実があります。「活躍させる作業」では、現役中でも稼げる、マネタイズできることを整備しています。例えば、ファン・選手・慈善活動3方向の架け橋となる次世代のサプライズ&ソーシャルリターン型コミュニケーションプラットフォーム『heyhey(ヘイヘイ)』とのアライアンスがまとまりました。誕生日、結婚式、新たな人生の出発、大会・試験……ライフイベントに選手からお祝い・応援メッセージ動画が届くサービスです。女子アスリートも、ここに参加することで収入を得ることにつながります。

すでに、たくさんの女子アスリートがNext―Oneのアンバサダーになってくれていますが、こうしたアンバサダーの講演活動もこれから始まります。アンバサダーを応援するスポンサーの獲得もできる会社として、Next―Oneを発展していきたいです。

ご本人も気がついていないご自分の価値を現役時代から企業等にご提供できるようにしていくわけですね?

石山そうですね。そのような場を提供することで、女子アスリートには、ますます活躍してほしいです。

女子アスリートも人との接点を変えていくことで可能性が広がる

セカンドキャリア支援を生業としている企業は他にも存在します。その中でNext―One独自の特徴がどこにあるのかを教えてください。

石山Next―Oneは、女子アスリートに特化したセカンドキャリア支援をしています。男女には年俸の格差があり、その上、性的な対象となったり差別偏見を受けたりしやすいという特徴があります。だから、女子アスリート向けの支援が必要なのです。もう一つの特徴は、ただ仕事の紹介をするだけではなく「なりたい自分」になれるように密に支援していくところです。

男女の違いについては、ずっと女子サッカーの現場に携わってきた指導者としての石山さん、「なりたい自分」については教育者としての石山さん……二つの顔が交わるところが、Next―Oneの起点になっていますね。

石山そうですね。やり続けていかなければならないことなのですが、まだ、ビジネスとして確立できていません。これから広げていきたいです。

サイトの中に気になる一文がありました。「『スポーツの世界でしか活躍できない』『スポーツの世界でしか自分の能力は発揮できない』という思い込み。」……これはどのようなことなのでしょうか?

石山トップアスリートは競技に全身全霊を打ち込んで生きています。それは素晴らしいことですが、そのマイナス面として「その世界しか知らない」という点があります。就職の際に「どうせ私は何もできないと思うから、来たお話を受けるだけ」という考えで「なりたい自分」を諦め、なんとなく流れで就職する、または、特に考えることなく現役時代にお世話になっていた企業で、そのまま働き続けるというケースをよく聞きます。この現状を打破したいです。そのために、女子アスリートも、人との接点を変えていくと良いと思います。その方法として、トップアスリートは、どんどん海外にチャレンジした方が良いと思います。海外での経験、異文化と触れたことが何かの種になります。また、海外ではありませんが、WEリーグで営業現場のサポートをすることも、そうした新しい接点を増やす方法の一つです。

身の丈を目指す人も多いです。でも、それは、これまでの身の回りの丈しか知らないから、それ以上を目指す気持ちが起きないのです。例えば、欧州で「9万人の大観衆を集める女子サッカーの試合」を体験すると自分の価値観の基準が変わります。目指す目標が変わってきます。我々、現場の指導者は、女子アスリートに対して、そうした発想を転換するための啓蒙をしていくことも必要だと思います。

女子アスリートはたくさんの可能性を秘めています。しかし、スポーツに直接関係するセカンドキャリアだけだと選択肢が狭く、その可能性を生かしきれない気もします。いかがでしょうか?

石山その通りだと思います。今、日本はエンジニア不足です。Next―Oneとアライアンスを組んだ会社が「先生、元女子アスリートを送ってください。エンジニアになるために5ヶ月間の研修をするお金は必要ありません。」と、人材育成から就職まで一気貫通でサポートするサービスの声をかけてくれています。日本は少子高齢化社会で人材難ですからチャンスがあります。「やりたい!」と思った女子アスリートは、ぜひ問い合わせしてほしいです。

その企業は、なぜ、エンジニアの世界に元女子アスリートを採用したいのでしょうか?

石山レジリエンス力、粘り強さに期待していそうです。諦めずにやることを評価されています。

アスリートの中には、そうした自身の価値に気がついていない方も多いわけですね。

石山ですから、Next―Oneは、こうした方法でセカンドキャリアの充実をサポートし、ロールモデルを育て発信していきたいです。

日米の大きな差を民間の力で少しでも埋めたい

それからもう一点、サイトに書かれた「欧米に比べ女性アスリートの社会進出のためのインフラが整っておらず、満足なサポートが受けられていない状況」という部分も気になりました。これは具体的にはどのようなことをさすのでしょうか?

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